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第五話    『豊穣神のダンジョンの奥で……』    その二十二


 ホーリーとアミイはゆっくりと後ずさりを開始した。リエルとガルフは二人の盾になり、『ジュエル・ビースト』を睨みつける。動きを読もうとしていた。


「岩と宝石で造られた怪物ではあるが―――ヒトの形を模している。それはヒトに似た動きに縛られるという意味だ」


「……うむ。分かるぞ」


「重心を意識しろ。そこだけは、動きを誤魔化せるようなものじゃない」


 ……ガルフのアドバイスは基礎的なものではあるが、それだけにリエルに冷静さを与えてくれる。歪んだ形状のゴーレムだとしても、ムダに考え過ぎることはないのだ。


 大物相手のセオリーを貫くのみ。


 相手の強襲を躱して、チャンスをうかがい攻撃を加える……あるいは―――。


「―――来るぞ」


『ガゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!』


 『ジュエル・ビースト』が一瞬、その身をより深く沈ませる。反動を強めて、跳躍するためだ。


 ホーリーとアミイは十分に後退していたが、さらに二人の安全を高めるためにリエルとガルフは『ジュエル・ビースト』に対して『前進する』。


 勇気と自信があるからの行動であった。『ジュエル・ビースト』が跳びかかろうと言うのであれば、間合いを詰めてやることでその跳躍の射程を縮めようというのだ。そうすれば、結果的に後ずさり中の二人に対して攻撃は届きにくくなるからである。


 同時に前進しながら、お互いの意図を動きの中に悟った二人はニヤリと笑う。


 ……『ジュエル・ビースト』に感情は無いように思えたが、戸惑いは存在するようだった。その体に一瞬の挙動不審が混じる。明らかに動きを修正しようとしていた。やはりヒトの形をすれば、ヒトの動きに縛られるのだ。


 だが。


 その躊躇も一瞬のことだった。


 『ジュエル・ビースト』の巨体が大きく前進する―――跳躍したのである。接近して来る二人に対して、その巨体による襲撃を開始していた。


 重量物が飛びかかって来る。しかし、戦いの天才に対して、一瞬でも隙を見せるものではない。


 天才たちは『ジュエル・ビースト』が躊躇した瞬間、お互いに新たな戦術を用意していた。ガルフが誘うように魔術を用意し……リエルもその行動に反応するように魔力を高めていた。


「風よ!」


「撃ち抜け!」


 それは風の属性を帯びた攻撃魔術。敵に対して、大きな風の弾丸を撃ち放つものである。二人は『ジュエル・ビースト』の頭部目掛けて、その魔術を同時に使う。


 呪文という精神集中を用いない魔術では、威力も鋭さも欠けてしまうものだが。それでもタイミング次第では有効な攻撃と変えることも出来た。


 二つの風の弾丸は、跳躍した直後の『ジュエル・ビースト』の頭部を撃ち抜いていた。それは敵の動きを乱すことを成功させる。


 ……動き始めの頭を押さえた。


 それがヒトの重量であれば、完全にその動きを破壊し、その場に釘付けにすることだって可能になるはずだ。


 さすがにそれを成すにはこの敵は巨大すぎたが、動きを減弱させることは可能であったし……頭部を殴りつけるような風の魔術の前に、怪物の『弱点』は攻撃されていた。その表面に付着していた宝石類が剥がれ落ちていた。


 風の弾丸をカウンター気味にもらい、魔力の源を削がれた岩の怪物。その跳躍は乱れ、リエルとガルフにはわずかに攻撃の手が届かない。


 それでも敵意が翳ることはなかった。


 跳躍を封じられてしまったとしても、『ジュエル・ビースト』は腕を振り回すことで二人に攻撃を実行してくる。


 だが。


 二人は脚を残していた。


 巨大な岩の怪物の右腕に対して、リエルとガルフはそれぞれ左右に走ることで攻撃を回避していた。


 左右に走ることで敵を幻惑させるという基礎的な戦術も実行している。


 戦いは敵をどれだけ惑わせるかが決め手となる。『ジュエル・ビースト』も迷ってしまっていた。彼には3種類の獲物が見えたからだ。左右に回り込むリエルとガルフ、そして今では通路に逃げ込むことを成功させた、後退していく乙女たち……。


 戦いのための呪術が、彼の模造された精神に迷いを発生させるが―――戦いは攻めるだけではない。攻められることもあるのだ。


 リエルは俊敏さを活かして、迷える怪物の巨大な脚にミドルソードを叩き込む!岩をも削る怪力を持ってはいないが、アミイからのアドバイスを実行することは可能であった。


 『ジュエル・ビースト』の体表に浮き出た宝石。リエルの剣はその宝石の一つを正確に打撃してた。


 カツーン!という甲高い音が響き、宝石がまた一つ怪物の体から剥がれ落ちていた。魔力が少なくなるのをリエルは感じる……そして、痛みもあるのか。怪物はリエルに頭部を向けて来た。


 復讐しようとしたのかもしれない。


 だが、ガルフはすぐさま反応していた。


 怪物がリエルを狙うということは、ガルフに背中を見せるということだ。ガルフは、狂気に支配された人物のような行動を取る。


 この巨大な岩の怪物の腰に飛びついていた。抱きつきながら、右手に握ったナイフで正確に宝石を打ち、力尽くで宝石を剥がしてしまう。


 ガルフはそのまま『ジュエル・ビースト』を『登り』、その背中に完全に張りついてしまう。彼は呪われた怪物に囁くのだ。


「ワシに背中を見せるのは、良くないことだぜ怪物よ」


『ガゴゴゴ!!』


 怪物は暴れるが、ガルフは離れない。離れても得はないからであり―――リエルのために時間を稼ぐためでもある。


 そうだ。ガルフの行動は怪物の気を反らすためでもあった。この怪物を手っ取り早く倒すためには、エルフの使う強大な攻撃魔術。それが必要だとガルフも、そしてリエルも分かっていたのだ。

 

 


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