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第五話    『豊穣神のダンジョンの奥で……』    その三十二


 それは強烈な爆発となっていた。豊穣神のダンジョンの地下深くで、錬金術により生み出された火薬は、リエルがダンジョンから引き出した豊潤な魔力と融け合うことで、強大無比な火力へと化けていた。


 ガルフに言われて、慌てて長いエルフ耳を押さえてはみたものの……リエルの小さな手のひらを貫通するようにして、振動は鼓膜へと響いて来ていた。衝撃の強さに、爆炎を浴びたわけでもないリエルの体内までもが揺さぶられる。


 肺がつぶれそうになるほどの圧力を感じて、リエルはその瞬間に意識を消失してしまっていた。だが、さすがは森のエルフの王族の血ということか……彼女はその衝撃で傷を負うことはない。


 ……ガルフは、爆風に吹き飛ばされて、ダンジョンの壁に叩きつけられていたが、その老いた両腕はこんな時さえも器用に動き、壁を腕全体を使って叩くことで受け身としていた。


 ダメージはあるが、致命的なものではない。


 ガルフは土煙の満ちた空間のなかで、ゴホゴホと咳き込みながら……ゆっくりと壁から身を起こした。


「……リエル嬢ちゃんは……さすがに失神しちまっているか……エルフの耳の良さは、こういう時にはデメリットになるということを、身をもって学べたか。いい経験値を得ただろうよ」


 ガルフは気を失い、目をクルクルと回しているエルフ少女の脈を調べる。心臓は、至って健康そうだ。ダメージはなさそうだ。見かけ以上に、ずっと頑丈な体をしているらしい。


 才在る者が、不断の努力を用いて鍛錬を続けた結果というわけだ。彼女は、すでに超一流の戦士と呼べるだけの能力はある―――もちろん、経験値が少ない以上、本物のベテラン戦士が相手だった場合は、遅れを取るときもある。


 ……経験値ってのは、本来の強さ以上の能力を引き出すことだって、出来るんだからな。 土煙のなかを、ガルフは歩く。死んでいたってガルフからすれば全くもって構わない連中なのではあるが、犯罪者どもまで無事に生きているらしい。盗人どもはしぶといというか……。


 ゴールドマンが許すとも思えないが、まあ、殺さないでいておいてやろう。どちらも無防備に爆風を浴びてしまって、鼓膜や横隔膜が揺さぶられて失神している。まともに動けるようになるのは、数週間後ってところだろう。


「……問題は」


 『ジュエル・ビースト』は、見事なまでに砕け散ってしまっていた。あれだけの爆発の中心にいたのだから、当然の結末といえば当然であった。


 その上半身は完全に崩れ去り、下半身も両膝をついている。上半身がないから判別はしづらいが……その下半身はうなだれているようにガルフは感じた。


 深い亀裂がその下半身には走っているし、パラパラと固まった砂のような破片が、それからは剥落し続けていた。魔力も感じない。それはそうだ、ここまで破壊されてしまえば、呪術もかき消されてしまる。


 呪術は儀式で消せるものだ。


 壊せば、ゴーレムは死ぬ。バカな理屈を実践してみたが、問題はない。勝利してしまったな―――大量の宝石も、一緒くたに爆破してしまってね……。


「……壊れちまっているかなあ……」


 勿体ないことをしたもんだ。そう考えながら、足下に転がっている宝石を指で拾い上げると……ガルフの口元はニンマリとした。


 宝石を留めてある金具こそは壊れてしまっているが……宝石そのものの輝きは失われてはいなかった。むしろ、豊穣神のダンジョンの魔力が注がれることで、その輝きには深みが増している。


「……へへへ。まさかの、『魔石』化してやがるな。弱いが、魔術を放つための素材にもなる……」


 アミイ嬢ちゃんの持っていた、魔術師の杖。ああいった、錬金術師の発明品の素材になる……ただの宝石に比べて、4倍ぐらいは値が張るシロモノへと成長しているわけだ。全ての宝石がその変異を遂げているわけではないようだが……。


 足下に転がっている宝石を拾い上げると、半分以上の宝石は、『魔石』化という錬金術過程を過ごしたらしい。


「豊穣神のダンジョンに長らく封じられていた魔力を、あのゴーレムが喰らい、宝石に込めつつ……リエル嬢ちゃんが外側からも無理やりにダンジョンの魔力を注いだせいで、錬金術になったか」


 2対1の割合で叩き込めとは言ったものの、まさか……錬金術反応を起こすほどの精確さで、2対1の割合を実現していたというわけか。


「……とんでもない才能だ。自分の体内の魔力であっても……そんな精確さで操るなんてこと、大陸中探し回っても、どれだけの魔術師が出来るのか分からん。それなのに、この小娘ちゃんは……成長過程にあるはずだってのに、もうそのレベルを卒業している」


 自然界から魔力を精確に引き出せるなんてな。大魔術師の才能だ。これから知恵をつけていけば……どれほどの高みに至るのか―――楽しみすぎて、ガルフの貌は凶悪なまでにニヤリと笑う。


 あのドワーフみたいに太い犬歯を剥き出しにしながら、彼は目をクルクルと回しながら気絶している、偉大なる英雄の卵を見下ろして、勝利の余韻にひたるのだ。


「―――何を、ニヤニヤしてるんだよ」


 背後から浴びせられたその声に対して、ガルフは振り返ることもなく返答する。


「……なあに。『パンジャール猟兵団』の猟兵に相応しい才能を見つけちまったからなあ……嬉しくてたまらんのだ」


「……そこのエルフの娘か」


「そうだ。べっぴんになるぞ」


「まだ子供だ。あと二年ぐらいはしないとな」


「二年なんて、あっという間に過ぎちまうさ。それで……仕事は?」


「終わったよ。ねぐらに戻ったら置き手紙があったから、慌てて駆けつけてやったのさ」


「そいつはいい。依頼を二つ片付けた。ちょっとはいい酒が呑めるぜ、ソルジェよ」




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