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第五話    『豊穣神のダンジョンの奥で……』    その八


 ホーリー・マルードは状況についていけない。アミイ・コーデルが金持ちで媚びへつらうべき人物であることは理解したものの、それ以外のことは何も分からないままだった。


 分からないコトがあったら、質問しなさい。とくに命に関わるかもしれないことはすみやかに!……姉にはそう習っている。


「まだ、他にも盗賊がいるんすね?」


「いるみたいだぞ。そして……おそらく、ガルフはそいつと捕らえようとしている。しかし、困ったぞ。強いヤツのようだな。剣術も使いこなし、どうやら呪術も使える」


「そんな。剣術も呪術も行ける敵なんて……有能すぎるっすよ?」


 たしかにこの子の言う通りではある。アミイはホーリーの言葉に大きな納得を手にする。敵サイドに呪術師がいるのは分かった。でも、その剣士が呪術の使い手であるとも限らない。


「……そうね。その人物の『協力者』に呪術師がいるのかもしれない……その場合は、とても残念な状況になるけれど」


「こ、これ以上、状況が悪くなるんすか!?」


「私にとってのハナシよ……」


「どういうことだ、アミイ・コーデル?」


「……5人目に『アルンネイル』のゴーレムを操る呪術を授けることが出来る人物?……そんな人物は、私たち、『アルンネイル』という組織の一員であった者に限るわ……」


 とんでもなく苦い果実でも食べてしまったときのような表情だ、リエルはそう考えていた。アミイは苦悩と悲しみで一杯になる。その予想は……彼女の思い出を穢す行為であるようだった。


「……そうよ。剣術と呪術を使いこなす?……そんな人物が、盗賊たちに混じっていると考えるよりは、そちらの方が現実的だもの……」


「……裏切り者がいたということか。エドガー・ライナーズを、お前たちの旧友の誰かが裏切っていた?」


「……その五人目に訊いてみたければ、分からないことだけどね。私たちのゴーレムを操るための呪いを刻んだ呪符。そういうアイテムを渡されていたのかもしれない……」


 パガールの町でのゴーレムの事件は、それなりに有名だった。近隣の町には元・『アルンネイル』のメンバーもいるはずだ……魔力を帯びた石材が採掘される土地、傀儡錬金術師の研究には適している土地なのだから。


 その誰かが、何かを企んでいる……?


 エドガーを罠にハメたのかもしれない。あるいは、止めようとした……?……ダメね、私は自分の都合の良い方向に物事を考えようとしてしまう……事実だけを追及すべきなのに。


「……ふむ。どうあれ盗賊どももゴーレムも、全員をどうにかすべきなのは確かだな。盗賊どもは、私が痛めつけた。あのゴーレムを仕留めて、さっさと、ガルフと合流したいところだ」


「ガルフさん、心配っすね……殺されてたりは……」


「大丈夫だろう。私とガルフに足跡だけで実力を知らせてしまうようなヤツだ。ガルフは負けない」


「ガルフさん、けっこうお年っすけど?」


「負けない自信があるから、一人で行動している。負けるかもしれないと不安があれば、私を連れて行った。私とガルフの二対一なら、剣術の使い手の一人や二人、瞬殺できる」


 確信があった。ガルフ・コルテスという人物が、そう容易く死ぬような人物ではないという確信を、リエルは持っている。


 ……とはいえ、敵は卑劣なヤツのようだ。何らかの罠が待ち構えているのかもしれない。急いで合流すべきではある。そのためにも、状況を把握すべきだな。


 リエルはゴーレムを観察する。壁に大穴を開けたゴーレムは、その部屋に侵入していく……何をしたいのかは分からないが、この部屋から抜け出すチャンスではある。情報収集をするには―――やはり、エドガー・ライナーズを問い正すのが手っ取り早い。


「ホーリー、アミイ。ゴーレムがどこかに行っている。移動するぞ」


「い、移動!?この部屋から出るんすか!?」


「……どこに?」


「エドガー・ライナーズを問い詰めてやる。何が起きているのかを把握したい。このまま全速力で外に逃げたとしても、あのゴーレムには追いつかれてしまう……倒すためにも、立ち回れるほどの広さがある部屋が理想だ……そういうコト、ヤツに訊けば分かるだろ」


「す、素直に話してくれるっすかね……?ギクシャクしているってレベルじゃないほどの不仲っすよ、私たち」


「そういう時は暴力で解決する―――コホン。いや、その前に、アミイの出番だ」


「そうね。任せて欲しい。彼も、さっきよりは大人しくなっているでしょう。ゴーレムに殺されかけて怯えたでしょうし……リエルさんに矢を射られている」


「致命傷ではないし、話せる。それで十分だろ?……アレは敵意だけでなく、我々に殺意を向けたのだからな」


 その言葉に、再び彼女は表情を歪めてしまうのだ。『アルンネイル』の錬金術師たちのあいだにあったのは、師に対する忠誠と尊敬だけではなかったのだと彼女は思い知らされていた。


 ……『アルンネイル』として行動した日々のことを、彼女は自分で評価していた以上に大切にしているようだ。


 リエルは一瞬だけ目をつむり、考えていた。かつての仲間に殺意を向けられるか……それは、悲しいことではあるな。


 だが。


 だからこそ、真実を解き明かすべきだ。この状況を利用している者がいるとするのならば、そいつを許す気にはとてもならない!


「とにかく、移動するぞ!二人とも、私について来い!」


 リエルはミドルソードを抜き放ち、二人に宣言した。


「わ、わかったよ、リエルちゃん!」


「……フォローする。まだ、魔術の一つや二つなら撃てそうよ」




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