第1話『地球を脱出したら、村娘に拾われた件』
——土の匂いがした。
乾いてる。でもどこか甘くて、生きている匂いだった。
目を開ける。眩しい。
空が広い。やけに澄んでて、濃い青だった。
……違う。
これは、地球の空じゃない。光の感じが違う。
重力も、空気の密度も、微妙にズレてる気がする。
(……マジで、来ちまったのか)
体を起こそうとするけど、全身が重くて、背中に痛みが走った。
喉はカラカラ、口の中は鉄みたいな味がして、最悪のコンディションだ。
それでも、意識ははっきりしてた。俺は生きてる。
ワープポッドの起動。発射の衝撃。崩れていく都市。沈黙するAI。
……全部、昨日のことだ。
生き延びるために逃げ出したあのポッドは、どこかに俺を送り出した。
ただの賭けだったのに、どうやら当たりを引いたらしい。
「ひ、人……!?」
いきなり、近くで少女の声がした。
反射的に体が跳ねそうになったが、今の俺じゃ逃げも隠れもできない。
「え、なにこの服、金属? でも息してる……生きてる!? 喋った!?」
少女は草を抱えてて、泥のついた服で、こっちをのぞき込んでいた。
栗色の髪、緑の瞳。十代半ばくらい。言葉は聞き取れる。少し訛ってるが、意味は通じた。
「……ここは、どこだ」
掠れた声でそう訊ねると、少女の目が丸くなった。
そして次の瞬間、爆発するみたいに叫んだ。
「通じた!? 言葉通じた!? すごい、やばい、ちょっと待ってて! いま人呼んでくるから!!」
彼女は草をばらまいたまま、全速力でどこかへ走っていった。
……なんだったんだ、今の。
あまりに唐突すぎて、ツッコむ気力すら出ない。
でも——言葉が通じた。それは、救いだった。
空を見上げる。風が、静かに吹いている。
(地球とは、全然違うな……)
静かすぎて、逆に落ち着かない。
AIの監視も、無機質な機械音もない。
代わりにあるのは、草の音と、風の匂いだけ。
「……これが、別の星か」
声に出すと、ほんの少し、現実味が増した気がした。
次に意識がはっきりしたとき、俺は担架の上だった。
何人かの村人らしき連中が、俺を運んでいた。
木と草で編まれた道具。装備も、質素な布と革。
周囲の言葉は、少女のと同じ言語。少し違うが、聞き取れる。
「人間だよな」「生きてるぞ」「祈祷師様に判断を仰ぐべきだな」
ひそひそと声が飛び交っていた。
聞こえてないと思ってるのか、それとも……。
何より、視線が痛い。
観察されてる。分類されてる。
地球でもそうだった。ドローンのレンズに囲まれて、評価されて、数値で判断された。
——ここでも、同じか。
木造の門をくぐった瞬間、空気が変わった。
風が止んだわけじゃない。けれど、人の生活の匂いが混じった。
焚き火の煙、干した野菜、土を湿らせる水の匂い。どれも新鮮で、懐かしくて、でも俺には知らない匂いだった。
石畳じゃない。踏みしめるのは乾いた土。
轍の跡がある。牛車か何かが通ったのか、車輪の幅が妙に広い。
家は粗い木と石で組まれていた。歪んでるけど、頑丈そうだ。
窓から人影がのぞく。
通りを掃除していた子どもが、じっと俺を見て動かなくなった。
誰も声はかけてこない。ただ、すれ違うたびに視線が刺さる。
「異邦の者だ」「神の使いか?」「あれが……人か?」
囁き声は消えず、俺の周囲をぐるぐる回っていた。
意味はわかる。でも、あえて無視した。
俺を運ぶ担架の揺れが、だんだんゆっくりになる。
運んでる男たちは無言だった。俺とは目を合わせようとしない。
彼らの靴音が、乾いた土に吸い込まれていく。
建物の影に入った。
石壁に囲まれた小さな納屋だった。物置か、家畜の小屋を片付けたような場所。
担架がゆっくりと降ろされる。
誰かが藁を敷いた簡易ベッドを手早く整えていた。
「ここが、今夜の寝床だそうだ」
短くそう告げられ、俺はうなずいた。
椅子もない、布団もない。藁と板切れと、古びた木壁だけ。
でも、屋根があるだけで十分すぎる。
目を上げると、隙間から星が覗いていた。
知らない星だ。知らない夜だ。
でも、やけに近くて、やけに静かだった。
俺は、その静けさに耳を澄ませながら、体を横たえた。
風の音しか聞こえない。何も鳴らない夜。
それだけで、息がしやすい。
——けど、安心してる場合じゃない。
俺は、地球から逃げ出してきた。
生き延びるために、選んだ道だった。
でも、生き残った“だけ”じゃ、意味がない。
この世界で、俺は何をするべきなのか。何を残せるのか。
「……まだ、終わってねぇな」
誰に聞かせるでもなく呟いた言葉が、夜の空気にすっと溶けていった。
はじめまして。
ごまと申します。
魔王に転生した元勇者の執筆を先日開始したばかりですが、同時にこちらも執筆を始めようと思います。
どちらの作品もAIを使用した執筆になっているので読んでいただいた方のフィードバックをいただければより良いものに成長させることが出来ると思います!
読者の皆様と一緒に作品を作れたらうれしいと思いますので、レビュー・感想お待ちしております!