表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶図書館司書の探偵物語  作者: 吉本アルファ
4/8

第4話 香りの記憶

アリスが再現した人形のおかげで、王子の心にはかすかな光が戻った。彼はまだアリスの顔と名前しか覚えていないが、彼女が運んでくる「香りの記憶」を心待ちにするようになった。


次にアリスが探したのは、「消された料理」の記憶だった。王子の記憶から、彼はある料理をとても楽しみにしていたことが分かった。しかし、その料理に関する記憶は、まるで何者かに切り取られたかのように、ごっそりと失われていた。


アリスは、記憶図書館で「王子の記憶が消された日に作られた料理」に関する記憶を検索した。すると、奇妙なことに、その日の料理の記憶だけが、ごく一部を除いて見つからない。唯一残されていたのは、料理人が使った「ある香辛料」の記憶だった。


『こんな珍しい香辛料、この国では見たことがない。遠い異国から取り寄せたと聞いたが、こんなに少量しか使わないものだろうか…?』


料理人の心の声が、アリスの脳裏に響く。 この香辛料は、この国では流通していない、特殊なものだった。アリスは、その香りを嗅いだ瞬間に、その香辛料が、強い毒性を持つ植物から作られていることを確信した。


毒…? 王子の記憶を消した犯人は、この香辛料を使い、王子に毒を盛ったのだろうか。 しかし、その毒は即効性のない、ゆっくりと記憶を蝕むタイプの毒だった。 犯人は、王子に気づかれることなく、時間をかけて記憶を奪おうとしていたのだ。


アリスは、王子の病室に戻った。彼はまだ衰弱していたが、アリスの姿を見ると、微かに微笑んだ。


「…アリス、また何か、持ってきたのかい?」


「はい。今回は…あなたの記憶を奪ったもの、かもしれません」


アリスは、図書館の植物園で育てられていた、毒性を持つ植物をほんの少しだけ煎じて作ったお茶を、彼に差し出した。 王子は、一口飲むと、眉間にしわを寄せた。


「…この味は…」


王子の瞳が、かすかに揺れた。彼の目の前に、一瞬、鮮烈な光景が広がった。 それは、晩餐会の記憶。王子の前に出された、美しい料理。そして、その料理から、このお茶と同じ香りがしていた。


そして、その料理を差し出した人物の顔が、一瞬だけ、王子の脳裏に焼き付いた。 その人物は、王子の従兄弟であり、王位継承権を持つ公爵家の息子だった。 彼は、王子のことを優しく気遣う、誰からも慕われる人物だったはずだ。


「まさか…」


アリスは息をのんだ。 王子の記憶を消し、王位を狙っていたのは、彼の最も身近にいる、信頼できる人物だった。 その事実に、アリスの背筋に冷たいものが走った。


王子はまだ、その人物が誰であるかまでは思い出していない。だが、アリスは確信した。 この人物が、この物語の真犯人だと。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ