19話・伯爵と治療
馬車が止まり扉が開く。
そこには執事服を着た初老の男性がいた。
「ようこそおいでくださいました。私は当家の執事をしておりますノールと申します」
「リズンと申します」
「サーナーです。よろしくお願いします」
「はい。ではこちらへ」
執事であるノールにについていき門をくぐる。
豪華な庭園はなく資金を領地の運営に使っているのは一目瞭然だった。
館へと近づいていくと窓からこちらを見る一人の少女がいた。
14か16あたりだろうか?
どこか陰鬱な雰囲気が漂っており窶れている。
窓越しに目が合ってしまい直ぐにカーテンが閉められる。
『部屋の位置と先ほどの少女の服から察するに伯爵の娘でしょう』
(病気って感じか?)
『はい。顔の窶れ方からするに恐らくは魔素暴走症でしょう』
(何それ?)
『体内にある魔素、いわゆる魔力の元になるものが魔力として形になる前に呼吸などから
体外に排出されてしまう病気です。治療法は他人の魔力をそのまま流し込み
魔素が安定するまで続けることです』
(魔力の入れ方は?)
『様々な方法がありますが最も効率が良いのがキスです。
口内から排出される魔素をそのまま取り込みその魔素を体が魔力に変換したら魔力を
そのまま流し込む、つまり魔力の口移しですね』
(他は?)
『あの娘を助けるおつもりですか?』
(まあな。あまり困ってるやつを放置できる性格じゃない)
『お優しいですね。他の方法としては治癒魔法を発動し続けた指を数時間咥えさせる等などです』
(両方手段としてダメだろ)
『魔素が最も漏れ出ていくのが口なのです。そこ以外のところに何かしたとしてもあまり効果はありません』
(まじか)
「リズン様?どうかいたしましたか?」
ノールに声がかけられ我にかえる。
「なんでもないですよ」
「そうですか。ではドアを開けますが一つ注意事項があります」
「なんですか?」
「開いてから階段が中央にあるのですが二階の左側にだけは絶対に行かないで下さい」
「分かりました。二階の左側ですね」
二階の左側はさっきの少女の部屋があった場所だ。
「よろしいですね?」
「分かりました」
「では」
ギィという音とともに扉が開き金髪オールバックの30あたりの男性が俺たちを迎えた。
「ようこそ。私がこの街の領主のカタイラだ。
今回は魔物氾濫を事前に止めてくれたこと、感謝する。
ささやかながら贈り物がしたい」
カタイラ伯爵が指を弾くといつの間にかノールが小さめの箱を二つ持ってきてい。
「そこには数種類の魔法道具が入っている。ぜひ仲間で分けてくれ」
「ありがとうございますカタイラ伯爵。私達再誕はタガエルを
基本に活動していますので何かあったらご連絡下さい」
「よろしく頼む」
「カタイラ伯爵。質問が一つ」
「なんだ?え〜と?」
「リズンです」
「そうだ。なんだリズン殿?」
「先ほど窓から少しやつれた少女が見えました。彼女はあなたの娘ですか?」
「、、、そうだ」
「よければ治させていただきたい」
「治るのか!?娘の病気が!?」
食いつきようが凄まじいいな。
そんだけ娘が大切なのだろう。
「しかしそれに関し二つほどあなたに許可を取らなければいけないことがあります」
「なんだ?出来る限り許可しよう」
「まず一つ。あなたの娘さんの病気はおそらく魔素暴走症でしょう。
治療法が二つほどあるのですがそこに問題があります」
「どういうことだ?」
「治療法一つ目。
娘さんの構内から漏れ出ている魔素を直接取り込み魔力に変換したあと口から戻す方法。
治療法二つ目。
治癒魔法を発動させた指を数時間咥えさせる。
この二つになります」
「そういうことか、、さすがに一つ目は許可できない。二つ目ならギリギリ許容範囲だ」
「分かりました。そして二つ目の質問」
「なんだ?」
「あなたは私の正体に気付いていますよね?」
沈黙が広がる。
俺は知っているのだ。
この目の前の男が両親が生きていた時に暴行を加えていた看守の兄であるということを。
「そうだな、知っている。昔弟であるあのクズが暴行を加えた囚人の息子で、
王女殿下を逃がした牢獄の番人本人であるということをな」
ノールが驚いた表情をしている。
サーナーは説教されている時に知っちゃったから驚いてない。
「やっぱり気づいてましたか」
「当たり前だ。忘れるはずがないだろう。弟の悪行を知り駆けつけた私が見たお前のあの眼をな。
その眼は今でも変わっていない。全部に失望して諦めた眼だ」
「今は少し希望もありますよ」
「王女殿下のことか?まあいい、心配するな。王女を側にしてデラードたちを追い落とすことなどしないさ」
「安心ました。それで、治療の件。本当によろしいのですね?」
「ああ、やってくれ。命と考えれば安いものだ。ついてきてくれ」
ノールに木箱を渡しカタイラ伯爵についていく。
二階の左側に足を踏み入れ奥から三番目の扉に向かっていく。
「ミーナ。入るぞ」
扉を開けるとそこには貴族の娘のようなきらびやかな印象などどこにもないとてもやつれた少女がいた。
「誰ですか?ああ、さっき窓越しに目があった人ですね」
「そうなのか?それはいいがお前の病気を治せる人だ」
「もういいですよお父様。この前の方も言っていたではありませんか。この病気は治らないと」
「彼なら直せるかもしれないんだ」
「分かりました。どのみち変わりませんわ。何をすればいいんですか?」
ミーナは俺の方に目を向け何か言われるのを待っている。
この目はあれだ。
昔の俺に似ている。
「とりあえずあなたは、私の指を数時間咥えていればいいだけです」
「それで何か変わるんですの?」
「やってからのお楽しみだ」
(まあ何が起こるかは知らないんだがな)
『治癒魔法は少しだけ特徴がありかけられている人の魔素や魔力を少しだけ安定させることができます』
(それを利用するってことか)
『はい』
指を出すとミーナは素直に咥えた。
「行きますよ」
指のヌルヌルとした感覚に耐えながら能力・治癒魔法を発動する。
「終わったら教えてくれ、、、」
そう言ってカタイラ伯爵は外に出て行ってしまった。
『もうちょっと出力を強めた方がよさそうですよ?』
「わかったよ」
「わぁうぇほぉははひへふふでふぇふぁ?」(誰と話してるんですか?)
「しゃべんないで下さい。指にしたが当たります」
突如指にヌルリとした感触がまとわりつく。
「何をやってるんですか?」
ニャと笑ったミーナは顔色が良かった。
『マスターの出力が意外と強かったのでこれならば数十分で終わりますね』
(意外とはなんだ意外とは、、)
みるみるうちに傷んだ髪は直り、窶れていた顔も生気を取り戻していった。
「ふほ、、、」(うそ、、、)
髪の毛が直ったのに気付いたミーナが驚いている。
「ふへははいよへ?」(夢じゃないよね?)
「夢じゃないです」
そのまま50分が経った。
牢獄の番人・リズンにミーナの治療を任せて50分経った。
まだだろうか?
元気になるだろうか?
「カタイラ伯爵。終わりました」
「終わったか!どうなんだ、ミーナは!」
「ご自分の目でお確かめ下さい」
小走りにミーナの部屋に向かい扉をあける。
「ミーナ!」
部屋を開けるとそこには妻そっくりで綺麗な娘の顔があった。
「お父様!私、、こんなに、、」
「そっくりだ。亡くなったお前の母さんにそっくりだよ」
「治ったんですね。本当に、、」
「よかった。よかったよぉ、、グス」
そこには貴族の顔など関係なくただただ娘の病気からの回復を嬉し泣きしているただの娘の父親のカタイラがいた。




