私は托卵女の妹 ~私は姉の尻拭いをさせられた~
私、朝霧未来は16歳の女子高生。
私の年の離れた姉は、すでに結婚している。
しかし、ある日とんでもない事件が起こった。
姉の不倫、そして托卵が発覚したのだ。
そして、その尻拭いは、私に回って来た。
「お父さん。何かあったの?」
学校から帰った後、私、朝霧 未来はお父さんに呼ばれた。
そこにはお父さんだけじゃなくお母さんもいて、難しい顔をしていた。
「実は、幸奈についてなんだ」
「お姉ちゃんに何かあったの?」
私の年の離れた姉の幸奈は、今二十六歳。
ちなみに私は現在高校二年生の十六歳だ。
お姉ちゃんは二十一の時に出来ちゃった婚をし、生まれた息子の雄太君、旦那さんである森羅さんと一緒に暮らしている。
ちなみに旦那さんだっていい人だ。
優良物件と言ってもいいくらいだろう。
「ああ、幸奈はな……不倫していたんだ」
「え……嘘でしょ」
「本当だ。幸奈も認めている」
「そんな……」
あの家庭は、雄太君はどうなっちゃうんだろう……
「それで、問題はうちの会社の事だ」
うちは会社をやっている。
とはいえ、社員十人前後の小さい会社だから、そんな金持ちじゃない。
むしろ、いつ潰れてもおかしくない会社だ。
その援助をしているのがお姉ちゃんの旦那さんである森羅さんだ。
彼もまた会社を経営している社長さんなのだが、社員数千人単位の超大企業だ。
BtoBの会社だから、知名度は低いけど。
彼は私達の会社の商品を優先して買ってくれていた。
しかも、結婚前には私達の借金を肩代わりしてくれたのだ。
「向こうは多額の慰謝料を払えと言っている。それと同時に、肩代わりした借金も今すぐ返済しろとも言っているんだ」
「……」
当然と言えば当然だ。
でも、うちにそんなお金あるのだろうか?
「一応、ある程度は養育費と相殺されるそうだけど……」
お母さんがそう言った。
「え、雄太君の親権はうちなの?」
てっきりお金をいっぱい持っている向こうが持つものだと思っていたのに。
「ああ、雄太はな、森羅さんの子供じゃなかったんだ」
「……は?」
なんだって?
托卵ってこと?
「しかも、誰の子供かもわからないらしい。当時何人もの男と付き合っていたそうだ」
「嘘……でしょ」
「本当の事だ。幸奈も認めてたよ」
信じられない!
「お姉ちゃんは何やってんのよ!ってか、今どこにいるのよ!!」
「……いない」
「は?」
「消えた。森羅さんの家の高い物をいくつも持って逃げたそうだ」
「嘘でしょ……」
「本当だ。その金も払えと言っている」
「け、警察に連絡を」
「それは俺が止めた」
お父さんはそう言った。
「なんで?!泥棒なんだよ!」
「分かってる。だけど、あいつを犯罪者にしたくないんだ」
「そんな事言ってる場合?!」
確かに、お父さんもお母さんもお姉ちゃんを溺愛していたけど、まさかそんな事を。
「どうするのよ、お金。会社を潰すの?社員の皆はどうするの?」
「それなら問題ない。向こうから条件を出してきた。これを呑めば慰謝料も無し、今まで通り援助もしてくれるそうだ」
「……は?」
そんな都合のいい話ってあるの?
「どんな条件?」
「森羅さんはな、自分の子供が欲しいそうだ。だけど、今更婚活や結婚するのは嫌だから、子供を産んでくれる相手が欲しいそうだ」
「は?何それ?」
「で、だ。お前、森羅さんの子供を産んでくれ」
「……ふざけないでよ!」
出来るわけないじゃない!
ってか、黙っていたけど私には彼氏もいるし。
「ああ、安心しろ。結婚とかしなくていいから。子供産んでくれるだけでいいらしいぞ。で、産んだら親権放棄していいとも言っていたから、子育てをする必要もないしな」
「嫌!絶対嫌だからね、そんなの!!」
「未来、我慢しなさい。会社が潰れてもいいの?社員みんなが苦しむのよ」
お母さんの言葉を聞いて、私は思わず黙ってしまった。
私達が苦しむのはいい。
でも、社員は守らなくてはならない。
そして、守れるのは私だけなのだ。
お父さんとお母さんに任せていたら、会社が潰れてしまう!
「それで、本当に会社は救われるの?」
「ああ、向こうは契約書まで用意していたよ」
「……考えさせて」
「ああ、じっくり考えなさい」
そして私は一晩考えた。
結果として、私はこの契約を受け入れた。
それから……私はつらい日々を送った。
朝昼は普通に暮らし、学校が終わると森羅さんの家に行って子作りに励む。
そして……望んでいた事、こうなる事は分かっていた事なんだけど……私は妊娠した。
してしまった。
妊娠が分かったのは、私が高校三年生になった頃だった。
当然学校に通い続ける事が出来るわけもなく、私は休学した。
そして私は男の子を産んだ。
だけど……私は赤ちゃんを抱っこ出来なかった。
すぐに引き離されてしまったから。
そうして、しばらく入院した後私は退院した。
その後、一応復学したのだけれど……当然のごとく同級生にばれてしまった。
私は友人を失い、孤立した。
もちろん彼氏にもふられた。
彼が別れを告げた時の、あの冷たい目を私は決して忘れないだろう。
彼の「浮気した挙句そいつの子供産むなんてありえねーよ。しかもその子供捨てたんだって?お前正気かよ」と言われた事も。
そして、孤独なまま私は高校を卒業した。
ちなみに、雄太君は結局施設に送られてしまった。
お父さんもお母さんも子供の世話をしたくない。
私は妊娠出産で手いっぱい、そして精神的に限界で世話なんか出来るはずもなく。
施設に送られた後の雄太君のその後は、私は知らない、知る気も無い……いや、知る気力もなかった。
だって……私はあの妊娠出産で、子供を産めない体になってしまったから。
高校卒業後、私は両親の会社で頑張って働いた。
無心になって働いた。
自分の無くなった未来……大学に行ったり、友達と遊んだり、彼氏とデートしたり、そして、自分の子供を抱っこしたり……そんな、当たり前にありえた未来を忘れる為に。
そうやって会社を存続させる事だけを考えて、私は生きた。
だけど、結局会社は潰れた。
援助は続いていたけど、結局潰れてしまった。
あのクソ姉が私達のあずかり知らぬところで背負った借金によって。
そこがヤバイ所だったらしく、私達に払えと言ってきたのだ。
その結果として父は自殺し、母は精神を病んで入院してしまった。
そして、私は多額の借金を背負ってしまった。
そして……二十年以上の月日が流れた。
私は今、会社の清掃員をしている。
この会社は、森羅さんの会社だ。
彼に何度も土下座して雇ってもらったのだ。
ちなみに、私の息子もここで働いている。
もちろん、私が実母だという事は言っていない。
それがここで働く際に森羅さんとした約束だからだ。
今日も、私の息子は私の傍を通る。
彼は、私が産みの母だという事を知らない。
彼が知る事は、未来永劫無いだろう。
仮に今後知ったとしても、私が母だと認める事は無いだろう。
仮に「あなたが僕の母ですか?」と聞かれても、私はこう言うだろう。
「あなたのお母さんは、きっと一途にあなたのお父さんを愛した、素晴らしい人ですよ」
そして、こうも言うだろう。
「あなたを一途に愛してくれる人を見つけてね」、と。
私のような人をつくらないために。
自分の子供に声すら掛けられないような、情けない女をつくらないために。
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