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第四話    『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』    その十七


 ガルフはすでに自分の馬と共に、北門の出口に辿り着いていた。彼はザケロシュの正体に気がついていた。そのことにリエルは感心していたが、アミイは驚かなかった。彼は戦場にまつわることは、何でも知っているのだろう。


 少なくとも、自分が聞きかじったことがある知識について、ガルフ・コルテスが知らないなんてありえないように思えた。


「では、行くとしよう。その馬なら、一人乗りのワシの馬にもついてくるだろう」


「ああ。何せ、いい馬らしいからな。鹿よりも、乗り心地が良いぞ」


「……鹿と比べられると、そいつも泣くぜ?」


「いい鹿なのだぞ?……鹿をバカにするな?」


「鹿は好きだぞ。よく食べる」


 老戦士はニヤリと笑いながら、手綱を操り、かけ声を馬に聞かせた。馬はガルフの願いの通りに駆け始める。かなりの速さだ。


「ちょ、速いわよ、ガルフさん!?」


「いいや。いいハンデだ!いけ、馬!」


『ヒヒヒン!』


 白馬はリエルの声に反応していた。慌てるアミイを気に留めることなく、ザケロシュ馬はその真価を発揮してみせる。


 その脚はバネのように跳ねて、街道の敷石を蹴りつけた。アミイは今までよりも、倍近く速いと感じたし、事実、その認識は正しいものであった。


 並木の植えられた街道を、ザケロシュの馬は解放された矢のように鋭い走りで駆け抜けていく。


 ムダのない動き……こういう加速をするために作られた馬だからね……っ。でも、本当に速い。ていうか、ちょっと速すぎて、怖い……っ!?


「ふ、フフフ。お、思ったよりも、速いではないか……ッ」


「リエルさん、こ、怖いならゆっくりと……」


「否!……友が待っている。悪漢どもに捕らえられてな。酷い目に遭わされていたら、どうしよう」


「そ、そうね。彼らは比較的、紳士だとは思うけれど……」


 もう犯罪者だ。自分の知らない、悪意に満ちた面を、彼らは持っていたということの証。


 その連中が、若い女の子を誘拐している……あまり考えたくないけれど。酷い目に遭わされているかもしれないわね……。


「ホーリーを愚かな錬金術の実験などに使っていたら、全員……私の矢で殺す」


「……そっちのパターンもあるのね」


「そっちとは?他にもあるのか?」


「い、いえ。何でもないわ」


「そうか?……アミイ・コーデルよ。お前は、賢そうだ。だから、何か良案を思いついたら、言ってくれ」


 やけに素直だなと、アミイは感じる。


「もしかして、仲間探し?」


「……うむ。私だけでも、足りるかもしれないが……より多くの力があったほうが、もっと確実に足りるしな」


「……私は100万の兵士を持つ帝国なんかに、挑んだりはしないわよ?」


「今だけでもいい。仲間になってくれぬか?」


「……そうね。うん、いいわ。『アルンネイル』を……エドガー・ライナーズを止めるまでは協力させてもらいます」


「……状況次第では、お前を犠牲にして、ホーリーを手に入れることも考えている。それに、本当に不満はないのか?」


「……ええ。贖罪よ。錬金術を犯罪に使うようになってしまった、兄弟子たちを放置していた。私は……もっと早くに手を差し伸べることも出来た」


「金持ちだから?」


「そうね。けっきょく、私は……そうなのね。コーデルの小娘でしかない。もっと、偉大な女になりたかったのに……私は……一族の富しか、取り柄がないのね」


「……すまない。何だか、言い方が露骨だったかもしれない」


「構わないわ。事実だもの」


 沈黙が訪れる。ザケロシュの白馬が蹄鉄を街道の敷石にぶつける音だけを、馬上の錬金術師と弓姫はしばらくのあいだ聞いていた。


 先行するガルフの乗馬技術は見事なもので、体を上手く動かして、馬に対する負担を宰相のものへとコントロールしていく。競馬にでも出られそうなほど、馬の扱いに長けている……ザケロシュの白馬は、ゆっくりとその差を詰めている。


 ガルフは遊んでいるように見えた。


 競馬ゴッコだ。噂に聞くザケロシュの脚と競ってみたいのだろう。平均的な能力の馬を用いて、どこまで逃げられるかを楽しんでいるようだった。


 きっと。


 ザケロシュの軽装騎兵と戦っている気持ちになっているのだろう、アミイはそう考えている。最高の軽装騎兵との戦い方を研究すれば、どの軽装騎兵にも負けなくなるだろうから。


「ハッ!!走れよ、駄馬!!おっかないのに、ケツからまくられちまうぞお!!」


 楽しそうに弾む声をガルフは使っていた。戦場でも、あんな調子で笑うのかしら?……まるで、危険な場所こそが生来の居場所だって主張しているみたい。


 傭兵ぶっている?


 ……いや、傭兵であることが、ガルフの誇りなのかもしれない。錬金術師は分析を繰り返しながら、自分の場違いっぷりをより深く認識していく。


「……なあ、アミイ」


「……なに?」


「……お前は、いい錬金術師であるぞ」


「え?」


「……だって。私には、作れぬ薬も、作れている。そ、それは、たんに私の腕が未熟なせいで、森のエルフ族の薬草学の知識が負けているワケとかではなくて……ええい!とにかく、お前は、いい錬金術師だ!……ただの金持ちの小娘とかでは、ないはずだ」


「……慰めてくれているの?」


「いじけている者を見つけたら、森のエルフは二つから選ぶ」


「何と何かしら」


「つまらぬ者ならば、無視すべきだ。つまらぬ者がいじけているのは、フツーのことだからだ。気にしても意味がない」


「シビアね」


「森は忙しい。危険だし、ヒマじゃない。たくさんのことをしなければならんからな」


 狩りに、薬草摘みに、雑草むしりに。それに、縄張りの見回りとか、秘薬の調合。子供たちの世話をしたり、料理だって作らねばならんからな。リエルはそう矢継ぎ早に森での暮らしの大変さを語る。


 大変さを語っていることは、アミイにも分かるのだが。リエルがその暮らしを、どこか楽しそうに、そして、どこか誇らしげに語るものだから……森での暮らしを体験してみたくもなってしまう。


 ……その暮らしを捨ててまで、選んだのね。


 復讐の道を。


 ……違うはずだわ。あまりにも、私のような俗物とは、違いがある。


「……続きを話していいか?」


「ええ。つまらぬ者じゃなければ、どうするの、森のエルフは?」


「励ましてやる。有能な者は、くじけている場合ではないのだ。そんなヒマがあれば、さっさと何かを見つけて仕事をしろと言う!」


「あはは。厳しい『掟』ね」


「うむ。森のエルフの里の『掟』は厳しい。だからこそ、守られることもある。まあ、うちの『掟』はどうでもいい。とにかく、自分を卑下するな、アミイ。お前は、ゴーレムまで造ることの出来る、有能な錬金術師ではないか」


「……そうね。たしかに、ちっぽけだった、昔の私とは違うわね……」


「おーい。嬢ちゃんたち!」


「ん。どーした、ガルフ」


 気づけば馬たちのレースは終わっていた。ザケロシュの白馬は、ガルフの馬に追いついている。勝負というか、決着はついた。ガルフは、負けたのではない。満足げであった。予想よりも長く粘れたということだろう。


 競走の熱気は消え去り、今は馬たちは仲が良さそうだ。街道を外れて、森のなかを馬は並んで走っている。深い森ではないが、豊かな森……小鳥たちが歌い、足下には蜜蜂の好みそうな黄色い花が咲いていた。


「……豊かな森だな。魔力にあふれている」


「ああ。ほら、見えるか?……このまま、まっすぐ。森の切れ目に見えるだろ?白い石で造られたダンジョンの入り口が」


「……豊穣深のダンジョン。この森の豊かさなら、幾らでもゴーレムが造れる……いい穴場を、見つけたのね」


「……ほう。少し安心した」


「なにがだ?」


「ゴーレムともの動力に盗まれた貴金属が使われて、消滅していたりしなさそうだなと考えている。ゴーレムの実験ではなく、ただの金儲けが目的の敵か。俗物は、倒しやすいものだ。少なくとも、高尚な哲学の実践者よりは、よほどな」




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