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第五話    『豊穣神のダンジョンの奥で……』    その五


 角を曲がりながら、リエルは身を低くする。スライディングだ。その動作を摂りながら、敵を動きを観察する。ホーリーを見つけた。森タヌキの周りを、盗賊どもが取り囲んでいる。


 リエルは残酷な軌道計算を、本能的に行った。誰を射るべきか?ホーリーの正面にいる男だ。何故か?他のヤツらよりも近い場所にいる……射抜くには十分だ。弓使いは間合いが命。選べるのならば、近いヤツから射抜くのだ。


 殺意に満ちているものの……リエルは殺人を選ばない。アミイ・コーデルに気を使っているのか?……そうかもしれない。アレの仲間だというから、殺したくないのかもしれない。


 ……私は激甘な性格だな。


 どうあれ。


 作戦には従おうではないか。


 リエルの指が矢を放つ。身を低くした体勢ではあるが、その程度で精度を失うようなほどの未熟さは3年も前に克服している。逆さづりにされたとしても、100メートル先の小鳥を撃ち落とせるほどには鍛錬しているのだ。


 飛来した矢は、盗賊どもの脚の一本に深々と突き刺さる。狙いの通り、膝を射抜いていた。


「ぎゃああああああ!?」


 盗賊は激痛と共に、その体を引きつらせる。ホーリーの脚をつかもうとしていた盗賊は、そのまま尻餅をついていた。


「だ、誰だ!?」


「敵かよ!?」


「く、くそ!!……やっぱり、便利屋なんてのは、災いの元だ!!行け、ロン!!」


『ガルルウウウッ!!』


 『ヘル・ハウンド』が威嚇の声にノドを揺らした後で、リエル目掛けて走り始めていた。だが、リエルは余裕だ。たしかに、モンスターだ。その身に炎をまとった、不気味な犬もどき。


 ……ガルフが鼻で笑った通りではないか。猟犬としての動きは、並み。鼻の利きの悪さも冴えない。ただの駄犬に過ぎん。楽な的だ!!


 リエルは右手の小指と薬指の間に挟んでいた矢を弓につがえる。右膝を床に突くような姿勢になりながらも、その矢を放つ。


 精度は?


 当然ながら完璧だった。


 走り始めていた『ヘル・ハウンド』を頭部に、リエルの矢が命中していた。『ヘル・ハウンド』はその場で崩れ落ちる。


「ろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんんんんんんッッッ!!?」


 錬金術師のローブと、例の魔術師の杖を持った男がいる―――射殺せるな。リエルは背中の筒から矢を取り出している。立ち上がりながら、矢を構えた。


「……動かないで!!」


 殺せたが……リエルの構えが静止する。もちろん、放とうと思えば、いつでも矢を放てるようにはしているままだが。


 ……この戦いの場に、アミイ・コーデルが現れる。


 その姿に強い反応を示したのは、あの錬金術師のローブの男だった。つまり、あれがエドガー・ライナーズとやらか……あの犬の飼い主。悪いコトをしたか?……いや、殺意を放つモンスターを私に差し向ける方が極悪だ。


 しかし。


「お前のせいか!!お前のせいなのかよ、アミイ!!ボクの、ボクのロンを、殺しやがってえええ!!」


「……っ!?ちょっと、落ち着きなさい!!動けば、そこのエルフが射殺すわよ!!」


 ……ヒトのことを悪者にして!!リエルは憤慨する。だが、それどころではない。


「ホーリーよ、早くこっちに来い!!」


「う、うん!!リエルちゃん、ありがとー!!」


 ホーリーが動いたが……盗賊の一人がホーリーを捕まえてしまう。その腕をホーリーの腕に巻き付けていた。


「うあああ!?す、すけべえ!!は、離すっすよう!!」


「へへへ!!そうカンタンに離すわけがねえだろうよ!?」


「そーかもしれないっすけど!!離すっす!!」


「ホーリー。動くな」


「えええ!?」


 逆じゃないっすか?動かないと、このオッサンの邪悪なアームから逃れられないっすよう……っ!?


 リエルは弓を構え、獲物を睨みつけたまま矢から指を離していた。矢は恐ろしい勢いでダンジョンの空中を駆け抜けて、ホーリーの首に巻き付いていた盗賊の右肘にぐさりと突き刺さっていた。


「うぎゃあああああ!?」


「……はわわわあ!?」


 リエルちゃん、動くなってこういうことっすか!?動いたら、私が危なかったよーな気がするっすよう!?


「腕が、腕がああああ!!」


 暴れる盗賊に再び矢が放たれて、盗賊の左肘までも射抜いてしまった。ホーリーは自分の頭のすぐ横を矢が飛び抜けたことにゾッとしてしまう。


 叫びが更にヒドくなっている。だが、ホーリーはそのチャンスを逃さない。森タヌキのように短時間の瞬発力を使い、リエルの元へと走っていく。


「リエルちゃーん!!」


「ホーリー、こっちに来い!!私の背中に隠れるのだ!!」


「う、うん!!」


 ちょこまかとホーリーは走り、リエルの背中に隠れていた。助けてもらった。助けてもらったのは十分に理解しているつもりではあるが―――すこし、むすっとする。


「今の、ちょっと危なかったっすよ?」


「そうだな」


「そうだなって……っ」


 ホーリーは、やはりホッペタをリス・モードにしておくことにした。リエルちゃんの矢が刺さってしまうところだったのだから。コレぐらいの主張をしていても、悪くないハズっすよう……。


「こ、これ以上、血を見たくはないわ!!とりあえず、皆、動かないで!!戦いになれば我々の方が有利なのよ!!……エドガー、仲間に動かないように命令をして!!このままだと……誰かが死んじゃうようなことになるわよ!?」


 リエルは考えている。甘いことではあるが、それもよかろう。敵は排除しつつある。二人は潰した。あとは……ゴーレムさえ使われなければ、こちらの方が圧倒的に有利……。


「……あれ?」


 森のエルフの弓姫は気がついていた。ガルフ・コルテスがこの場にいないことを……。

 



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