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04 百腕の魔術師

完全に風邪引きました


バカじゃない 証明完了 Q.E.D


毎日更新の記録は今日で途切れるかもです…

 ***



「転送開始ィ!!!」


 合図とともに俺とツバサ、ハチコ、は試合の舞台となるフィールド内に転送される。


 転送先は鬱蒼とした森、およそ30メトルはある木々が葉を広げている。

 時間設定は昼なのにも関わらず、辺りは薄暗くじめじめとしているのはそのせいだろう。


「よーし、それじゃあ行動開始ぃ!」


 ツバサが革のベルトに下げた鞘から長剣を抜き、高く掲げ号令をかける。


「で、具体的には何をするんだ?」


 ふにゃっと曖昧な指示に対して俺はツッコミを入れる。


「んー、では参謀のハロックくん。皆に作戦を伝えてくれたまえ!」

「ノープランってことか……まずは索敵だな。ハチコ、レンジャーの【スキル】使えるか?」

「もちろんっす!」


 レンジャーは索敵に長けた職業である。

 競勇において索敵は重要な要素だ。先に敵を見つけた側がそのまま先手を取れる。


 たとえ戦闘力に大きく差のあったとしても、索敵が上手ければ、他パーティとの戦闘を避けてモンスターの討伐やアイテムの回収を進めることができる。

 こういう役割はパーティに最低でも1人はほしいところだ。


『ザザッ……えっと、《鷹の目》発動っす!』

「どうだ?見えるか?」

「視界良好、バッチグーっす!」


 指示を受けた彼女は軽快に枝から枝へと飛び移り、辺りを見下ろせる大木の中腹あたりでスキルを発動させる。


「それじゃ次は……ナナミ、手持ちのアイテムは?」

「えっと……バフポーションいろいろ、えんまく、まきびし、とかとか」


 ナナミが所持するアイテムを確認する。

 こっちが不利な状況に陥ったときも、アイテムの使い方次第で打破できる可能性はある。

 煙幕やマキビシがあるなら、先に見つかっても逃げて態勢を立て直すことは可能だろう。


「さてと、現状の把握は一通り済んだし、今の戦力で出来る作戦を考えますか……」


 一度全身を伸ばして深呼吸をする。

 索敵を任せたハチコを除いた3人で軽く作戦を共有していると……


『ザッ……や、やばいっす!2人組がこっちに全速力で向かってます!500メトル先!』


 ーー樹上のハチコから、妖精端末の通信。

 その後、枝を渡って彼女は合流を果たす。

 どうやら、既に先手は取られていたようだ。



「えっ!もう見つかってるの?」

「転送位置が近かったのかもな、あとどっかの誰かさんがバカでかい声あげてたし」

「なるほど……ボクのせいか」

「ふあぁぁぁ…敵、来た?」


 ツバサは自身の取った軽率な行動を後悔しているようだ。

 一方、マイペースなナナミはあくびをしたあと、こちらを向いて寝ぼけ眼で聞いてくる。


「さっき話した通り、ひとまず煙幕展開、上手いこと分断して各個撃破だ」

「りょーかい」


 ナナミは《拡張空間》の魔法がかかってると思しきウエストポーチをガサゴソと漁って、小玉のメロンくらいのボールを敵が来ている方向へと投げつける。


 着弾と同時に展開される煙の壁。

 これで俺たちの動きは当面悟られないだろう。


 ナナミはベルトに付けた薬瓶をみんなに手渡す。


「おてせいのバフポーション、くいっと飲んで」

「でもこれ、あきらかにヤバい臭いするっすよ?!」

「ムッ、いいからのんで」


 ナナミは頬をぷくーっと膨らまして、お手製にケチをつけたハチコを睨む。

 しかし、ナナミ本人が思っているような凄みはまったくもって感じられない。

 まるで不機嫌な3歳児のようだった。


「かわいいナナちゃんを信じて飲んじゃいます!クイっと!」


 金色に輝く小瓶を持ったツバサはそういうと、腰に手を当て一気に飲み干す。

 なるほど、行動力に人の皮をかぶせるとこうなるんだな、と俺は素直に感心する。


「ところで、瓶に入ってる液体の色がそれぞれ違うんだが」

「うーん、どれがどれだったかな……」

「早くしないと敵さんが来ちゃいますよ!みんなもクイっと!」


 ツバサに促され、俺はナナミお手製のバフポーションを飲み干す。クイッと。


 しばらくすると喉から胃にかけて熱が伝わってきて全身がポカポカし始める。


 この味は……転生前に好きで飲んでた某エナジードリンクの味だ。

 ラベルには「ぞんびえなじー」と直筆で書いてある。


 思わぬ懐かしの味との再会、何故だかやる気も少し湧いてきた……


 ほかのビンの中身も気になり、パーティの反応をうかがう。


「うげー、に、苦いっす……」

「あー、それはしっぱいしたやつ」

「え、そういうシステムなんすか?」

「ボクのはめちゃくちゃ甘かったけど、ナナちゃん!これって何かな?」

「あ、それは『ぞんびえなじーうるとら』ってなまえで……」


 他校との練習試合とは思えない、雰囲気が煙幕の裏で展開される。

 だが、敵は今も距離を詰めているだろう。

 時間はそれほど残されてはいない。


「ツバサと俺が前衛だったな、あとの2人は後衛でサポートを頼む」

「了解っす!」「わかったー」

「なんかやる気が湧いてきたぞーっ!ボクの剣のサビになりたいのは誰ですかー?!」

「おい、待てって、単独行動するな!」


 行動力の化身(ツバサ)は持て余した行動力を前方向への移動エネルギーに変換してひた走る。

 俺も駒として浮いた彼女をフォローするために追いかける。


 そういえば、手持ちの武器がないことを思い出す。

 本来、剣が下げてあるのは折りたたみのスコップだ。


「はぁ、背に腹は変えられないか……」


 スコップを剣の代用品として右手に持っておく。


「1人発見!その首もらいました!」


 先行するツバサが敵を発見したのか、持っていた長剣で斬りかかる。


 しかし、彼女の豪快な一振りは敵の『その首』には命中せず、辺りの伸びた草木を刈るだけだった。


「えっ、2人いる!」


 大きな隙を晒し、死角からの一撃に気がつくのが遅れたツバサが相手校のアサシンからの一撃をまともに受け、安全装置の《(コフィン)》に閉じ込められる。


 〈チームメンバー・ツバサ 戦闘不能です〉


 妖精端末がメンバーの退場を無感情に告げる。


「はぁ、だから単独行動するなと……」


 俺は頭を抱える。

 急いでツバサの棺の元へと駆け寄るが、既に敵の姿は見当たらない。

 ヒット&アウェイ、アサシンの基本を徹底しているようだ。


 俺は棺に表示された遺言のメッセージを受け取る。


 〈ボク ノ カタキ ヲ 討ッテクレ〉


「……もっとさ、敵の特徴書くとかあるだろ」


 気がつけば、後衛の2人を置いてかなり先行してしまった。

 このまま裏に回られたら後衛も危険だ。


 そう思った矢先、妖精端末から助けを求める声が届く。


「ハロック殿!攻撃、攻撃を受けているっす!」

「なるほど、あのアサシン、浮いた駒狙いを徹底しているようだな……」

「考察してる場合じゃないっすよ!あっ、ナナちゃんが!!!」

「……うぎゃ」


 〈チームメンバー・ナナミ 戦闘不能です〉


「今すぐ向かう、持ちこたえられそうか?」

「ム、ムリっすぅ~~~!!!……ってうわぁ!!!」


 〈チームメンバー・ハチコ 戦闘不能です〉


 こうして、敵と接触してからわずか数分。

 あっという間にこっちのパーティは俺を除いて戦闘不能になってしまった。


 なるほど、これがシロウトと強豪校との実力差というものか。

「冒険者の卵とはいえ侮れないな」と思い、気を引き締める。

 勝つなら()()()()()()()()必要があるようだ


「久しぶりだな、これ使うのも……《巨人の百腕(ヘカトンケイル)》起動」

〈《巨人の百腕》起動、術式回路異常無し(システム、オンライン)


いくつもの円が重なったような複雑な術式が足元に展開され、光り輝く。

動作確認のための回転と光の明滅を数回繰り返すと魔法陣は消え、代わりに優しげな女性の声だけが残る。


〈お久しぶりですハロック様。ちなみに、正確には『8ヶ月と3日、4時間5分ぶり』でございマス〉

「わざわざ訂正ご苦労様」

〈いえ、ワタクシはハロック様に仕える身。呼ばれて馳せ参じるのは当然でございマス〉


 俺はお手製(オリジナル)魔導式人工知能(サポートAI)のケイルと久しぶり、いや、3ヶ月と3日、4時間5分ぶりの挨拶を交わす。


〈それにしても、『競勇』デスか。ハロック様がスポーツとはいえ冒険者としての一面を見せてくださるとは……意外でございマス〉

「まあ……色々あってな」

〈戦況はどのような?〉

「うちのチームは3落ち、フィールド内の敵は2チームフルメンバー、周辺の敵は2~4人、うち2人はアサシン系の職業だと思う。詳しくは妖精端末のログを見てくれ」

〈ふむふむ……なるほど、つまり、ピンチというやつデスね〉

「だからお前を起動したんだ。今回もしっかり働いてもらうぞ」

〈もちろんでございマス〉


 含み笑いを伴った彼女の言葉は現在の数的不利と敵の推定戦闘力を加味した上で、俺の勝利を確信しているようだった。


〈アサシン系が敵の主力ならば《16番》《32番》《48番》を推奨しマス〉

「流石に32と48はオーバーキルすぎる、16番だけで問題ない」

〈かしこまりマシた〉


 《巨人の百腕(ヘカトンケイル)》、これは俺が独自に開発した世界でもまだ少ない《第7世代魔法》。


『魔法を効率的に運用するための魔法』だ。


 機能は主に2つ。


 一つは100種類の魔法を無詠唱かつ同時発動できる特殊術式回路《百の腕(ヘクタアムズ)》。

 もう一つは100種類の魔法を状況に応じて的確に運用するための魔導式人工知能《五十の頭(ペンタクタヘッズ)》。


 俺の二つ名【百腕】はこの自作魔法(ヘカトンケイル)による100種類の魔法という圧倒的手数とそれを同時に扱う圧倒的な魔法操作能力にちなんで、「100本腕がある魔術師」という意味を込めて名付けられたものだ。


 まあ、昔取った杵柄のような話だが……


「さて、と……」


 まずは手始めに3人を戦闘不能にしたパーティを返り討ちにすることから始めよう。

 いくら冒険者を引退したとはいえ、このまま負けるのは俺のプライドが許さない。


 ふと、クソ隠キャ職のアサシンギルドに執拗に命を狙われた過去を思い出し、無関係なのは承知の上だが、先程のアサシン共に八つ当たり的な苛立ちを抱える。

 さっき飲んだエナジードリンクの効果も相まって、胸の中の苛立ちは復讐(?)の炎へと変わる。


「クソアサシンの卵どもめ……ホンモノの冒険者のチカラ、思い知らせてくれるわ!」


 サッ、っと小さな枝揺れの音とともに、樹上の枝から1人、そして左後ろの茂みの奥からもう1人が同時に襲いかかってくる。


「隙ありッ!」「もらったァ!」

「――16番」

 〈《過重力場(グラビティフィールド)》発動します〉


 16番のスロットに登録されているのは周辺の重力を操る魔法《過重力場》だ。

 中心にいる俺を避けるようにドーナツ状に展開される。


「グハッ!」


 枝から飛び降りて上から攻撃を仕掛けてきたアサシンは想定外の重力変化に対応できず、地面へめり込む。


「ウゲッ!」


 茂みから飛び出したもう1人のアサシンも上から押さえつけてくる強烈な圧力に負け、躓いてしまう。


「さて、2人捕獲っと……」

「おいッ、新造チームにこんなヤツがいるなんて聞いてないぞ!」

「悪いな、今日体験入部させられたばっかりでな」

「くそォ……全身がッ、重いッ……」

「さて、ただの足止めじゃあポイントにならないしトドメを刺すとしよう、36番」

〈《天雷電撃(サンダーストライク)》発動します〉


 身動きが取れない2人に目掛けて上空から青白い光が鋭く突き刺さる。


 耳をつんざく雷鳴。

 草木を焦がす臭い。


 一瞬で、敵から差し向けられた2人の暗殺者(アサシン)を同時に棺送りにした。


 オルタルテAチーム 3P(メンバー撃破1P×3)

 戦闘不能 2名 

 オルタルテBチーム 3P(小型モンスター1P×3)

 戦闘不能 0名

 クラックチーム 2P(メンバー撃破1P×2)

 戦闘不能 3名

ーーついに始まる主人公無双ッ!

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