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第四話    『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』    その六


 ホーリーが犯人を見つけた気になっているとき、リエルとガルフは盗人のようにアミイ・コーデルの屋敷の敷地に突入していた。


 ガルフは狐のように身を屈めると、低い目線からその様々な錬金術用の薬草になる植物たちが生えそろう庭を睨みつける。


 『罠』を探しているのだば。リエルの勘がそう告げていたし、それは正解であった。ガルフの体と心に融ける膨大な経験値が語りかけている。


 錬金術師の庭。


 そこは高級な薬草の宝庫であることも多い。そうなれば、当然、盗人対策は施されてあっても不思議はないのだ。


「金目のモノがあるところ、罠もまたあるもんだ」


「……ど、泥棒の格言みたいだが、いいのか、それで?」


「真実だ。泥棒だろうが淑女の言葉だろうが、覚えて自分の思考に組み込んでいけばいいだろ?……頭も強くならなければ、腕前だけでは知れているぜ」


「……そうかもしれない。目からウロコだぞ、ガルフ」


「いい考えに貴賤もない。可能な限り、多くを知っていた方がいいだろうよ」


 さてと。ガルフは庭を調べ尽くしていた。罠をかけるときは、自分がかからないように注意を払う。なので、主の足跡を見れば、そこから逆引きするようにして罠の位置を把握することも出来る。


 ……足跡は、アホみたいだな。


 庭中を歩き回る。好奇心の塊のような人物のようだ、アミイ・コーデルとは。錬金術師らしい性格。そして、ズボラだな。ジョウロを片づけていない。薬草たちに与える肥料の袋が出しっ放し―――浮気性で、集中力が高い。


 突発的な好奇心に支配されたタイプってところの女か。新たな興味を見つけたら、そっちに全てを捧げてしまう……いい加減と言えばいい加減だが。咲かすことが難しい、雷鳥草を栽培している。才能は豊かだが、好きなことしか出来ないタイプか。


「……罠は、ないな」


 狐のようにしゃがんでいた姿勢を解除して、ガルフは瞬きしながら首をひねり、その部位をパキリと鳴らしていた。


「もう調べ終えたのか?」


「まあな。目でも調べたが、性格を読んでもいる。こういうズボラな姉ちゃんには、罠なんてモノは使えないさ」


「性格が分かるのか?」


「庭を見ればね」


 ……そんなバカな?……リエルは不満と不審を現すために頬を膨らましていた。庭を見たぐらいでヒトの心まで分かったりはしないのではないか?


 そう告げたい。


 告げたいのだが、何だか、この老人の言葉は真実なような気がしていけない。事実、この庭には罠はない―――森のエルフの聴覚と、魔力を感知する敏感な五感の全てを解放して探っているが、どこにもない。


「……玄関の方が、うるさくなっているな」


「ホーリーが何かをわめいている……錬金術師っぽい、そこそこ高い魔力の持ち主も現れておる」


「エサにかかったか」


「エサと言うな。エサは、魚に食べられてしまうではないか」


「じゃあ。釣り針だな。ちゃんと回収してやれば、何度でも使える」


 その言い方もなんだかヒドいよーな気がする。しかし、ホーリーは囮という役目を全うしたようだ。


 ならば、その囮と組んでいる射手としては、仕事をせねばならない。


「ガルフよ。どうするのだ?」


「家にも入る」


「う。予想してはいたが、さらに泥棒要素が深まるぞ?」


「いいのさ」


「いいのか?」


「正義のためだ。ワシらは、そう。一種の義賊みたいなもんだろ」


「ぎ、義賊……なんだか、とても素敵な響きであるな!」


 リエル嬢ちゃんは子供っぽいところが多々あるな―――こう言った心理の持ち主は……いや、止めておこう。彼女の分析をしている場合ではない。ガルフはそう判断していた。


「針が魚に食われてしまう前に、行動だ」


「うむ。それで、また鍵開けか?」


「当然な。ワシの十八番だ」


 ガルフはそう言い切ると、中庭からつながるドアに近づく。リエルは再びあの金属の棒の出番かと考えていたが……ガルフはあの棒を使うこともなかった。


 ただ、不用心にドアノブを手に取り、それをくるりと回していた。ドアはあっさりと開いてしまう。


「ま、まさか、今の一瞬で開けたのか?」


「いいや。最初から開いていた。塀の扉の鍵が強固だから、安心していた。やはりズボラな性格らしい。面倒なことはしたがらないタイプの女だ。外の鍵がかかってあるんだから、内側の鍵まではかけなくていい。そういう性格だろう」


「ガルフの精神分析はちょっと失礼そうなモノが多そうだのう」


「……否定はしないね。傭兵のおじいちゃんは、ひねくれもんだから」


「……まあ。いいさ。中に入ろう」


「ワシに続いて入るといい。罠があればワシは気づく」


「私だって、分かるのだぞ?」


「ああ。でも、ワシの方がリエル嬢ちゃんよりも経験なら上だ」


「……む。反論しにくいではないか」


「なら、反論しない。ワシの後をフォローしてくれ。ああ、そこらのモノは壊すなよ?」


「エルフは野蛮な生き物ではないぞ」


「そうだったな。なら、続いてくれ」


 ガルフはそのドアの中から錬金術師の屋敷に入る。リエルも、何だか泥棒にでもなった気持ちになってしまい、とても微笑むことは出来ない状況ではあるが―――ホーリーが囮として働いたのだ。


 私も大きな役目を果たさなくては、釣り合わないじゃないか!……そうだ。あのゴーレムを使ったヤツだとすれば、懲らしめなければならないしな。


 そうでない場合は……平謝りして許してもらうしかなかろうな……女性の一人暮らしの邸宅に忍び込むなどという悪行をしてしまったのだから。


 開けられたドアから、リエルはアミイ・コーデルの屋敷へと侵入する。


 まず鼻が嗅ぎ取ったのは、薬品の臭い。


 複数の種類の薬品が混ざっている臭いだった。心地よいモノではない。


「何かを調合中だったのか」


「興味深くはあるな。リエル嬢ちゃんは、これから薬草の種類が分かるか?」


 期待しすぎではある。分かっていたが、やはり期待し過ぎていたようだった。


「私が持つ、薬草医の知識は、それほど洗練されていない……この薬の放つにおいから正体を探ることまでは出来ない」


「……そうか。強がらない素直さはいいことだ。とくに何かの作戦中はね。チームのメンバーにお互いの能力を知らしめるべきさ。フォローも出来るからな」


「……そのうち、分かるように鍛えておく!」


「……その意気だ。さてと……こっちから、錬金釜が煮える音が聞こえてくるな?」


「うむ。それは分かる。そっちが、作業場だ」


「どんなところかを物色しに行くぞ」


「ゴーレムなどがあれば、犯人まっしぐらであるな」


「……そこまで、彼女だってマヌケじゃな―――――」


 長い年月のあいだ、あまり絶句などしないようになった古強者が、その体を強ばらせていた。


 錬金術師アミイ・コーデルの研究施設……そこには、巨大な石造りのゴーレムが鎮座していた。


「ぶ、物的証拠的なヤツを、我々は見ておるんじゃないか、ガルフ?」


「……そうかもしれないが。そうじゃないかもしれない。決めつけるのは良くない。それだけ、可能性を見逃しやすくなる」


「……では、犯人ではない可能性もあると?」


「ああ。とにかく、調べてみよう。何かが分かるかもしれないからな」


「う、うむ!」




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