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第四話    『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』    その十五


 玄関先で待っていたリエルに、ガルフとアミイは追いついていた。ガルフは不機嫌そうな顔のリエルに語りかけた。


「待たせたな」


「そうだ!……もっと早く動け!ホーリーの命がかかっておるのだぞ!?」


「ああ。知っているさ。とりあえず……馬を借りに行くぞ」


「……馬?」


「それなりの距離を移動することになる。走るよりは、速いし……何よりも体力を使わなくて済む」


「……ふむ」


「乗馬は出来るのか?」


「ば、バカにするな!?……あまり経験はないが、乗ったことはある…………鹿とかに」


 ガルフはその言葉を聞き逃すことにした。


 鹿に乗れるのならば、馬にだって乗れるだろうよ……。


「アミイ嬢ちゃんは?」


「乗馬は習いましたから、大丈夫です」


「……よし。とりあえず、ワシは自分の馬を取ってくる。アミイ嬢ちゃんは、リエル嬢ちゃんを連れて馬屋から一頭借りて来い」


「一頭?……私たちは、三人ですが?」


「リエル嬢ちゃんを後ろに乗せてやれ」


「え……」


 アミイはその言葉に恐怖を覚えていた。この宝石眼の少女は、イライラしているのに?……自分を容易く殺せるような強さを持っているのに?……そんな人物と一緒に、同じ馬の背に乗るなんて、どれほどの勇気が要ることか。


「私は、馬に乗れるのだぞ!?」


「……嬢ちゃんたちは体重が軽いから、一頭で十分だ。金はケチれ」


「む。倹約か……」


「そうだ。それに、手綱をアミイ嬢ちゃんに任せておけば、リエル嬢ちゃんは両手が仕えるぞ?……弓を使うためには、片手じゃ足りない」


「……たしかにな」


「では、町の北門で合流だ」


 ガルフは老人とは思えないほどの速さで走り始めていた。


「やはりただ者ではない動きをするな、ガルフめ……さてと、アミイ・コーデルよ」


「は、はい」


「……馬屋とやらに案内しろ。ガルフほどでなくてもいいが、急いで走れ」


「わ、わかったわ!」


 逃げ出したい気持ちもあるからだろうか?……アミイは自宅の玄関に鍵をかけると、自分でも考えていた以上の速さで走り始めていた。


 リエルから逃げているようだったし、その感情もある。


 だが、リエルは簡単にそれに追いついてしまう。


 ……さ、さすがエルフ!?速い上に……反射も早いのね。声もかけずに走ったのに、ピッタリと喰らいついてくる……っ。


 錬金術のための希少素材を求めて、山や森の奥を彷徨うフィールドワーク。その職業的な仕事で鍛えていたはずの脚力には、アミイは密かな自信を持っていたのだが、その自信が粉々に砕けていった。


 ……逃げられない。


 いや、逃げるつもりはないのだけれど。


 ああ……ピッタリと背後を、ついて走ってくるわ……っ!?


「いい動きだぞ。そのまま急げ」


「は、はい……っ」


 精神的に追い詰められるようだ。狼に追われる可愛いウサギの気持ちが、今なら分かるような気がしている。


 とにかく、アミイはそれなりのオトナ女子であるが、恥も外聞も気にすることなく『パガール』の街並みを走り抜けて、東門の出口近くにある『貸し馬屋』に辿り着いていた。


「はあ、はあ、はあ……っ」


「どうした、息が荒いぞ?」


「…………っ!?」


 あんなに走ったのに、息一つ乱れていない!?……エルフ族だとしても、体力があり過ぎるわね……っ。この子を、さらに鍛えて、ガルフさんは何を企んでいるのかしら……っ。


 ま、まあ。いいわ。そんなことよりも、目的を達成しなくちゃ。エドガー・ライナーズを止める。そして、あのゴーレムに誘拐された子を救出しないと……。


 そのためには、まずは移動のための手段だ。この子なら、何だか馬とかいらないような気もするけれど…………細かいことは、考えないでおこう。


 アミイは呼吸を整えた後で、明らかに商売用のスマイルを浮かべているハゲ頭の店主に近づいていく。錬金術師のような存在は、彼のお得意様なのだろう。金を持っていて、フィールドワークも多い存在だ。


 馬に乗るというよりも、馬に荷物を載せて歩かせることの方が多くなるものだが……今は、足が速い馬を一頭だけ借りることにしよう。


「……おじさん。馬を一頭、借りられるかしら?」


「ん?一頭でいいのかい、二人いるじゃないか?」


「いいのよ。二人乗りでいい。私たちは体重が軽いもの。大男を乗せられる馬が一頭いれば十分よ」


「たしかになぁ……でも、オジサン、ちょっとガッカリだぜ」


「……期待させていたみたいね。でも、いい馬を寄越してくれたら、銀貨3枚は上乗せしてあげるわ」


「へへへ!さすが、錬金術師サンだ。そういうローブを着た人たちには、いつもお世話になっているんだよねえ」


「……とにかく、いちばん、足の速い馬を借りられるかしら?」


「ああ。任せておきな……でも、どれぐらいの距離を走らせたいんだい?30キロを駆け抜けられる馬と、15キロまでなら最高の馬がいるが……」


 6頭ほどの馬が並んで繋がれている。アミイには、その馬のどれもが同じように見えていた。


「選り好みしているヒマはないの。どれでもいいから……」


「……この馬が良さそうだぞ」


「え?」


 リエルは白い馬を選んでいた。6頭の中でも、最も小柄なことはアミイにも分かる。キレイな馬だが……この鹿に乗っていたという、強烈な田舎者は、見た目で馬を選んでいるのだろうか?


「そ、それは一番小さな馬よ―――」


「―――いい目をしているな、エルフの嬢ちゃんよ!!」


「……まあな!」


 褒められたからには、ドヤ顔をせねばならない。それが、森のエルフの王族としての義務なのである。自分たちの種族の『有能さ』を世間に知らしめる。


 それもまた王族としてのつとめなのであった。


「……何よ、リエルさん。馬の良し悪しが分かるの?」


「知らん」


「……じゃあ、なんで、その馬だったの?」


 やはり、見た目が美しいからだろうか……?


「筋肉の付き方だな」


「筋肉の付き方……?」


「ああ。この馬が、いちばん絞られているように見えた。どの馬よりも速く走れるかは分からないが……どの馬よりも、強く跳ねることは出来ると見たぞ!」


「正解だ。コイツは、ザケロシュ馬って品種なのさ。この品種で白馬になるのは、珍しいんだがよ?……少しばかり馬に詳しいヤツに、オススメしても、つまらん知識のせいで、駄馬扱いされる。コイツは、うちで最高の馬だぞ」


 ……ザケロシュの名前を博学な錬金術師は聞いたことがある。軽装騎兵のための軍馬として何世代もかけて作られた品種のはずだ。


 知識では、知っている。


 だが、見たのは初めてのことだ。この品種を生み出した国は……ファリス帝国に統合されて消滅している。そのこともあり、すっかりと幻の名馬と呼ばれていたりする……。


「こんなことろに、いるものなのね」


「こんなトコロってのは、ヒドいぜ、お嬢さま」


「……あ。す、すみません。でも、ザケロシュの馬なんて、初めて見ましたので」


「大きな賭けでの商品だった。馬飼い仲間のあいだでも、皆が取り合ったんだが……運良く、オレがもらえたのさ。調教済みだったんだが……まあ、これが気性が荒くて―――」


「―――あはは。こら、馴れ馴れしいぞ」


 気性が荒く、乗りこなすことの難しいとされる軍馬が……森のエルフの少女に、やたらと懐いていた。鼻先を当てながら、彼女の銀色の髪を嗅いでいるようだった。まるで、懐かしむように……。


「……あの馬が、あんなにじゃれてるの見るの、初めてだぜ……あのエルフの嬢ちゃんは騎兵の娘か何かかい?」


「……いえ。多分、戦士の才能にあふれているんです」


「ハハハ。そいつはいい。よし、じゃあ、アレでいいかな?」


「私が乗っても、大丈夫でしょうか?」


「基本的に躾は出来ている。大丈夫だよ、あのエルフの嬢ちゃんの軍門に降っている。暖炉の前の猫みたいに大人しいさ」




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