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第4話 イケメン作家の優作

 丁度、家を出た時だった。

 目の前にイケメンが立っていた。

 優作が湊の部屋のインターホンを押そうとしていた。

 彼は湊の同期の作家であり、親友であり、ライバルでもある。

 こうして高い頻度で湊の家に遊びに来るのだが――


「うわ、どうしたんですか」

「うわって酷いな、猫子君」

「あ、すいません。本心から出た言葉なので、言っている事すら気づきませんでした」


 この二人が喧嘩っ早いのだ。


「猫子、頼むから喧嘩しないでくれ。ところで今からファミレス行くけど優作も行くか?」


 猫子を宥めつつ、湊は優作をランチに誘う。


「ん~、行こうかな」

「シャ~~!」


 と猫子は威嚇モードに入ってしまった。

 こうなれば、彼女を止められる人はもう、この世には……。


「じゃあ、一応アイツにも声かけとくか」


 アイツと言うのは勿論、天音のことだ。


「あ、いいよ、天音ちゃんにはオレが声を掛けておくから」

「そうか? ならよろしく」


 天音からも「私も行く」という返事を受けとったので、三人は彼女の大学の近くにあるファミレスに向かった。

 また歩き続け、席に着き、数分が経過しようとした頃。


「遅くなったわ。ごめんなさい~」


 と、天音が来た。

 湊はずっと前から考えていた展開をパソコンにアウトプットしていて、彼女が来たことに気付いていなかった。

 ぱたっ

 天音によって、ノートパソコンが湊の手を食べるように閉じられ、そこでようやくと気付く。


「……おお、天音か。遅かったな」

「凄い集中力ね」

「そうか? これくらい普通だと思うぞ」

「そうなの?」


 と天音は二人に聞く。


「ん~、作家によるけど、確かに湊の集中力とか切り替えとかは凄いと思うよ」

「そうですね、私も結構のめり込んじゃうことが多いですね」

「へー」


 天音が関心そうに相槌を打つ。

 すると、


「ぐう~ぐるぐるぐる、きゅう~~~」


 盛大に湊のお腹が鳴った。

 三人が黙って湊の方を見る。


「今、凄いのを鳴らしましたよね?」と猫子。

「うん、鳴らしたね」と天音。

「お、俺もお腹へってるし」と噴き出すのを必死に我慢しながら優作。


 湊の頬に朱が差し、


「べ、別にこれくらい普通だろ! 生理現象だ」


 腹いせにベルを鳴らし、店員を呼ぶ。


「ちょっと私まだ注文決まってないけど⁉」


 天音には怒られたが仕方がない。

 注文を終え、十数分が過ぎ、注文が届き、机上が皿で埋め尽くされる。


「ん~、美味しそうな香りですね!」

「そうね」


 確かに香ばしい香りが鼻孔を擽る。

 湊はお腹が叫び出さないように監視しつつ、箸を持った。


「「「いただきます」」」


 各々言って、料理に舌鼓を打ち始める。


「そうだ。今日担当に呼び出されて知らされたんだけど、『ファンタジア・ワールド・ミステイク』がアニメ化決まったわ」


 優作は無感情を装い、言った。

 しかし淡々と語るには、勿体ない言葉だ。

 もっと喜んで欲しいと思いつつも、その原因を湊は推論する。

 昨今、所謂アニメブームが急速化し多くのアニメが姿を現し始めた。

 だが多くのアニメが作成される分、安っぽい映像もまた多く現れ始めた。

 アニメ化が決定したものの、アニメで盛大に失敗し、原作自体に仕方のない誹謗中傷が溢れかえる、なんてことも無きにしも非ず。

 そんな不安がどうしても懸念事項として引っかかり頭から離れないのだろう。

 勿論、作家は書くことが仕事だからと割り切ってしまえばいいものの、自分が時間や労力、そして愛情を込めて作った作品だから、中々そうは出来ないのだ。

 本もアニメも、全てに成功を導くのが原作者としての務めだろう。

 実際、湊はそう思っている。


「お、おめでとう! だが、クッ……! 早くSNSで宣伝して、先に知れたぜ! これぞ原作者たちの利点! とかって呟きたい!」

「ぜ、絶対にやめろよ⁉ 猫子君も、本当にお願いするよ」

「さすがにそんな事はしませんよ。それに私SNSやってませんし、宣伝できる友人は片手で数えるほどしかいませんし」


 猫子が密かに瞳に闇を抱えた一方で、優作はおもむろに安堵した。


「なに、映像化されるってこと?」

「うん。そうだよ、天音ちゃん」


 あまりソッチ系の情報に詳しくないのだとしても、二人の反応を見て、天音は凄いのだと感じ取った。


「凄いですね、優作さん」

「あ、ありがとう」


 窓を見ると、空が雨模様になっていた。


「優作、天気見てみろ」

「おい! 今後の展開に不安要素を持ち込むな! それに天気は今朝から悪かっただろう」


 だからこそだろう。

 そんなことを言わずとも、湊は優作の不安そうな表情に同情した。

 それは、本心から優作のことを凄いと思い、期待と不安を共に享受した証拠であろう。

 食事を終え、防水の鞄にノートパソコンを入れ、代金は男子二人で割り勘して店を出た。

 ちなみにその際、


「いいわよ、別に自分の分くらい払えるし」

「先輩! カッコいいです! でもここは私が払いますよ~?」


 と嫌みなく言ってくれ、湊は賛成しようとした。

 だが優作が耳打ちで、


「この前の話、覚えてるか?」


 忘れていた出来事を湊は思い出し、


「ああ、そうだったな」


 と、賛成を示唆する前に、湊は口を閉じた。


「ここは男子二人で奢らせてもらうよ」


 と優作はかっこつけることが出来たのだった。

 店を出て……


「うわ~、降りそうね。私もう大学戻るから、じゃあね、三人とも。楽しかったわ」

「はい、さよならです! 天姉あまねーさん! ……ってことで、私は出版社に直行しますね」

「俺もそうするわ」


 結果、湊は一人で帰路に就くことになった。

 途中、雨が酷く降ってきたので、湊は途中にあったカフェに寄り、雨脚が弱まるまで未完成の原稿に手を付けることにした。

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