ハンスと動く山
ミドガルズオルム討伐部分の参考資料。
わんぱくハンスは今日もいたずら、
村でも有名な悪童です、
一昨日は鶏の尾羽を引っこ抜き、
昨日は豚小屋の扉を開け放ち、
今日は牛の尻尾を蝶結び、
お母さんはハンスに拳骨を落として叱ります。
「そんなに悪いことばかりしていると
こわーいこわーい大蛇に食べられてしまうよ!」
「へへーん!そんなのいるもんかい!」
ハンスはあかんべーをすると
村を飛び出し森の中に逃げ込みます、
いつも遊ぶ森の中はハンスのお庭です、
いつものように泉に向かうと
今日は様子が違っていました、
「あれ?泉が枯れてるぞ!?」
いつも泳いだり魚釣りをしていた泉が
ほんのちょっぴりの水たまりになっています。
「それに…こんな山、あったっけ?」
泉のあった場所のほとりに
見上げてもてっぺんが見えないほど
大きい山がありました、
ハンスは不思議に思いながら山のほとりを廻ります、
すると、山の隙間から
何かが覗いているのを見つけました。
「これは…蛇の尻尾だ!
…そうだ!今日はこの蛇で遊ぶとしよう、」
ハンスは蛇を引っ張り出そうと尻尾を引っ張ります、
「うーんうーん…抜けないなぁ…。」
力自慢のハンスが引っ張っても
尻尾はビクともしません、
「ちぇっ!つまんないの!やめたやめた!」
ハンスは山を蹴飛ばすと木蔭で昼寝を始めました。
虫達の鳴く声でハンスが目を覚ますと
あたりはすっかりと日が暮れていました、
「あちゃー、またお母さんに叱られる…」
ハンスは森の中を走り、急いで村に戻ります、
ですが、村があったはずの場所には
何もありませんでした、
ガリオンさんの豚小屋も、
ストアさんの牛舎と鶏小屋も、
お父さんもお母さんもハンスの家も
そこには何もありませんでした。
ハンスは座り込んで泣き出しましたが
村も、人も、家畜達も、いつまでたっても
戻ってくることはありませんでした。
誰も居ない、何も無い村に
ハンスの泣き声だけが響いていました…。
火の国国立図書館蔵
~ハンス・グリーバー著「動く山を追う」
第一章「ハンスと動く山」~
火の国国立図書館に収蔵されている
生涯をかけてミドガルズオルムを追い続けた
ハンス・グリーバーの著書、
子供にも分かり易い童話形式になっており、
全20章からなるこの書籍は未完のまま
国立図書館に保管されている。