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02 インスタントチーム、結成

 「……はいはいそれでは!4人揃ったところで待望の自己紹介ターイム!」


 どうやらここに集まった4人が『クラック農学校競勇部(即席)』のようだ。

 正直、強そうな雰囲気が出ているメンバーはいない。


「ボクはツバサ。冒険科1年で職業はソードマン……いや、一応女の子だしソードガール?レディ?……ま、いっか、このクラック農学校競勇部を創部した部長です、えっへん!」


 彼女は両手を腰に当て、部長としての威厳を醸し出そうとポージングをする。

 俺を除くあとの2人はそんな彼女を見て、「おーーー」と口を半開きにし、小さく拍手をする。


「ハチコ・ルーワンっす!バサッちゃんと同じく冒険科の1年っす!えっと、実家の両親がレンジャーやってて、小さい頃から習ってて、弓は得意っす!よろしくっす!」

「ナナミ・マル……酪農科1年のアルケミスト。なんか連れてこられた……かわいいモンスターが好き。そして、ねむい……」


 どうやら、ツバサとハチコと名乗るレンジャーは元々知り合い。

 アルケミストのナナミは俺と同じく今日引っ張ってこられたようだ。


 最後に俺の自己紹介。

 もちろん、やる気は、ない。


「――俺はマ、じゃなかった。ハロック、農業科の1年だ。よろしく」


 頭の中は締切が迫る課題作物(マンドラゴラ)のことでいっぱいだ。

 手間のかかる植物で、決められた時間に水を与えなければ土から這い出し、大音量で叫びだす。


 これがかなり迷惑で目立つものだからなるべく早くにこの試合を終わらせたい。

 既に今月で3回は自分の畑からの脱走を許しているため、担当教員のイエローカードが出ている。

 次やったら、おそらく落単だ……


「えーそれだけですか?ちゃんと自己紹介してくださいよーちゃんと」


 そんなことを考えていると、俺の自己紹介に不満を持った部長さんが「もっと詳しく!」とふくれっ面をする。


「なんだよ不満か?」

「武勇伝とか、あるじゃないですか!"選定の聖剣(エクスカリバー)の台座を魔法で粉砕"とか"多頭蛇(ヒュドラ)の首を蝶々結び"とか!」

「えっ?この人そんなスゴい人なんすか?」

「はなし、ききたい」

「――はあ、なんのことだか……って、わかったよちゃんと自己紹介するからそんな目で見るな」


 冒険者だった頃、しかも自分の力に自惚れて各地でヤンチャしていた頃のハズい"武勇伝(黒歴史)"を引きずり出されて顔が赤くなる。

 しかも、それを聞いたハチコとナナミが目を輝かせてこちらを見るものだから、たまらず自己紹介に逃げる。


「一応元冒険者だ。そこのバ怪力女に引きずられてここに至る。趣味は魔法の開発と土いじり、以上」


「よしっ!自己紹介も終わったし、このメンバーで初試合、初勝利に向けて頑張りましょー!」

「おーーーっす!」「おーーー、ふあぁあぁ……」

(畑戻りて―、こんなのでいきなり練習試合になんのか?連携もへったくれもねーだろ……)


 俺は内心、無理ゲーだと思う。


 競勇は転生前に俺がハマっていたゲームに良く似ていた。

 こういうチーム戦の競技において個々の戦闘力はもちろん大事ではある。


 だが、競勇ではそれ以上に試合全体を勝利へ動かす策と連携がモノを言う。

小規模戦闘(ミクロ)」で勝てても「大局観(マクロ)」で負けてしまえば敗北してしまう。


 それが競勇だ。


 実際、俺が本気を出せば相手校の生徒に『戦闘(ミクロ)で勝つ』ことは容易ではある。

 でも、相手の作戦次第では『試合(マクロ)に負ける』ことができる。

 それくらい個の力で試合を勝たせるのは難しい。


「よし、これでお互いのこともよ~く知れたし!練習試合始めますか!」

「いいっすね~、やったるっす!」

「……ねむい」

「おいおい、本気かよ……作戦は?」


 俺は一縷の望み、それと九割の諦めを託してツバサに質問を投げかける。


「ムムッ、その眼は"お前どうせ作戦なんてロクに考えてないんだろ"って眼ですね???」


 俺は「わー、どうしてばれたんだー」と感情をフルに込めて驚いてみせる。

 少しムッとした顔でツバサは俺を睨みつけると、あとの2人の方に向き直って言葉を続ける。


「いいですか?……このゲームには必勝法があります!」


 そのあまりにも自信満々な顔を見て、期待一厘、不安九割九部九厘が俺の脳裏を駆け巡った。


「ごくり……っす」


 ハチコの生唾を飲み込む音が聞こえてくる。


 ツバサは人差し指の指紋まで見えるんじゃないかと思うくらいにピシッと前に突き出す。

 そしてもったいぶりながら、ようやく口を開く。


「――パパパーッと敵をぶっ倒して、サササーッとクエストクリア!これです!!!」

「はぁ……」


 案の定、99.9%の方の懸念が的中し頭を抱える。

 おいハチコとやら、目を輝かせるな。

 彼女が言っているのは「勝てば勝てる」と言っているのに等しい。


 競勇はポイント制の競技だ。

 3~5つのパーティが「クエスト」と呼ばれる課題たちのクリアすることで得点をゲットし、その得点数で勝敗を決める。


 クエストの内容は3種類。

 「敵パーティ撃破」

 「モンスター討伐」

 「アイテム回収」


 敵パーティのメンバーを戦闘不能にしたら1ポイント。

 ゴーレムやトロルのようなフィールド内を闊歩する大型モンスター討伐で4ポイント。

 ゴブリンやウルフのような群れで行動するような小型モンスターは10匹で1ポイント。

 フィールド内のどこかに隠されている2本の《(フラッグ)》をフィールドの中心にに立てる事ができれば1本につき4ポイント。


 つまり、彼女が言いたいのは


「先に敵メンバーを撃破してポイントを稼ぎ」

「敵との人数差を作り出して」

「自分たちが残りのポイントを掻っさらう」


 ということだろう。

 そこまで考えているかは疑問だが。


 しかし、本来作戦とは「目標を達成するための手段」なはずだ。

「パパっと!ササッと!」なんかは決して作戦と呼べる代物ではない。

 そもそも……


「おーい、聞いてますかー?ハロックくんは私と一緒で前衛お願いね」

「……わかった、連携は期待できない以上、俺が試合荒らしたほうが勝ち筋は太いか」


 作戦とも呼べない作戦を愚痴っている間、彼女はポジショニングの説明をしていたようだ。

 半分独り言のように俺は返事をする。


「おっといけない、忘れるところだった!みんな《妖精端末(フェアリー)》出して!」


 ツバサの要請に答えるように、4人がポケットから『楕円状でツルツルした表面の石のようなもの』を取り出す。


 妖精端末。

 それは2,3年前に開発された、音声通信や文字メッセージのやり取りを可能にする魔道具だ。

 オリジナルの術式を埋め込むこともでき、その機能を拡張することもできる。


 要するに、『魔法で動くスマートフォン』のようなものだ。


「試合中に連絡手段っすね!」

「それもそうだし、この術式を登録しておけば試合の流れも手元で確認できるからね」

「どれどれ、今回のフィールドとモンスターは……」


 フィールド:森林

 出現モンスター:ハンマートロル、ファングウルフ、フォレストゴブリン

 参加チーム:オルタルテA、オルタルテB、クラック

 勝利条件:8ポイント先取、または自パーティ以外の全滅


 妖精端末が薄ぼんやりと光り、その表面に試合情報を記した文字が表示される。


 今回の試合のルールは幸いにも彼女の思惑通り、8人撃破すれば試合終了だった。

 ツバサもそれに気づいたようで「ほらね?」と言わんばかりの顔でこちらを向く。


「よーし、じゃあ作戦会議はここまでにして、試合開始と行きますかぁー!」

「おーっす!」

「お、おーぉ……」


 相手校の2チームが、グラウンドの中心に石灰の粉で描かれた魔法陣の上で既にスタンバイしている。


 その魔法陣は第6世代魔法の《拡張幻術(バーチャリアル)》によって生成された競勇用フィールドへの転送用のものだ。

 競勇のかつては攻撃を寸止めするのが原則だった。

 しかし、この魔法が開発されたことによって本気のぶつかり合いができるようになり、試合の臨場感が劇的に変化した。

 そして、健全なスポーツ、そしてショービジネスとしての地位を確立し、民衆に広く楽しまれるようになった背景がある。


 魔法オタクの俺にこの《拡張幻術》を語らせれば3日は余裕だ。

 でも今は目の前の練習試合に集中しよう。


「それでは、全チーム前へ!」


 審判代わりの相手校の顧問が試合開始の準備を進める。


「ルールは4人組3パーティによるポイント制サバイバル!2つのパーティ全員の戦闘不能または1チームが8ポイント先取した時点で試合終了とする!持ち込める装備はティア3まで!」


「それでは、試合開始ィ!!!」


 こうして3パーティのバトルロワイヤル、練習試合のゴングが鳴った。



次回、元冒険者、本気を出す?!

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