01 ハロー農家、グッバイクソ冒険者
『競勇』こと『競技勇者』とは指定されたフィールド内で4人のメンバーで構成された複数の《パーティ》が試合中に課される《クエスト》たちを達成してポイントを稼ぐこの世界のスポーツ競技だ。
「パーティでどのクエストを狙うのか?」
「クエスト攻略に効果的なパーティ構成、装備は?」
「手早くクエストを攻略できるか?」
「他パーティへの妨害、そしてその対策は?」
このように冒険者に必要なスキルを多く求められるのが『競勇』である。
冒険者の卵たちが通う学園界隈では部活動として導入されている。
試合での活躍次第で有名なギルドにスカウトされることもあって、最も人気の部活動だ。
そして、この物語はそんな『競勇』に魂を燃やす冒険者の卵たちの物語……
――ではない。
なぜなら、俺は"クソみたいな"冒険者という職から足を洗ったからだ。
のんびり気ままに暮らし、畑仕事に汗を流す……
そんな立派な農家を目指すと心に決めたからだ。
俺の名前はハロック・ロックハート……かつての名前は黒羽クロハ。
日本という国の一般的な家庭に生まれた普通の高校生。
ある日、通学路の途中で小さな少女をかばうような形で交通事故に巻き込まれてしまい、目が覚めたらいつの間にか"最強冒険者一家"と名高いロックハート家の三男として転生していた。
幼少期は「白金級冒険者筆頭候補」だの「若き天才」だの色んな所でチヤホヤされまくった。
その頃は正直悪い気分はしなかった。
「せっかく異世界転生したし、血筋もチートだし、最強冒険者として頑張りますか!」
――まぁ、そんなふうに考えていた時期も、俺にはありました。
実際、冒険者としての素養、特に魔法に関しての才能があったようで試験は史上最年少で通過。
飛び級で銀級から俺の「冒険者キャリア」はスタートした。
その後もトントン拍子で、だいたい1年前、若干15歳にして冒険者階級の上から2番め、【金級】にまで登りつめた。
――しかし、ここまで至るのに相当なストレスも溜まっていた。
両親からの「超過酷なノルマ」で徐々に精神はすり減るわ、
同僚の冒険者も金と自分の名誉のためなら人助けは二の次だわ、
なんとか人助けしたと思えば、「壊れた屋根を弁償しろ」と村の人から文句を言われるわ……
――まず、命を助けてもらったことに感謝してくれ。
半年前、受けた依頼の手柄を、パーティに入り込んできたどこぞの貴族のボンボンに横取りされ、俺のイライラメーターが限界点に達した。
「こんな虚無いクソ稼業の冒険者なんて辞めてくれるわ!!!」
と、両親に言い放ち家出、冒険者の証である金飾りの短剣はギルドに返納した。
冒険者を辞めてからは、とある老夫婦が営む農場の手伝いをさせてもらった。
一生懸命に手伝った俺の働きぶりは、それはもう農家の老夫婦に"泣いて感謝"されるほどだった。
こうして最強冒険者一家の三男に転生した俺は農業にやりがいを見出し、一流の農家を目指すことにしたのである。
冒険者時代に稼いだ金で、この国で最高の農業教育を受けられる『国立クラック農学校』に入学したのが一ヶ月前の話。
最後に改めてもう一度言うが、この物語は「『競勇』に魂を燃やす冒険者の卵たちの物語ではない」
―――はずだったのだが……
***
放課後。
5の月の風は気持ちよく、絶好の農作業日和だ。
俺はいつものように、農学科の生徒一人ひとりに充てられる専用の畑で汗を流す。
「え、何この畑、これじゃ……じゃなかった!キミッ!ケイユウに興味ない?」
1人の女子生徒が俺の背中に話しかける。
俺は首だけ動かし、声の主を確認する。
筋肉質でスラっと伸びた手足、健康的に日に焼けた肌。
ボーイッシュな黒髪ショートヘアの彼女、腰に下げた長剣とプレート付きのジャージ。
おそらく冒険科の生徒といったところだろうか。
まあ知らん生徒だ、作業に戻ろう。
「あ、自己紹介がまだでした!ボクの名前はツバサ・ストロフェザー」
彼女の名前はツバサというらしい。
聞いたことない名前だ、それにケイユウって……「競技勇者」のことか?
だったら、なおさら関係ない、というか関わりたくない領域だ。
彼女を話を無視して土との会話を続ける。
「冒険科の1年生で最近『競技勇者部』を立ち上げたんだけど、なかなか人が集まらなくて……」
――しかし、ストロフェザーという名字、どこかで聞き覚えがあるような気が。
頭の奥でつっかえる。
「確認だけど、キミ、名前は?」
隙だらけの俺に対してベラベラベラベラと自分語りを済ませた彼女。
ついに、俺に対して反応を求める。
しかし、こっちも畑仕事で忙しい。
なるべく簡潔に自己紹介を済ませる。
「農学科1年のハロック。競勇は専門外だ」
我ながらぶっきらぼうだとは思うが、仕方ない。
どれだけかわいい同年代の娘が話しかけてこようと、俺にとっての最優先は農業だ。
課題作物のマンドラゴラ>>>(越えられない壁)>>>黒髪短髪ボクっ娘
ということなのである。
「ふーん"競勇は専門外"ですか……キミが、ねぇ?」
ツバサは俺の目の前にしゃがんでなにか言いたげな目で、雑草をむしり続ける俺を見つめる。
「ホントはめちゃくちゃ強いですよねキミ?」
「は?」
「とぼけるのヘタだなー、最強冒険者一家、ロックハート家の三男さん?」
彼女はポケットから、きれいに折られた古い新聞記事の切り抜きを数枚見せつけてくる。
どれもが俺の冒険者時代に上げた功績についての記事であった。
「はぁ……それを知ってて話しかけてきたのか?」
入学してから特に隠していたわけでもない。
だが調べないとわからないようなことをわざわざ言ってくるあたり、彼女は元冒険者の俺を本気で勧誘しに来たのだろう。
すこし動揺した俺の顔を見て、ツバサはドヤ顔をかます。
あまりにもその「オマエの正体見破ったり顔」が鼻についたので、こちらも意趣返しだ。
「いや、俺の方も思い出したぞ。」
「へ?」
「この国の食糧生産の大半を担う大農家、ストロフェザー家のご令嬢さん?」
「あら、バレちゃった?」
「豪農のご令嬢がどうして『競勇』なんて"野蛮な部活"を?」
「冒険者になりたいからに決まってるじゃないですかー、"競勇は冒険者への最短ルート"ってこれくらい常識ですよ、イマドキ……」
彼女はなれた手付きで俺の畑に生えた雑草を処理しながら言葉を続ける。
「そ、それで?競勇、興味あるんだよね?」
「いや、別に」
「えっ?今?!」
ツバサは急に目を輝かせて俺の腕をガシッと掴む。
「『イヤェ~ス、ベリマァ~ッチ』って言った?ホント?!やった!!!」
そう言って彼女はズンズンとグラウンドへ引きずる。
想像を遥かに超えるド怪力で。
「お、おいっ!引っ張るなって!……ってかどんな聞き間違いだよ!おい、やめろバ怪力女!引きずるな!」
「まあまあ、『体験入部』だけ、『体験入部』だけですから!」
「それ、絶対『体験入部』で済まないパターンだろ!」
そのまま彼女に数百メトルを引きずられる。
グラウンドにたどり着くと、普段見ない戦闘用ジャージを着た生徒が十数名。
彼らは準備運動をしているようだ。
「おい、あれは?うちの生徒には見えないが?」
「そりゃまあ、オルタルテ冒険学園の『競勇部』ですからね」
「はあ?お前さっき『体験入部』って言っただろ」
「『体験入部が練習試合じゃダメ』なんて誰が決めたんですかぁー?!」
いつ?どこで?地球が何回回った時ですか?
とふてぶてしくもお決まりの文句を繰り出すツバサ。
そんな彼女へスキンヘッドでイカツイ顔の他校の生徒が歩み寄り、声をかける。
「おいおい、ようやくおでましか……いつまで待たせんだ、農学の部長さんは?」
「あ、スミマセン……コイツが急に"練習試合イヤだー"なんて言い出したもんですから」
「は?言っとらんわ!!!」
「ふん、まあいい……俺の名はテツル。約束通りこっちからは2つのパーティを出す」
「ボクはツバサ!こっちはハロック!ウチは4人組の1チーム!よっろしくー!」
競勇は基本1パーティは4人組。
こっちのパーティは今のところ、俺とこのバ怪力女だけ。
あと2人足りない気がするが……
そんなことを考えていると、ツバサはグラウンドのベンチに腰掛けている2人に声をかける。
「おーい、試合始まるからコッチきてー!」
ツバサが声をかけるとベンチの方からジャージ姿の2人がこちらに向かってくる。
元気そうな1人は全速力こちらに走って駆け寄り、もう1人は眠そうな目を擦ってテクテクとこちらに歩いてくる。
「もーーー、もうグラウンドの外周走り飽きたっすよー」
駆け寄ってきた赤と青のオッドアイの女子生徒はやる気満々のように見える。
ウォーミングアップとしてランニングをしていたようで、その明るい赤髪は汗で光っている。
腰には短剣と矢筒、背中には弓を背負う彼女はおそらく中遠距離戦闘に強いレンジャーだろう。
「ねむい……」
もう一方の女子生徒はただただ眠そうだ。
その透き通るような白髪にはボサボサと寝癖が沢山で、着ている白衣はボタンをかけ違えている。
革のベルトにカラフルな薬瓶を何本も差し、大きなウエストポーチをつける彼女はアイテム合成職のアルケミストといったところだろうか?
「……はいはいそれでは!4人揃ったところで待望の自己紹介ターイム!」
大胆な構成変更は初心投稿者の特権!
(変更前に読んでくれた皆様、ありがとうございます&ごめんなさい……クオリティーUPに努めますので……)