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第四話    『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』    その五


 リエルとガルフが『アミイ・コーデル』の屋敷に侵入を試みていた頃、その錬金術師の屋敷の玄関前で臆病なるホーリー・マルードは、まだ狼を前にした森タヌキのように怯えて、その扉を叩くことが出来ないでいた。


 ……怖い。


 ……だって、『ストーン・ゴーレム』なんて造って、強盗なんてやらかしているヒトかもしれないんすものね?


 ……ルーキーで、ダメダメな便利屋ごときが、接触すべきタイプのお人じゃないっすよう……っ。


「や、やっぱり、リエルちゃんにも一緒に…………あれ?」


 そうして気がついていた。


 リエルとガルフが、さっきまで隠れていた場所にいないのだ。小心者の森タヌキは狼狽する。


「あ、あれれ!?い、いないじゃないっすか!?おーい!!いますかー!!おーい!!」


 しかし、隠れている場所からは反応がない。そういうスタイルの隠れ方なのだろうか?……ガルフ・コルテスは傭兵らしいから、そんな変な隠れ方をするかもしれない。


 でも。


 もしも、あそこにいなかったら?……ど、どうなんすかね?……私が、『アミイ・コーデル』にゴーレムのことを調べているとバレたら、ど、どうなるんすかね?


 森タヌキの細いノドが、ゴクリと生唾を呑み込んでいた。


「わ、私を守るべきヒトが、わ、私しかいないじゃないっすか!?」


 『筒』を取り出す。ホーリーにとって、唯一にして最強の武器と言える存在である、あの凶器を―――取り出して、握りしめる。3秒なんて、あっという間であった。


 すぐに過ぎ去り、魔力は充填されてしまう。


 あとは、コレをターゲットに向けて、殺される前に殺すだけっす…………い、いや、そもそも、『アミイ・コーデル』さんが一般的で善良な錬金術師の可能性もあるっすよ?


 じゃあ、もしも、この『筒』で殺したりしたら……ッ!?


「わ、私、殺人犯だ!!しかも、依頼人のメッセージの受け取り人を殺すとか、あ、悪魔すぎるうッ!?」


 慌てて『筒』を上着の内ポケットの中にしまい込んでいた。


「……ああ。生暖かい……っ」


 今、『筒』の中、あのヒトを殺せる炎が準備万端でスタンバイしちゃっているっすよう……っ。こ、怖すぎる。


「だ、ダメっす……こ、ここは戦略的撤退を……っ」


 ガチャリ。


 玄関のドアが開いていた。玄関先で余りにもホーリーが騒ぐものだから、屋敷の中にいた人物が動き出していた。森タヌキは慌ててしまう。


 パニックだった。


「く、来るなら、来るなら、来いっすう!?」


 『筒』に手を伸ばして、開いて行くドアに向ける……っ。


 ドアは開いて、中から一人の若い女が現れていた。つばの大きな三角帽子をかぶっているし、高級そうで頑丈そうなローブを身につけた背の高い人間族の女性であった。いかにも錬金術師然とした服装をしていたものだから、ホーリーも理解する。


 ……十中八九、『アミイ・コーデル』さんっすね?


 『ゴーレム強盗』……いや、あるいは、私の初めての仕事を完遂させるための、記念すべき人物……ああ、そんな、どっちなんすか!?


「どっちなんすか!?」


 ホーリー・マルードは、心の葛藤が声となってしまうことがあるタイプの人物であったようだ。彼女自身も知らぬ事実が、今この場で明らかになっていた……。


「え?ええ!?な、なんですか、あなた、いきなり!?」


「し、しまった!?こ、心の声が!?」


「……心の声?」


「……はう!?ち、違うっす!!」


「何が違うの?」


「え、ええっと?これには、話せば深くて長い事情があるっす!!」


「……あ、怪しい子ですね……服も、なんか、ボロボロだし?……しかも、その筒、何なの?何で、私に向けているのですか?」


「ひい!?こ、コレは、き、危険なものとかじゃないっすよ!?」


 断言した。断言したから怪しまれないかと言っても、そうじゃないときもあるものだ。錬金術師『アミイ・コーデル』は、ホーリーの言葉を真に受けはしなかった。


 数歩下がり、ゆっくりとドアを閉じる―――しかし、ホーリーは逃さない。


「ま、待つっす!!」


「な、何ですか!?あまりにも、あまりにも怪しすぎますよ、あなた……っ?」


「怪しくはないっす!!わ、私は……あ!」


 ホーリーは思いついていた。もしも、怪しまれたときは、『マイコラ市の便利屋ギルド』のギルドメンバー証を見せないさい。そうすれば、身分が保障されるはずです……ギルドの講習会で与えられた言葉が、彼女の頭にそのとき響いていたようだ。


「そ、そうっす。コレを見るっすよ!!」


「い、いやよ。呪いとかかける気なんじゃないでしょうか?」


「呪いとかかけられるような才能があったら、もっと他の仕事を任されているような気がするっす!……私、私は、『マイコラ市の便利屋ギルド』の者です!!」


「え?……便利屋ギルドの?」


 どうやら、その言葉は社会的信用があるようだった。少なくとも、怪しすぎると初対面で評価されてしまったホーリーよりは、百倍は信用されていた。


「そうです。私、ホーリー・マルードと言います。『マイコラ市の便利屋ギルド』のF級便利屋です!」


「……本当に?」


「は、はい。これが、ギルドの会員証っすよ」


 ホーリーはそれを閉まりかけのドアに差し出す。ドアの隙間から腕が伸びて来て、その会員証をつかむ。


 そして、腕はドアの隙間に戻り。ドアが閉じられた。


「ええ!?ちょ、ちょっと、会員証ドロボーっ!!」


「こ、こら。人聞きの悪い言葉を、玄関先で叫ばないで下さい!!ただでさえ、錬金術師って怪しまれがちなんですからね!?」


「じゃあ、ドアを開けるっすよう!返してくださーい!!それを取るために、私、死ぬほどの苦労をしたんですー!!」


「わ、分かりました。だから、ドアから三歩離れなさい」


「う、うう……ホントっすね?信じるっすからね?」


 泣きべそ森タヌキは、三歩ほどドアから下がってみる。ドアは再び開かれる。そして大きな杖を構えた錬金術師、アミイ・コーデルが再びホーリーの前に現れるのであった。


 アミイは武装している。


 武装しているのだが、ホーリーは気がつくことさえなかった。大きな杖だなあ、と無警戒にそれを見ていた。


「……なるほど。『追っ手』ではないようですね」


 ボソリと呟いた言葉は、なんだか危険な香りがしていたが、ホーリーは無視することにした。心にメモしておけばいいのだ。彼女が、どうやら追っ手を警戒していることは……。


「それで、ホーリー・マルードさん。一体、私に何の用なのでしょうか?」


「は、はい。じつは伝言の依頼を受けまして」


「……誰から?」


「その……実は、匿名の依頼なのです」


「……ふむ。怪しい依頼ね。組織の回し者かしら……?」


 ……組織。


 組織とか言っているっすね……っ。なんて、怪しい錬金術師なんすか、このヒト……っ。私史上、最も怪しい錬金術師さんっす……っ。


「それで。一体、どんな内容なのかしら?」


「えーと、それでは、お伝えしますね?……『ガラート剤を8、サッカリー剤を2。それにメリトール剤を3』……以上です」


「……それだけ?」


「はい。依頼されたのは、たしかにそれだけなんです」


「……どういうことかしら?」


「私に訊かれても困るっす」


「そうね……ふむ。爆薬のレシピのことかしらね……?」


 また怪しげな言葉を。もう犯人でもいいような気がするっすよ……っ。


「それで、お代は、あなたに払うのかしら?」


「いえいえ。すでにお支払いいただいているっす。ただ、この書類に、サインをいただければ、それで終わりっす」


「良かった。こんな謎の言葉を聞かされただけで、銀貨を支払うことになるのかと心配しました」


「……ま、まあ。色々な依頼があるものっすから……」


「じゃあ。これでいいのね、『傀儡錬金術師アミイ・コーデル』っと」


「傀儡錬金術師?」


「ふう。知名度が無いのよね。私は、傀儡関連の錬金術が専門なので、そう名乗っているのですわ」


「どういうご専門で?」


「そうね、無生物に疑似的な命を与えることが得意なんです」


「たとえば、どんなものっすか?」


「有名なところでは、ゴーレムとかですね!」


 …………ガルフさん。私、犯人を見つけた気がしていけませんっす。




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