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第五話    『豊穣神のダンジョンの奥で……』    その二十一


 その気配が爆発的に強くなると二人が感じ取った瞬間、壁の一部が破裂していた!


 ドゴオオオオオオオンンッ!!


「な、なに!?」


「か、壁が……爆発したっすようッ!?」


 飛び散る岩石の欠片と、あたりを覆い隠す土煙。その向こう側から巨大な影が現れる。破壊を成した『犯人』である。


 そう、それはあの『ストーン・ゴーレム』であった―――しかし、先ほどとはあまりにもその形態が異なっていた。


 ある意味ではそれは美しい。金や銀の希少金属、そして、無数の宝石をその身に宿しているのだから。


「……アミイ、アレは、どういうことだ?」


「……宝石を……魔力の供給源を過剰に摂取していたのね……」


「盗賊どもが補完していた宝石を、喰らっていたということか……ッ」


「そうね。より自分を強大化するために。さしずめ、『宝石喰らいし暴走体/ジュエル・ビースト』と言ったトコロかしら……」


「キレイっすけど……なんだか、あのゴーレム、お顔が禍々しくなってませんっすか?」


 ホーリーは自分でも変な言葉を使っているという自覚を伴ってはいたが、『ジュエル・ビースト』のヒトで言えば『顔面』にあたる部位は歪み、鋭角を増している。より攻撃的になった気がするし、本能的に『邪悪』さを感じ取ることが出来ていた。


 怯えた少女の言葉に、傀儡錬金術師はうなずくのみだ。


「ええ。宝石にはヒトの悪意も宿りやすいものだから……」


「そ、そうなんすか……?」


「ヒトの人生を狂わすほどの、高級品だし……結婚や祝福の品として送られる。呪術の依り代としての素養は十分にある……元々、あの個体には暴走するような呪いが仕組まれていた。その呪いが強化されている」


「そ、それじゃあ……つまり、今、この状況は……?」


「とてもマズいわね……ッ。アレは、私たちを殺したい衝動に満ちているハズよ……ッ」


「ひ、ひええ……ッ。じゃ、じゃあ、今すぐ逃げるっすよう!?」


「そうしろ」


 リエルは『ジュエル・ビースト』を睨みつけながら、ホーリーとアミイを庇うように彼女たちの前に踊り出ていた。二人にとっての『盾』となろうとしているのである。


「リエルちゃん!?」


「……ここで食い止める……というか、アレを倒すのみだ。そうでなければ、狭い通路で背後から襲われる。それは、あまりにも不利だからな」


「そうかもしれないけれど……アレだけ宝石を吸収してしまったゴーレムは、暴走状態なのよ?……勝てると、思う?」


「……勝つしかないなら、勝つのみだ。私は、一族の仇を討つまでは、死んでいる場合ではないのだからな」


「り、リエルちゃん……っ」


「嬢ちゃんたちは下がってくれ。足手まといだ。他の男どものことは……今は忘れて、とにかくダンジョンから脱出することを優先しろ」


 他人の命にかまっている場合ではない。傭兵ガルフはそう判断している。『ジュエル・ビースト』は強い。そして、殺意に満ちていた。動かないのは、こちらの動向を見極めようとしているからだ。


 背中を見せたら、襲いかかって来るだろう。上体を前傾させて、膝を深く曲げている体勢から察するに―――跳びかかるさ。前に倒れ込みながら、加速して、あの巨体ゆえのリーチ任せに襲撃の速度を組み上げるつもりか……。


 重そうだから、その後の動きに俊敏さは少ないかもしれないが、その最初の襲撃だけならば、かなりのものだ。


「……ゆっくり後退するんだぞ。ワシらの背中に隠れるようにして、後ずさりする。ゴーレムから目を反らさずにな……」


「……で、でも……っ」


「ホーリーさん。私たちの戦闘能力では、二人の足枷になってしまうわ」


「……っ」


 戦う力がある。


 あの『筒』を使うことが出来れば、自分も戦える気がする……しかし。目の前にいる巨大な宝石の怪物を見てしまうと、脚が固まり、身が竦む。


 勇気が足りない。


 そう自覚してしまえるのが、悲しい。何だか自分がとても卑怯な生き物であるような気がしていたのである。勇敢な者と共に過ごすことで生じる、危険な劣等感であった。その感情は、時として無意味な自己犠牲を誘発する―――。


「―――ホーリー」


「……リエルちゃん、私……」


「今度は私が前衛を務めるぞ」


「……っ!」


「だから。お前は安心して下がっていてくれ」


「で……でも……」


「いいかい、嬢ちゃんたち。ワシは援軍を呼んではいるんだ」


「……援軍っすか?」


「戻って来ているかは分からないが、ワシの家に向かってくれ。事情は置き手紙に残してはいるが……まあ、そいつが戻っていないようなら、町の衛兵でも呼ぶといい。ゴールドマンに雇われたガルフ・コルテスの指示だと言えば、動いてくれる」


「……分かったわ。援軍を連れて来ます。エドガーは……」


「捨て置け。応急処置はした。そいつに構っていれば、皆を死に巻き込むぞ」


「……ええ」


 アミイはかつての同胞に対して、この状況下では何もしてやれることが無いと悟った。エドガーの意識はまだ無い。無理やり動かすことは彼の死を早めるだろうし、そもそも彼を背負ってこのダンジョンから抜け出せる体力など、アミイにはなかった。


 ……無力を感じて、アミイもまた自己嫌悪を覚えていた。だが、専門家としてアドバイスの一つぐらい残すことぐらいは可能である。


「……『ジュエル・ビースト』の倒し方は、体表の宝石を砕くこと。砕けなかったとしても、どうにかして体表から外すことで、その能力は大きく減弱することになるはずよ」


「了解だ。いいアドバイスだよ……さてと、動いてくれ。いくらワシらとて、君らを庇いながらでアレと戦うのは骨が折れそうだからな」




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