03 ハンマートロル・ハンティング
次、次回から主人公が無双します……
(この回は片鱗だけチラ見せ)
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オルタルテ冒険学園、競勇部の強豪校。
毎年、迷宮都市『コ―ジェン』で開催される全国大会に出場するほどの実力を持つ。
生徒の9割が『競勇部員』のため選手層は厚く、3軍には15パーティ、2軍には10パーティ、そして1軍には、部長が率いる選ばれし1パーティが君臨している。
有名な冒険者の子孫、才能が認められてスカウトされた生徒らが毎日熾烈な1軍争いを繰り広げている。
スキンヘッド、強面、長身で1年生っぽくない見た目のオルタルテBチームリーダー、テツル。
彼は入部してからわずか1ヶ月で3軍のトップに登りつめ、『将来のエース候補』としてこの練習試合の代表を任されるまでに至った。
正直、テツルはクラックのパーティなど眼中になかった。
見据えていたのは、一つ階級が上の【2軍下位パーティ】に勝利すること。
これこそが、この練習試合においての目標であった。
相手校は創部したばかりの格下。
見た感じ4人の内、2人は当日借り出したメンバーといった具合である。
1人、やけに落ち着いた生徒がいたことに違和感を覚えるが、所詮は農業を学ぶ学校の生徒。
生活の殆どを冒険者になるために費やしている以上、負けることはありえないだろう。
転送先の鬱蒼とした森の中に到着してから15分が過ぎた頃。
テツルは妖精端末で試合状況を確認する。
オルタルテA 3P(パーティ撃破1P×3名)
戦闘不能 0名
オルタルテB 3P(小型モンスター1P×3群)
戦闘不能 0名
クラック 0P
戦闘不能 3名
相手校のパーティはウチの2軍下位によって、試合開始からわずか15分で、1人を除き、戦闘不能に追い込まれていた。
それもそのはず、ウチのAチームは戦闘不能狙いの《賞金稼ぎ》構成。
対人戦闘に特化した職業と装備で固め、敵パーティの撃破によるポイントゲットを勝ち筋としている。
シロウト集団ならあっという間に彼らの索敵に引っかかり、連携攻撃で蹂躙されるだろう。
これでは生き延びたもうひとりが戦闘不能になるのも時間の問題だ。
急がなくてはな……
全神経を目の前の《大型モンスター》討伐に集中させる。
運良く試合開始直後に遭遇したこのモンスターとの戦いだがいよいよ決着をつける時が来たようだ。
そんなことを考えていると、テツルの集中を妨害するようにまばゆい光が森の奥から目に入る。
そのあと遅れて轟く雷鳴。
2軍の先輩らは初心者相手でも情けというものをかけないらしい。
「先輩方は派手にやってるな!おーし、お前ら!急ぎで狩らなきゃ狩られるぞ!」
「2軍下位なんかに負けてられねえぜ、な、テツル!」
「ザザッ……フッ、君たちはいつも暑苦しいな、もっとクールに、だな」
「ザッ……もう!タイラーくん、スカしてないでちゃんと魔法撃ってよね、《小型モンスター》が逃げちゃうでしょ!」
妖精端末越しにチームメンバーのタイラーとヘックスが喧嘩しているのが聞こえる。
「ヘックスの言う通りだ、ウチとアッチじゃ分が悪い。《小型モンスター》相手とはいえ本気でやれよタイラー」
シロウト集団を狩り終えたら今度はAチームの牙がこちらに向かう。
モンスター討伐に特化したBチームの《獣狩り》構成では、装備やパーティの構成上、若干分が悪い。
しかし、こうなることは想定済み。
既にパーティを2つに分けて小型モンスターと大型モンスター両方を同時に狩り、素早く得点をもぎ取る作戦は功を奏したと言えるだろう。
「あ、タイラーくん!やばい!後ろ!」
「へ?……ウアッーーーーッ!!!!」
〈チームメンバー・タイラー 戦闘不能です〉
小型モンスターを狩りに行かせたチームから不穏な通信が流れる。
(もう、Aチームが来たというのか?さっきの雷の距離から考えても早すぎる……)
想定より早いことに少し驚きながらも、テツルは冷静に状況把握に努める。
「もうAチームが来たのか?!」
「そ、それが!農学の男子で!……貫け!《魔法矢》……って弾かれた、キャッ!」
〈チームメンバー・ヘックス 戦闘不能です〉
テツルは《大型モンスター》の重い一撃を躱して、手早く妖精端末で試合状況を確認する。
オルタルテAチーム 3P(メンバー撃破1P×3)
戦闘不能 全員
オルタルテBチーム 3P(小型モンスター1P×3)
戦闘不能 2名
クラックチーム 6P(メンバー撃破1P×6)
戦闘不能 3名
目の前でぼんやりと輝き浮かぶ信じがたい文字。
常に冷静を心がけているテツルを動揺させるには十分だった。
「2軍下位パーティを壊滅させただと?たった1人で?」
「信じられねえが、みたいだなテツル……クラックの隠し玉か?」
「……だが、この《大型モンスター》を狩れば7ポイントだ。あとはなんでもいいから1ポイント拾い切れれば逃げ切れる!」
無意識に"逃げ"という言葉を使ってしまった自分を内心、情けなく思う。
そして、相手校に対する認識を大きく改める。
エース級のバケモノが1人いると……
テツルは両手剣を持っているとは思えない軽快さで木の枝を飛び移る。
《大型モンスター》は彼を目で追うが、彼の素早い動きはその太い首の可動速度を優に越える。
なんとか木々の隙間を跳ね回る小虫を視界に捉えようと、身体ごと捻る。
足元はお留守だ。
(その隙を見逃すほど、うちのチームは甘くないぞ)
ルチタは《大型モンスター》の視界の外から一気に距離を詰め、両手に握られた二振りの剣で分厚い皮膚を切り裂き、ヤツの足の腱まで切断する。
思わぬ死角からの一撃により、《大型モンスター》は激しくよろめく。
その隙に真上を取ったテツルは魔法の詠唱を終え、直ぐに飛びかかる。
「喰らえ!《加重斬撃》ッ!」
高所から落下するスピードと両手剣の重み、そして腕力と得意の重力魔法を組み合わせた対大型モンスターの自作の必殺技。
"逃げ"などと考えた自分の情けない一面を眼の前の《大型モンスター》に重ね合わせ、手にした両手剣でまとめて叩き切る。
4メトルはある肉の塊ですらテツルの剣撃の勢いを止めることは出来ず、その刃は地面にまで達する。
巻き起こる土煙と爆音。
倒した《大型モンスター》は《拡張幻術》の仕様によって消滅し、この場には抉れた地面だけが残った。
〈オルタルテB 《大型モンスター》討伐 4ポイント〉
「相変わらずスゲえ火力だな……よしっ、あと1ポイントだ!」
残されたチームメンバーでテツルと気の合う親友、双剣使いのルチタは彼の渾身の一撃を褒める。
「お前のアシストがあってこそだ、助かる」
「まっ、そこはお互い様ってことで!」
2人はお互いにメンバーの働きを褒め称える。
この瞬間、達成感で心が満ちていくのを感じる。
競勇をやっていて一番好きな瞬間だ。
「とっとと《旗》か《小型モンスター》でも見つけようぜ」
ルチタは次の一手として、定石通りの提案をする。
しかし、テツルは首を横に振る。
「いや、ダメだ。《農学のエース》を狙う」
「はぁ?!1人で試合をひっくり返すバケモノだぞ?」
「このまま勝ったところで得られるものは少ない。これだけの強敵だ、負けたとしても必ずや糧になる。」
「そりゃまあ、言いたいことはわかるけど……」
ルチタは彼の顔が時折見せる「覚悟を決めた男の顔」であるのを見て、説得を諦め、ヤレヤレと肩を落とす。
「オーケー、わかったよ、手合わせ願うとするか敵のバケモノさんに」
これだけの大技を使った以上、音と土煙でこちらの位置は筒抜けのはず。
しかし、テツルとルチタはあえて場所を変えずに「クラックの怪物エース」を待ち受けることにしたのであった。
***