『青き戦士』第2章:猛襲(オンスロート)(2)
「えっ⁉何で門が開いたの?」
突如として、ボク達を囲んでいる敵(多分)の更に向こう、丁度、この世界の久留米市役所の正面出入口の辺りに別の世界…多分、ボクの世界との門が開いた。
「い……いえ、貴方の世界の竜神の巫女が、預かったモノを返すと……」
「返すって何を?」
「それが判らないんです。何度聞いても、要領を得なくて……」
「へっ?」
「どうなってる?」
敵(多分)のリーダーらしい太陽神の巫女(ボクたちの世界に似た能力を持ってたのが居たので、多分)も事態を把握してないようだ。
「コ事務官?ミリセントはどこだ?まだ間に合うのか?」
門の向こうから、その慌て気味の口調の言葉と共に現われたのは、銀色の「鎧」の戦士だ。
やっぱり、門の向こうは、ボクの世界…少なくとも、ボクの世界とほぼ同じ歴史を辿った世界らしい。何故なら、その「鎧」は、改造が加わっているようだが、コードネーム「護国軍鬼・四号鬼」……ボクの恋人が引退前に使っていた「鎧」だ。でも、声からすると、着装者は別人、おそらくミドルティーンの女の子。
「通信リンク検出、モード自動……接続。ん?え?何だよコレ?」
モニタに表示されてるのは、異常事態を示す警告。
ボクの「鎧」に搭載されてる無線データ通信機と同じ物理アドレスの無線データ通信機が存在してる?どう云う事だ?
「どうなってるんだよ?キミは誰だ?」
ボクは四号鬼の戦士に聞く。
「聞きたいのは私の方だ。何故、貴方がこちらにも存在している?」
答える四号鬼の戦士。ちなみに日本語。
「え?キミはボクを知ってるの?」
「何を言っている?私は貴方の弟子で、貴方は私の師匠の1人だ」
「ちょっと待って、もう、訳が判んないよ」
「そうそう、何で、ボクが2人居るの?あと、何で、門が開いた場所が、こっちの世界の久留米市役所なの?」
四号鬼に続いて、門から現われたのは……青い「鎧」の戦士……早い話がボクだった。いや、何故、ボクが2人居るか判んないけど、ともかく、このボクでは無い、もう1人のボクだ。
「おかしいなぁ……時間がズレてる?」
と、もう1人のボク。
「だから、ホントに、どうなってんだよ⁉」
ボクは更に訳が判んなくなって叫んだ。え〜っと、ボクってのは、門から現われなかった方のボクだ。つまり、ボクの事……あぁ、ややこしい。
「理屈は間違っていなかったが、目的の時間に行くには何回かやり直す必要が有るようだな……」
妙に落ち着いた声で、そう言ったのは、四号鬼の戦士(自称を信じるならボクの弟子。でもボクには覚えが無い)。
「おい、何の冗談だ⁉」
敵(多分)の1人が、そう言った。
「知らないよ‼」
「知らないよ‼」
ボクとボクが同時に叫ぶ。
「おい、え〜っと、何て呼べばいいんだ?まぁ、いいや。おい、ボク。こっちの時間で、今はいつ?」
もう1人のボク。
「こっちの世界に来てから、1時間経ってないぐらいだよ‼」
「Am I too soon ?(え〜っ⁉来るの早過ぎたの?)あ〜……完全にマズい」
そう言ったのは、もう1人のボク。
「おそらく、平行世界同士を接続する際の不確定性に『アーリマン』が消滅した影響が重なった事による純粋な偶然だろうが……」
今度は四号鬼(くどいけど、こいつはボクを知ってるらしいが、ボクはこいつを知らない)。
「なに?まさか……」
「そう、ボクはキミから見た未来のキミ……いや待て、変な事が起きたから、現在進行形で平行世界が分岐してる最中なのか?まぁいいや、ともかく、ボクは概ね未来っぽいナニかにおけるキミで、キミはボクにとって、だいたい、過去っぽいナニかにおけるボクだ」
「ちょっと待って、不安になって来たけど、ボクは、ちゃんと、ボクの時代に帰れるの?帰ったら、紀元前百万年だったりしない?」
「ボクは、無事、元の時間に帰れた。つまり、恐竜のガジくん達と超古代人が同じ時代に仲良く共存してたかどうかは確認出来なかった」
「恐竜のガジくん?紀元前百万年?恐竜が滅んだのは、もう一桁ほど古い時代ですよね?貴方の世界では、ジャワ原人や北京原人が居た時代まで恐竜が生き残っていたんですか?」
チャユが「訳が判らない」と言いたげな口調で、そう言った。
「いや、『ガジくん』ってのは、ボクの世界で、昔、放送されてたアニメのキャラで、向こうのボクは冗談を言ってるだけだよ」
「アニメって何ですか?」
「え〜っと、あぁ、こっちの世界では、アニメは有ったとしても呼び名が違うのか……ええっと、何と説明すればいいか……」
「ともかく、キミが元の世界に帰る場合、ちゃんと本来の時間に戻れるかは見当も付かない。でも、この状況だと、帰る為の門を開く時に、ボクたちの世界の日時を確認した方が良いかも」
もう1人のボクは、冷静な口調で、そう説明した。
「わ……判った。じゃあ、何か有益な情報が有ったら教えて。まさか、未来の情報を教えると、ややこしくなるとか言わないよね?」
「ごめん、これ以上、ややこしくすると、何が起きるか判んないから、一旦、帰るよ」
「そう言わずに、何か教えてよ」
「1つ思い付いたけど、やだ」
「何で?」
「クサいセリフだから言いたくない」
「いや、キミがどんな事言っても笑わないよ。同じボク同士だろ」
とりあえず、ボクの正面に居る敵(多分)のリーダーらしいモヒカン頭っぽい髪型の「同性愛者とトランスジェンダーの違いを知らない阿呆が想像するレズビアンのタチ」を具現化したような感じの東洋系の女の子は、自分を間に挟んで、ボクとボクとチャユがコントを始めたせいで、「ええっと……」って感じの顔をしている。
「判った、じゃあ言うよ。キミが居るべき場所は、元の世界だ。キミが護るべき者や愛する者が居るのも元の世界だ。ここでも、他の世界でも無い。その事を忘れるな。元の世界との絆や、元の世界にキミが愛する者が居る事が、キミや、キミがこの世界で出会う事になる友達を助ける事につなが……」
何だよ、それ。ボクだったら、そんなセリフ恥かしくて口に出せないけど、でも、そのセリフを言ったのはボクではないボクだ。
「おい、自分で『キミがどんな事言っても笑わない』と言っといて、何だよ、その態度は⁉」
「ごめん、ごめん、ごめん。でも、1つだけ聞いていい?」
「何を聞くかは、大体、予想が付くけど、質問だけは許そう」
「その気障ダサい事を大真面目に言った時、ヘルメットの下で、どんな顔してたの?えっ?ああああ、ちょっと待て、帰っちゃうの?」
「もういい、あとは自分で何とかしろ。アホだった頃のボクを信じたボクがバカだった」
そう言って、もう1人のボクと、四号鬼の着装者(ボクにとっては未来の弟子らしいが何者かは不明)は門の向こうに帰っていく。
その時、四号鬼の背中に見えたものは……待て、どうなってる?あの「四号鬼」の中身が、ボクと同じ「強化兵士」だとしても……明らかにオーバースペックだ。おそらく、ボクたち「強化兵士」を凌ぐ身体能力の持ち主か、かなり強力な高速治癒能力の持ち主で無い限り、最大スペックの五〇%以上のパワーを5分以上出し続けようものなら、「中の人」は後遺症が残る事が確実な大怪我をする。あの「四号鬼」の中身は何者で、そして、あの「四号鬼」は誰が何の為に再設計したものなんだ?
「あ、そうだ。とっても、とっても、とっても、とっても大事な事だけは教えてやるよ。ボクの世界では作られなかったけど、今、こっちの世界には存在しているあるモノを、確実に手に入れろ」
もう1人のボクは、こっちを振り向いて、そう言った。
「何をだよ?」
「『キャプテン・アメリカ』のBlu−ray。3部作で、主演はクリス・エヴァンス」
待て、何で、この世界にBlu−rayが有るんだよ?ボク以外に他の平行世界から、この世界に入り込んだ誰かが持ち込んだのか?それ以上の超大問題だけど、ファンタスティック・フォーのヒューマン・トーチを演じたチャラ男が主演の「キャプテン・アメリカ」って、どう云う事だよ?
「何で、それを手に入れる必要が有るの?」
「もし、手に入れないと、確実に、キミの人生は悪い方に大きく歪む。つまり、キミはアホのままだ。あ、ついでに、こっちの世界では、ボクたちの世界では廃れたアナログ・コンピュータが面白い発達をしてるみたいなんで、余裕が有ったら、そっちも調べとけ」
もう一人のボクは、そう言って、門の向こうに消え、やがて、門そのものも消えた。
訳が判んないが、でも、1つ言える事が有る。あいつは、間違いなくボクだ。
「待てよ、じゃ、クリストファー・ノーランの『ダークナイト』の続篇が作られた世界も有るのか?」
「あ〜、それは観ない方がいい」
「へぇ〜、そうなんだ、ありがと」
さっき、「護国軍鬼」を名乗ったヤツが、ボクに独り言に反応した瞬間、ボクは「鎧」の制御AIに命じた。
『余剰エネルギー放出』
そしてボクは宙を舞った。