第四話 『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』 その八
……リエルとガルフがその指輪を見つけている頃。ホーリー・マルードは凍りついた顔で、思考中であった。
……絶対、このヒト、犯人っすよ。
こんな怪しい人物、見たことないっすよ……。
どうしよう?
どうしよう?
……ゴーレムを作って、それに強盗やらせるような人物と、私、一対一の環境なんですけども?
頼りになりそうなリエルとガルフも、どこかに消えている。もしも、ガルフを見かけたら、駆け寄って、この女が犯人に決まっているのだと叫びたい気持ちで、ホーリーの小心者のハートは張り裂けてしまいそうだった。
だが。
怪しんでいるのは、ホーリーだけではなかったのである。
アミイ・コーデルも、ホーリーのことを怪しんでいた。
……この子、何なのかしら?
便利屋ギルドから派遣されたとか言っているし、たしかにギルドの会員証は本物っぽかった。魔力を与えると、【F】の文字がみじめに光るもの……。
最下級のギルドメンバー……?
公言していないとはいえ、あのコーデル家の私に、こんな安げな便利屋を送り込むなんて……失礼な気がします。
……べ、別に金持ちを笠に着るつもりはありませんが。こんな安げで変な小娘を送り込むなんて……誰が何のつもりで…………も、もしや。
「―――もしや、この子は、私を油断させるつもりで、マヌケを演じている、凄腕の暗殺者!?」
「あ、あ、暗殺者!?」
心外な言葉を吐きつけられて、ホーリーはパニックだった。
「ひ、ヒドいっすよ!?ギルド証を見せたじゃないですか!?私の身分は証明されたはずっすよう!?」
「黙りなさい。超がつく暗殺者であるならば……私に接近して、油断させるために、わざわざ微妙に難関と言われている、『マイコラ市の便利屋ギルド』に入り込む!それぐらい、して来てもおかしくないですわ!!」
そう叫びながら、ホーリーは魔力を込めた魔術師の杖を、ホーリーに向けていた。いつでも雷を撃つ準備はしているのだ!……いつでも……?
「……ちょっと、こんな大きな杖をヒトに向けるなんて、失礼っすよ?」
「……え?」
なんて。
なんて、無警戒なのだろう。
さっきもそうだった。こんなに強い魔力を込めた杖を、向けているのに?……こ、この子、怯えることを知らないの!?……何か、変な薬とかで恐怖とか克服しているのかしら……っ。
きっと。
きっと、生まれた頃から、ギルドはギルドでも『暗殺者ギルド』とかで育て上げられた生粋の殺し屋なのね!?……怖い!!コーデル家だからって、色々と付け狙われて来たけれど、財産目当ての青年貴族の色ボケとかじゃなく……。
……つ、ついに、ヘビよりも冷たい血を宿す、殺戮機械のような暗殺者が、私のもとに現れたというのね!?……こ、これは……これは、いけない!!
「た、立ち去りなさい、この殺人鬼め!?」
「ひ、ヒド!?」
「こ、この杖で、ブン殴りますよ!?」
「そんな、コミュニケーションが取れてなくないっすかね!?私、便利屋ギルドのメンバーっす。殺人鬼じゃないっす。む、むしろ、殺人鬼とか、どっとかというと、そっちじゃないっすかね!?」
「何を言うの!?名誉毀損で訴えるわよ、このみすぼらしい貧乏人風情が!?」
「い、言うにことを欠いて、なんてコトを言うんすか!!う、うちだって、父さんのお店が倒産しなければ、もうちょっと豊かな暮らしをしていたっす!!」
「古典的なダジャレで、私の心を惑わすつもりね!?」
「そんなスキルは私にはないっすよう!?」
「ええい!!あなたのような怪しい人物は、私の前から、立ち去るべきなのです!!」
「た、立ち去るっすよう!!とんだ暴言吐かれて、こっちは頭に来ているんすから!?」
「ええ。さっさと尻尾巻いて逃げなさい!!……ゴーレムを、呼びますよ!!」
「自白も同然ッ!?」
「な、なんですか、そのツッコミは!?私、名誉を毀損されて気持ちになりましたよ!!暗殺者ギルドの小娘ごときが、コーデル家の私に、何か悪口を言うつもりだったんですわね!!」
「……何でもないっす!!何でもないっすから!!気にしないで下さいっす、私はもうここから逃げるっすから!!」
「な、ならば、なんで、座っているのです?」
「こ、腰が抜けたんすよう」
……『ゴーレムを呼びますよ』の一言で、ホーリーの勇気は消え去っていたのだ。何せ数時間前に『ストーン・ゴーレム』に殺されかけたばかりだ。
その恐怖は未だに新鮮な強さで、彼女の森タヌキ級の臆病なハートにこびりついていたのである。
「ちょ、わ、私に怯えて腰を抜かすなんて、それはそれで失礼なんじゃないです!?」
「た、頼むっすから、殺さないでくださーいっ」
「往来で人聞きの悪いコトを、言わないでくれません!?どちらかと言えば、あ、あなたの方が暗殺者っぽいんですから!?」
「人生で初めて言われたタイプの過大評価っすよう!!」
涙目だ。
まさか、こんな自分が暗殺者扱いされるなんて!?全部、ガルフさんのくれた『筒』のせいっすよう!!……何だか、名誉を深く傷つけられている気持ちにホーリーはなっていた。
とても情けない。マジメにコツコツ生きて来た人畜無害な自分が、まさか暗殺者扱いされる日が来るなんて?……ワケが分からないっす。私のよーな凡人にまで命を狙われるとか妄想しちゃうぐらいの、極悪人なんすかね、このトンガリ帽子の女は……っ。
「とにかく、さっさと何処かに行きなさい!!早く消えないと、この杖で―――」
―――ドシン!!
地面が強く揺れていた。その揺れに、アミイ・コーデルは転けてしまっていた。そして、魔力一杯の杖は彼女の手からこぼれ落ち、ホーリー・マルードの両手になかに渡っていたのである。
「し、しまった!?私の武器が!?」
「ひ、ひい!?これ、ぶ、武器なんすか!?そ、そういえば、ビリビリ、ちょっと揺れているっす。これも、ば、爆発するタイプの危険物なんすか!?」
「これもって、あなた、爆発するタイプの危険なものを所持していると、自白しましたね!?やっぱり、暗殺者じゃないですか――――」
―――ドシン!!
再び大きな音と共に、大地が揺れてしまっていた。アミイはその音の方向を反射的に見て、ホーリーもつられるように見てしまっていた……。
彼女たちのすぐ側には……巨大な『ストーン・ゴーレム』が立ちはだかっていた。
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