刃物
「いいですよ。座ってください。」
今日は悪天候の為。第一王女スフィア様が僕の家に泊まる運びになりました。
こんな雨漏りがするボロ家に王女がいたら誰でも驚くだろう。
しかも、妙に出しゃばりが強いし。
僕は何時も雨漏りがする部屋の片隅に樽を設置した。いつも後回しにして屋根の修理をしていないから忘れた頃に、また雨漏りが発生する。
お野菜の泥を洗い流して切るだけなら私にもできます。
……本当かな?
(なんで洗うだけで、野菜の芯しか残らないんだ。)
野菜を洗う。スフィア様が同じ事をすると、野菜の皮剥いで芯だけ残すに変わってしまう。
よりによって一番美味い所を全て捨ててしまうとは予想外だった。
これで包丁を握ったら何が起こるんだろうか。
…………
………………なさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。…ごめんなさい。
スフィア様が突然包丁を見ながら謝りだした。
別に調理方法を間違えたわけではない。
…マーク…ごめんなさい。
(まだ。克服できないんですね。)
僕は震えながら包丁を握る手を掴み、大丈夫大丈夫と言いながら、ゆっくり指を離していきました。
包丁は床に落ち、スフィア様は身を守るように手を握り謝りながら震えていた。
「僕は大丈夫ですからスフィア様。」
「だって。私が貴方の目を…」
僕は大丈夫と言いながら怯えるスフィア様を抱き寄せました。いやらしい気持ちは全くありません。
たぶん…今はこれがスフィア様が一番落ち着ける方法だと思ったからです。
「椅子に座りましょう。」
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
僕が傍にいると嫌ですか?
意地悪っぽい質問ですがスフィア様には良い落ち着かせかたなんです。
こうなったスフィア様は僕の言葉しか信用しなくなるからです。
心的外傷障害。
これがスフィア様が抱えている病なんです。
二年前…公務後にスフィア様が失踪しました。目撃情報で敵対国のジュガート帝国の手の者達の拉致だとわかりました。
騎士団は総出でスフィア様を探し北の廃墟にいることが判明しました。
しかし騎士団は各部隊が集まる前に廃墟にスフィア様を奪還する為に突撃したのです。
帝国の手の者は噂に聴いていた暗殺集団【闇夜の牙】でした。頭のリュグロは騎士団の手配書ではS級の悪人。
僕は2番隊の遊撃隊隊長として廃墟に先陣を切りました。
平民から隊長格になれたのは僕だけなんです。しかも二年で最短出世でした。
だから、何処か慢心な気持ちがあったかもしれません。
闇夜の牙の暗殺者達を僕は斬り伏せ、リュグロの部屋に雪崩れ込みました。
そして、裸で縄に縛られた屈辱的な姿の彼女を発見したのです。辱めと暴力。彼女は自分の唇を噛み血を流し暴力に耐えていました。
強姦を受けても泣き叫ぶのを我慢した彼女を見た時、僕は剣を抜き、リュグロ達に斬りかかりました。
僕の剣術が通用するか?
そんなことはどうでも良かった。
早く彼女を助ける。
ただそれだけの為の剣でした。
配下の腹を裂き、腕を飛ばし、胸を刺し…後はリュグロの首を取るだけ。
しかし、彼も闇夜の牙の頭。今までの模擬戦とはわけが違いました。でも僕の剣術が彼の暗殺術を上回りました。
これで後続の味方がくれば安泰だったんですが、僕は部屋の扉を閉めて鍵をかけました。
理由は仲間であれどスフィア様の今を見せるわけにはいかないと思ったからです。
彼女は国の上に立つ人だから。
リュグロが息絶えるのを確認し僕はスフィア様を縛る縄を斬りました。
そして彼女を抱きかかえ終わった事を伝えました。
しかし彼女は自我を保てなく錯乱し暴れました。だから僕は彼女を抱きしめ…
何度も大丈夫と伝えたんです。
彼女は敵に抵抗したのです。僕にではないのです。
僕の目に刺さった短剣を見て彼女は涙を流して叫びました。
でも彼女を救えた僕は何の悔いもありません。
「落ち着きましたかスフィア様。」
椅子に座り小さく頷いてくれたスフィア様。
こんな時は彼女の好きな話しをするのが一番の薬です。
「僕は好きな人がいます。誰にも言わないですけど。」
「…言わないと税金増やすかも。」
「じゃあ。隣国に引っ越そうかな。」
「関所とめる!」
「あ〜怖い怖い。」
スフィア様は恋がしたいけど、あの経験で踏み出せない。だから僕の所まで来て自分の罪悪感を薄めようと僕の顔色を見ている。
僕はそう思っています。
だから、僕は自然体で彼女に接します。彼女自身が僕が気にしていないことに気がつくまで。
本当は性格のせいじゃなくて僕なんですよね。
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