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ご近所

「ごちそう様でした。」


スフィア様が落ち着いたところで、僕達は夕飯を済ませました。


「お皿くらい洗えます。」


(………本当かな?)


確かに悔しくなる気持ちも分からなくはないですが、なかなかいませんよ。5枚のお皿のうち3枚割る人なんて。


いやいや。滑るようにする細工なんかしてませんよ。皿の裏見ても何も変わりませんから!


お姫様に家事をさせた僕が悪いんです。


結果は散々。でもいつものスフィア様に戻ってくれたから3枚の割れた皿も浮かばれるだろう。


「え?湯浴みができませんの!」


僕は貴族ではないのですから、家の中にお風呂場があるわけがないでしょう。


一応、外に薪風呂はありますけど、こんなに雨が強い時は使用できません。


だから、今日は風呂なしです。


シルフィさんは自分の衣服の臭いをきにしていた。何度も襟を摑んで臭い確認をする。


どうして僕がスフィア様の臭いを確認しないといけないのですか。


18年生きてきてお風呂なしは初めてだから困ると言われても、平民はこれくらい普通なんです。実際、薪風呂がない家の方が多いくらいなんですから。


「不便ね…」


「何をしているんですか!」


慌てふためく僕にスフィア様は理不尽な事を告げました。


……お風呂がなければ、この部屋をお風呂にしなさい。


雨漏り、隙間風。そんな部屋にお湯が溜まるわけがないでしょう。


部屋に水をまき散らす彼女。

この大胆な行動が姫様らしくて愛おしい。

そう思えるほどの器が僕にはありません。


何とかスフィア様の暴挙を抑えることはできましたが、

部屋は雨漏り以上の水浸しになりました。


これは…もう寝るしかありません。


「一緒に寝るのですか?」


確かに気にするのはそこですよね。僕も思いました。

異性と寝床を共にしたことは僕はありません。


「まぁ。マークなら大丈夫です。」


「いや、僕は無理です。」


スフィア様の心の病を刺激するのは良くない。

真面目に考えたらその答えになる。

同年代の異性として答えたら、僕が変な事を期待してしまう。

そして、立場を考えたら姫様と寝床を共にした不届き者の平民は、簡単に首が飛ぶ。


だから僕は無理だった。


結果は、スフィア様の壁役を任命された。

木製の年季が入った古ベッドの端で横になる僕。その隣りで寝ていたのはスフィア様。


決してこれは添い寝ではない。

僕は彼女が寝返りでベッドから落ちないようにする壁役なんだ。


………だから罪にはならない……痛い!


朝方、僕はベッドから落ちた際の衝撃で目が覚めた。

窓からは晴れ渡る空が見える。そして聴き慣れた鳥のさえずり。


嵐は去りました。


スフィア様がベッドの上から瞼を擦り僕を覗いています。


良かった。彼女はしっかり眠れたようだ。


「また、来ますわ。」


「ほどほどでお願いします。」


スフィア様は、馬に跨り城へ戻っていった。

僕としては朝帰り姫様の口から僕と一夜を共にした発言が出ない事を祈るばかりだ。


(ふう。嵐が二つ去ったから畑を見てこよう。)


やはり自然の力は恐ろしい。

収穫前の麦は地面に力なく倒れ、他の野菜畑は水浸しだった。


これでは、収穫がままならない。

税金分で後は手元には何も残らないだろうな。


両親の真似事で初めた農業だけど1年目から自然の脅威に負けてしまいました。


「剣ばかり振らないで、畑の手伝いをしなさい。」


確かに母さんが言っていた通りだ。この荒れ果てた畑に僕の剣は役に立ちそうにはないから。


そして、嵐は直ぐに戻ってきた。

しかも前回より勢力を増して来ました。


「なるほど。なるほど。こちらですか。」


あの人は確か…あ。姫様の執事長のバトラ様だ。相変わらず背筋が伸びていて制服が似合う御人だ。


「のどかで、心が落ち着きますなぁ。」


「そうなのよ。わかる。わかるでしょ!」


どうやらスフィア様は朝方に帰って昼過ぎには僕の家に従者達を引き連れて戻ってきた。


本当に何がしたいのか分からない。


「ここから…そうですわね。…この辺りまでで私の御用邸を建てたいのです。」


「素晴らしい。素晴らしい案です。」


ちょっと待ってください。今、畑被害で頭が痛いのですが、スフィア様の別荘を僕の家の隣りに建てるといっているのでしょうか?


「ここは本当に落ち着きますの。」


シルフィ様には真顔で言えないから、僕は背を向けて呟いてしまった。


(僕が落ち着けない!)


「バトラ。私の好みはおわかりね。後はよろしく。私はご近所さんに、ご挨拶します。」


ご近所は畑のだいぶ奥の家が一番近いのだけど、スフィア様がわざわざご挨拶に赴いたら驚くだろうな。


「隣り越して来ましたスフィア・ハルマディアです。よろしくお願い致します。」


「僕がご近所さんか!」


「さあお茶をしましょう。私、疲れましたの。」


朝方、家を出ていって昼過ぎにまた家にいるスフィア様。なんだろう…完全に主導権を握られています。


外でバトラさんと他の従者の方々が、色々調べている。

まさか、彼らが別荘を建てるんじゃないよな。


そして、スフィア様がどういうつもりでこんな事をしているのか、ご近所の僕は確認しなければならなかった。

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