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第五話    『豊穣神のダンジョンの奥で……』    その三十


 魔力のコントロール?


 その言葉を問われた瞬間、リエル・ハーヴェルの顔は王族の優位性を示すための伝統的技法を表情に現していた。森のエルフの王族に伝わる、美しきドヤ顔である。


「うむ!もちろんだぞ、私をどこの誰だと思っておるのだ!!」


「……どこから来たのかは知らないが、大いなる魔力と才能を秘めたエルフの娘っ子だということは分かるよ」


「そうか!……それで。どうすればいい?」


 未熟な経験しか持たないリエルは気が逸ってしまう。ダメージから回復しつつある『ジュエル・ビースト』に、さっさと決定打を叩き込みたがっている。動き出してしまえば、非力な装備と今の魔力では、あのデカブツを倒すことは難しい。


「……ここはどこだい?」


「……ん?ダンジョンの奥だが……?」


「そうじゃないさ。ここは、豊穣神に捧げられるために、帝国化しちまう前の地元の連中が、大事に奉っていた豊穣神の聖地だ」


「うむ。それは分かるぞ。今では、盗賊どもに穢されてしまっているがな……」


「ああ。だが、それでもだ」


「それでも?」


「聖なる者の権威は失われてしまったが……聖地としての魔力は温存されている」


「魔力が、温存……?」


 リエルは森のエルフの長い耳をピクリと動かしていた。ドワーフ族が鋼の声を聞くことが出来るように、森のエルフ族の耳は、自然界に宿る精霊たちの囁きに気がつけるのだ。


 魔力を、見つけていた。


 森羅万象に宿る魔力。その魔力が流れ込む性質があったからこそ、この土地は豊穣神に捧げられたのだ。


 豊穣神の祝福を授かることで、この土地は聖なる場所になったわけではない。元より自然に魔力が流れ込む場所であるからこそ、重要視されただけである。豊穣神への信仰が廃れてしまったとしても、ここには膨大な魔力がそこかしこに眠っている。


 『白獅子』の声が、聖なるダンジョンのカビ臭い空気を揺らす。


「……ワシたち人間族には出来ないが、宝石眼を持つリエル嬢ちゃんなら、やれるだろうよ。この地に封じられた魔力を引き出すことがな」


「やれる。聖なる霊木たちから、魔力を借りる術は、我が故郷では至極、一般的な行いなのだから」


「なら。魔力を引き出しな。いいかい、『炎』と『風』の魔力、それらを2対1で引き出して、あのデカブツに注ぐんだ」


「むう?注ぐだけでいいのか?」


 魔力を自分の身体に向かい入れて、術と化して放つ……ことぐらいはやれるのだが、とリエルは不満げに眉をよじらせる。


 ヒナ鳥の考えを、老いた『白獅子』は察していた。釘を刺すための言葉は、すでに彼の心に用意されていた。この作戦を与える時のリスクとして、彼はリエルが『それ』を行おうとすると予測済みである。


「自分の身に、慣れない土地の魔力を吸い込むなんざ、狂気の沙汰だからな。そんなことをしてみろ、嬢ちゃんみたいな大きな器には、容赦なく魔力が注がれる。体が壊れちまい、魔術師として使い物にならんくなるからな」


「む、むぐ。わ、わかっておるわ!?」


 ……知らないさ、世間知らずの森のエルフには。ガルフ・コルテスは知っている。森のエルフ族のプライドの高さと、ところどころに存在する危うさを。


 天才がゆえに、失敗をしらない種族だ。それだからこそ、どこの精霊たちも自分に従順だと勘違いしている……精霊は、そんなに甘い存在ではない。地の精霊は、ヒトを嫌っていることが多い。ヒトの一種であるエルフのことも、彼らは嫌いだ。


 むしろ、同じ土塊として、あのゴーレムに同情的かもしれないからな。


 そう、宝石から魔力を得ていたわけではない、『ジュエル・ビースト』もまたこのダンジョンから魔力をわずかに注がれていた。そして、ついにその活動を再開させる。


『ガルルルルルウウウウウウウウッッッ!!』


 獣染みた咆吼を放ち、傷だらけの石塊はリエルとガルフを威嚇する。まるで感情のある者が放つ悪意のような波動となり、二人は大きな音の波を当ててくる。しかし、所詮は呪いで動くだけの人形だ。


 敵対者を怖じ気づかせるための仕組みに、古強者も、天才少女の心も揺れることはない。


 ガルフは腰裏の小型アイテム入れから、錬金術で精製された火薬の包みを取り出していた。


「リエル嬢ちゃん、勝ちたいなら指示に従え」


「……うむ。炎と風で、2対1の配分だな」


「そう。それだけ注げばいい。あとは、この粉末の爆薬が仕事をするさ」


「アイテムに頼るのか」


「勝ちたいなら、全てを使え。仲間も道具も、全てをだ。そうでなければ、身の丈以上の仕事は、何一つだってやれないもんだ」


 ……リエルの心に、アミイ・コーデルの言葉が与えた衝撃が復活する。


 ―――帝国は、100万人の兵力を動員することが出来る……100万の戦士を相手にすることは、たった一人の聖なる復讐戦士では不可能だ。


 ……身の丈以上の仕事。


 ……敵の親玉を一人、射殺せば、片付くようなことではないか。


 自分一人では、やれないことも。誰かと手を組むことで大きなことを成し遂げられる。それは確かなことだった。


 聖なる復讐の戦士は、一人ぼっちではダメなのかもしれない。もっと大勢を仲間にすることで、ようやく100万の戦士を操る敵を倒せるようになる―――100万の敵に一緒に挑んでくれそうな奇特な戦士は、なかなか集まりそうにないけれど。


 でも。


 今日は学ぶとしよう。


 一人ではムリなことも、誰かと組めば行うことが出来たということを。


 リエルの両腕が大きく広げられる―――豊穣神に捧げられたダンジョンから、炎と風、二つの属性の魔力を引き出していく……森ではもっと簡単にできたが、この場では、思っていたよりも三倍は困難な仕事だと気づく。でも、彼女は集中し、土地に潜む魔力を誘導してみせる。


「……いい魔力の質だよ、リエル嬢ちゃん。ヤツが突撃したきたら、左右に散るぞ」


「……うむ。その直後に、仕掛けるぞ」


「ああ。カウンターってヤツさ。呪い仕掛けのゴーレムをハメるのなんて、簡単だってことも、リエル嬢ちゃんに教えてやるよ」


『……ギャガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンンッッッ!!!』


 威嚇の時間が終わった。二人が挑発に反応することも、逃走することも無かったせいで、攻撃するしか彼には無くなったのだ。


 叫び声と共に、壊れかけの土塊人形は最後の突撃を開始する!!




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