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05 試合終了

 ***


激しい雷鳴の後、静まり返った森の中。

一人の男の怒号がこだまする。


「嘘だ!アサナ兄弟がまとめて撃破されるなんて……ありえない!」


 オルタルテの2軍下位チーム、リーダーのノブルは妖精端末(フェアリー)が表示する戦況報告に青筋を立てる。

 白く輝く槍と重厚な盾を持ち、フルプレートを着た腰巾着のパラインはそんなノブルを元気づけるために話しかける。


「あやつらは所詮薄汚いアサシンでございまする、もはやこうなるのも必然ッ!……やはり、"正々堂々"たるホーリーナイトこそが最高にして最強だということをノブル様に証明してみせましょう!」

「チッ……糞が、1軍(スタメン)になるにはこんなところで油を売ってる暇は無いっていうのに邪魔しやがって、農学風情が……おとなしく土でもいじっていれば良いものを」


 弱小相手で「点数稼ぎ」するためにクラックとの練習試合に立候補したノブル。

 想定外の失点に対してブツブツと悪態を吐く。

 

 すると、茂みから何者かの賛同の声が届く。


「そのとおりだ。農業を学ぶために農学に来たっていうのに……なんで競勇やってるんだか」

「誰だ貴様は!」


 前方から1人の生徒がゆっくりと歩み寄る。

 おそらくチームメンバー2人を屠った農学の生徒だろう。

 手には武器ではなく農具とおぼしき黒いスコップ、学校指定の小豆色のジャージを着たその男子生徒は、到底フル装備をしたアサシンを倒した人間には思えない。


 ここで【灰色の脳細胞】を自称するノブルはひらめき、一つの確信に至る。

 そう、「彼ら(アサナ兄弟)は死んだふりをしている」のだ。


 アサナ兄弟は不意打ちを好んでいる。

 そしてかなり性格が悪い。

 この農学風情共に一瞬の希望を持たせて背後からブスリ、絶望に叩き落とす。

 きっと、おそらく、たぶん、そういう作戦なのだろう。


 この俺に相談もなく独断行動に走ったのは癪だが、「敵を騙すにはまず味方から」という言葉もある。

 ここはパラインとともに時間を稼ぎ、隙を作ることにしよう。


「パライン!俺の盾になれ!俺様の最強魔法をヤツにぶつける!」

「了解です!ノブル様!」


 これは予め伝えておいたノブルの偽の指示。

 魔法を撃つフリをしたノブルにヘイトを集めたところで、パラインが逆に魔法攻撃をお見舞いするといった完璧な作戦だ。


「ふーん、なるほどね」


 小豆色のクソダサジャージはそう言うと、一目散にノブルの方へ突っ込んでくる。


(ハッ、なにが『なるほどね』だ!まんまと俺様の術中だっつーの!)


 スカシたセリフを吐く小豆ジャージ男に内心毒突く。


 ヤツがパラインの横をスルリとすり抜けた瞬間、ノブルとパラインはほくそ笑む。

 ノブルは槍と盾を捨て振り向き、詠唱を開始する。


「聖なる光で我が敵を討てッ!《聖光(ホーリーライト)》ッ!」

「よし、範囲内だな。69番」

 〈《座標転身(スイッチポイント)》発動します〉


 全身が奇妙な浮遊感に包まれる。

 気が付くと、《聖光》の射線上にいた小豆ジャージは消えていて……


「グハェ、ッ!!!」


 パラインの得意魔法《聖光》を食らっていたのはノブルだった。

 意識の隅でパラインが、「申し訳ありません!申し訳ありません!」と、ものすごい勢いで謝り倒している。


「あとは、フルプレートのお前だけか?」


 先程まで自分がいたはずの位置からヤツが歩いてくる。

 なるほど、空間転移魔法か、とノブルは朦朧とした意識の中で納得する。


 しかし、空間転移魔法は高度な術だ。

 それを瞬時に発動する、なんてのは学生の技ではない。

 それこそ【金級冒険者】の魔術師でもないと不可能。

 詠唱の隙を一切見せずに発動させるなんて芸当、不可能に決まっている。


 そんな事を考えていると、スコップの激しい一撃が鎧とぶつかる音が聞こえてくる。

 そして、意識の隅で妖精端末がパラインの脱落を告げる。


あの鎧(フルプレート)越しに一撃だと???クソッ、インチキだろ?!……そうだ!まだアサナ兄弟は来ないのか?)


 もう十分に時間を、隙を作り出したはずなのに彼らは一向に姿を見せる気配もない。


 認めたくはなかったが、おそらくヤツがアサナ兄弟を返り討ちにしたのは事実だろう。

 冷静になって考えてみれば、妖精端末の表示まで詐称するのは無理な話だ。


(だが、まだ俺様は《棺》の外だッ……)


 最後の力を振り絞り、ヤツへと魔法を放つ。


「……わ、我が蒼き血潮によって命ずる、炎よ我が敵を灰にせ――」

「その顔は……おい、ちょっと待て!お前、名前は?」

「は?……フ、フハハハ!そうか、我が魔法に恐れ入ったか……我が名はノブル・ブルーブラッドッ!」

「ブルーブラッド……」


どうやら、ノブルの家の名に恐れ入ったのか、小豆ジャージは少し考え込んでいるように見える。

ここは、アサナ兄弟の一撃にかけるしかない。

会話を長引かせ、隙を作るしかない。


「そうだ!四大貴族にして魔術師の名家、ブルブラッド家が三男だぞッ!」

〈……二度とハロック様の前でそのナを言うナ〉

「へ?」

「懐かしいな。お前の兄貴には、よーくお世話になったもんだ……」

「に、兄様は偉大な冒険者だからな!」

「ああ、だからお前は直接関係ない……ここからは俺の()()()()()()()()だ」

「お、おい!アサナ兄弟!今だ、殺れェ!!!……クソが!我が蒼き血潮によって命ずる、炎よ我が敵を灰にせよ《蒼炎》ッ!」

「93番」

 〈《波海ノ巨腕(ポセイドンスマイト)》発動します〉


 感情を伴わない女の声がそう告げると、巨大な水球、いや、()()()()()()()()()が津波のような勢いでノブルの方へと迫ってくる。

 そして、そのまま自分が放った炎ごと激しい水流に押し出され、岩に頭を強打。

 そのまま(コフィン)へと送られた。


 ***


 こっちのチーム(クラック)を襲ってきた敵をすべて倒した後、俺は首尾よく《小型モンスター(ファングウルフ)》を討伐中の敵パーティの分隊に遭遇し、これを瞬殺した。


〈ハロック様、敵残数2でございマス〉


 現状を確認していると、そう遠くない場所からドゴーンと隕石が墜落したかのような音がする。大技を使ったのだろうか、まるで地面が割れるような地鳴りが響き渡り、その後薄暗い森は静寂に包まれた。


「後の2人は……今のデカい地鳴りを起こした奴らだろう」

〈敵の1チームはあと1ポイントで勝利してしまいます、《旗》獲得へ向かっているとすると大変不利な状況です〉

「ああ、そうだな。とりあえず音の鳴ったほうに向かうぞ!4番」

〈《朱兎高速(ラビットファスト)》発動します〉


 自身に移動加速のバフをかけ、急いで音の鳴った方へと向かう。

 木々の隙間を駆け抜けると、少し開けた場所に出る。

 周りの大木はなぎ倒されていて激しい戦闘が繰り広げられていたことが推測できる。

 この場の中心には巨大なクレーター、そして2人の選手が待ち構えていた。


「お前は……さっきの(ツバサ)に引きずられてた野郎だな」

「嫌な覚え方されてんな……俺がここに来るのを分かってて待っていたのか?」


 安全に勝ちにいくのであれば、《大型モンスター》を討伐したあと、見つからないようにしながら《旗》を確保しに行けばいいはずだ。


 しかし、彼らはここに残って俺が来るのを待ち構えていた。

 俺の戦闘力は戦況をこまめに確認していれば把握できるはず。

 あえて自らの「勝ち筋」を潰すような選択をした彼らの判断に疑問を抱く。

 何かしらの秘策でもあるのだろうか?


「ほら、敵さんからもツッコまれてるじゃん!」

「ふん、なぜ強敵がいると分かっているのに『勝ち』に逃げる必要があるのだ?」

「なるほどな、いい目をしている……確か、テツルと言ったか」

「そうだ、こっちはルチタ。お前の名は?」

「……ハロックだ」

「――ん?その名前、その強さ、もしかしてお前……まあいい、ならば相手に不足なしだな」

「えっ?何?!敵さん有名人なの?」


 試合前に挨拶に来た彼はかなりの志と実力を持っているようだ。おそらく先程の地鳴りも彼が引き起こしたものだろう。テツルに対する警戒度を上げる。


〈先程の音から察するに、彼の剣戟はカナリの威力であることが推測されマス〉

「ああ、注意する」



 ――しばらくの静寂。

 


 最初に攻撃を仕掛けたのはルチタだった。

 両手に二振りの短剣を握った彼が素早く突撃し、こちらの懐に潜り込もうと試みる。


「16番」

「ルチタ、一旦下がれ!」

「OK!」

 〈《過重力場(グラビティフィールド)》起動します〉


 アサシンを相手した時と同じ手段で迎撃を試みるが、間一髪のところで躱される。


「あっぶね!テツルサンキュ!」

「なるほど、俺と同じ重力魔法を使うか……ならばッ!」


 そういうとテツルは重装備なことを感じさせないくらいに軽快なジャンプを披露し、重力魔法のカウンターである「上方向からの攻撃」を試みる。


「それはもちろん対策済みだ、14番」

 〈《噴水撃(ウォーターストライク)》起動します〉


 俺は《加重力場》を解除し、バックステップをしながら上に跳んだテツルに狙いを定めて、対空用の水魔法を放つ。


「かかったッ!」「もらったッ!」


 一般的に重力魔法は強力な魔法である分、発動中の術者は動けず、再発動のクールダウンも長いというデメリットが存在する。

 だからテツルは上からの攻撃で俺を動かし、重力魔法を解除させ、その隙に本命のルチタを俺の懐へ潜り込ませる算段だっただろう。

 打ち合わせの時間も取らずに狙ってきた2人の連携プレーは文句なしの100点だ。


「ケイル、5番、16番」

 〈《再読術式(リロードスペル)》《過重力場(グラビティフィールド)》起動します〉


 すぐさま、《再読術式》で《過重力場》のクールダウンを解消したあと、再発動する。

 既に術の範囲内に入っていたルチタは前からつんのめるように地面に伏し、強烈な水圧に押し負けたテツルは吹き飛ばされる。


「36番」

 〈《天雷電撃(サンダーストライク)》発動します〉


 空から鋭い電撃が地面に伏した双剣使いめがけ突き刺さる。


 〈チームB・ルチタ 戦闘不能です〉


「グッ……なるほど、【百腕】の魔術師……俺らと同年代にも関わらず、最年少で【金級冒険者】まで上り詰めただけあってその強さは本物のようだな……」


 そういうと、テツルは剣を構え、一直線に突撃してくる。

 その眼は……勝利を諦めていない。

 ならば俺も本気で迎え撃つのが礼儀だろう。


「行くぞッ!」

「来いッ!3番ッ!」

〈《魔矢掃射(スウィープアロー)》起動します〉


 大量の《魔法矢》を前方に放つ。

 それをテツルは上に飛んで回避する。


 そして、そのまま彼はスムーズに攻撃に転じる。


「叩き割れ黒鉄の刃、喰らえッ!《加重斬撃(ヘヴィースマイト)》ッ!」

「迎え撃て、92番!」

〈《神雷ノ巨腕(ゼウススマイト)》起動します〉


 上から攻撃を仕掛けるテツル。

 それを追いかけるように上空から()()()()()()()が追いかけ、命中する。


〈チームB・テツル 戦闘不能です〉

「試合終了!チームC、クラック農学校8ポイント獲得のため勝利!」


 審判を務めるオルタルテの顧問が試合終了を告げる。


〈最後の魔法の選択は合理的な選択とは言えまセン。90番台はマナの負担が大きいデス。あの状況であれば……〉

「ああ、そうだな……ちょっと熱くなりすぎた、《巨人の百腕(ヘカトンケイル)終了(シャットダウン)

〈ハロック様?ワタクシまだまだ進言したいことガ!……し、終了しマス〉



 オルタルテAチーム 3P(メンバー撃破1P×3)

 戦闘不能 全員 


 オルタルテBチーム 3P(大型モンスター4P×1 小型モンスター1P×3)

 戦闘不能 全員


 クラックチーム 6P(メンバー撃破1P×8)

 戦闘不能 3名


 こうして、クラック農学校競勇部の初の試合は勝利に終わった。



風邪による体調不良&ペルソナ5Rが忙しいので投稿ペース落ちてます……

(3:7の比率)

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