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第四話    『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』    その一

第四話    『あ、悪人どものダンジョンぐらい、あっさりと潰してやるのである!?』




 凡庸な少女は選択をしていた。自分の目的のために、危ない橋を渡ることを。もちろん、自分の出来る範囲ではあるのだが。


 多くは期待されていないのは、分かる。自分は【F級】、ルーキーのあいだでも落ちこぼれの方だろう。『マイコラ市の便利屋ギルド』のメンバーの中では、もっとも力量の低いグループに入る……。


 分かっている。


 実力がある者たちと、自分の違いぐらい。見せつけられたばかりだ、『ストーン・ゴーレム』のような屈強な敵に、リエルとガルフは余裕を見せつけるように勝ってしまった。


 町の守り手たちでさえ止めることが出来なかった怪物を、足手まといの自分を庇いながら戦って勝利している。


 リエルちゃんは私を『前衛』として使っていたっすけど……アレ、多分、私がいない方が楽に勝てたと思うっす……。


 次元が違うなあ……と、思い知らされる人々と出会ったことはある。お猿みたいに身軽で屋根伝いに走る、ケットシー族の盗賊とか。大きな岩を斧の一振りで粉々に砕いてしまうドワーフだとか。


 見ただけで理解することが出来た。自分がどうあがいても、どんなに努力をしても、そういう人々の能力と同じレベルに達することはないのだと。


 才能というものは確かに存在していて、それは努力や工夫ごときでは埋められるものじゃない。何故なら、才能がある人たちも努力と工夫をしているからだ。


 天才には、凡人はどうやっても勝てない―――それが『強さ』という概念おいて、残酷な真実である。


 自分と天才たちはレベルが違うものだ…………そして、ホーリーは理解しているのだ。この場にいる二人は、リエルとガルフは、そんな天才たちの中でも、かなり上の方の存在なのだ。


 ゴーレムを酒と魔術で爆破したり?……魔力を込めた矢でゴーレムを力尽くで破壊したり?……伝説の勇者さまみたいなレベルっす。


 ホーリーは悟っている。自分のような者は、本来、こういう人たちとつるむべき人種ではないのだろう。


 理解している。凡人として16年間、生きてきたのだから。自分は世界の中心にも、英雄物語の主人公にもなれないと―――それでも、何故だか。何故だか、協力すると口にしていた。


 もちろん。凡人らしく、控え目で、何とも慎ましい態度であったけれども。


 震える声で、やれそうなことを、ちょっとだけなら手伝う。そう伝えてしまったのだ、あの得体の知れない老傭兵に。人間族だけど、まるでドワーフ族みたいに強そうな犬歯を……いや、『牙』を持つ人物の仕事に協力することになった。


 老人は笑っていたが、その瞳の奥には、ゾッとするほど強い意志の炎が暴れている。あの炎の正体を、ホーリーは理解することが出来なかった。


 あれは攻撃性である。狩猟者の持つ、闘争本能だ。ガルフ・コルテスは生粋の戦士であり、それ以外の何者でもない。あの老人は、喜んだのだ。凡人たる『錆び付いたナイフ』が……薄弱ながらも意志を示し、自分の器に収まり切れるはずもない事件を選んだことを。


 あの瞬間に。


 ガルフ・コルテスは立ち会っていたのだ。若く、幼く、未熟で、才能も無いものが―――しかも、それらを自覚している正真正銘の『弱者/凡人』が。目的のために、危険な道を選び、自分の『未来』のために仕事をしようと覚悟を見せた。


 彼は真なる冒険者の誕生に、立ち会った気になれているし、事実その通りである。ホーリー・マルードは、ついさっき、卵の殻を破っていたのだ。『冒険者のヒナ鳥』、ホーリー・マルードは、あの瞬間に誕生していた。


 ガルフは弱者が嫌いであるし、興味を持てない。彼の野心を満たすことには、使えないと考えていたからだ。彼が創りたいのは、最強の傭兵団であり……そのメンバーに、このホーリーが所属することは夢のまた夢である。


 だが。


 誰かが『強さを得る』という様子を見るのは好きであった。


 それはガルフの野心に貢献することでもある。どんなに才能があふれた者でも、経験を伴わぬ者は雑魚でしかない。岩を動かす剛力も、風より身軽な足さばきも……経験一つあれば封じる術をガルフを持っている。


 ……才能を持つ者でも、天才でさえも、鍛錬し磨かなければ最強にはなれないのだ。才能のカタマリみたいな、このリエル嬢ちゃんでさえ、そうなんだからよ?


 才能がある者しか、高みは目指せないが……。


 天才であろうとも凡人であろうとも、『経験を得て行く過程』は同じようなものなのだ。リエル嬢ちゃんを育てるためにも、この強くなろうとしている、あきらめの悪い弱者のためにも。


 この嬢ちゃんズは、いいコンビなのかもしれない。天才の成長と、凡人の成長。それらをお互いに見ることで、本来の自分では知ることも出来なかった世界を認識できる。天才には、見えぬ世界もある。凡人にも、見えない世界もある。


 混ぜて育てれば、お互いを補完し、ただのよくいる天才を超えた天才にリエル嬢ちゃんはなれるし―――ホーリー嬢ちゃんも、よくいる天才を仕留められる程度には、『器用な凡人』になれるかもしれない。


 試してみる価値はあるさ。天才と凡才が同じ任務から得る、二種類の経験値。それらを二人は共有するだろう。そいつは、どちらか一方の経験値よりは、多様性があり、柔軟な強さを彼女たちに与える可能性はあるのだから。


 ガルフは選ぶ。


 真剣になっていた。


 道ばたの石ころ程度に考えていたホーリー・マルードを、評価している。戦士として扱うことに決めた―――戦士ならば、武装させなければならない。武器と防具を持たぬ戦士は、石ころよりも役に立たないからだ。


「……ホーリー嬢ちゃんは、短剣術を習ったな?」


「え?は、はい、一応、ギルドの訓練施設で三ヶ月ほど習ったっす……本当は、剣とかに憧れていたんすけど……」


「剣はムリだ。君のようなちんちくりんには、合わない武器だ」


「ち、ちんちくりん!?」


「手足が比較的短い。ホーリー嬢ちゃんには、剣のようなリーチを使う武器は合わん。短剣は……悪くない選択だよ。担当教官に、礼を言うべきだ」


「は、はあ……」


「そうであるな。ホーリーは、筋力もスタミナもない。重たい武器は似合わんぞ」


「ま、まあ……そうっすよね。私、剣を振り回したりすれば、剣に振り回されそうっす」


「そうだ。ホーリー嬢ちゃんは体重も軽い。重量を使う武器も向かん。メイス、槍、斧、そういうモノにも才能はない」


「ほ、ほとんどの武器に、合っていないっすね……っ」


 そう。戦士が戦場で使うような武器は、本物の殺傷兵器には、彼女は適していない。


 ……短剣。合戦では、ほとんど役に立たない武器だ。まあ、負傷して転がっている敵に慈悲深いトドメを刺すには有効だが―――長く巨大な鉄製品を振り回す、戦場では何とも頼りがいの低い武器じゃある……。


 そもそも。戦闘で使いこなせるのは、それなりの鍛錬を積んだ者だけ。


 とはいえ、他の武器よりは、向いているな。相手がわずかに警戒してくれるから、お守り程度にはなる……。


「ホーリーちゃんは、当然、魔術の才もない」


「と、当然ってのは引っかかりますけど、そうっす……炎も、風も、雷も、攻撃術も補助術も、才能無いって評価されました……」


「世の中の多くは、そんなものだ」


 さて。魔術も使えない。使えそうな武器は貧弱か……。


 ガルフは白くてそう長くもないヒゲを指でこすりながら、思いついていた。


「弱者であることを利用しよう」


「弱者って、ハッキリ言わないでくださいっす」


「悪かったね。『強くない君』に、いい武器をプレゼントする。犯罪者の錬金術師が住んでいる可能性のある屋敷に、使いとして出すんだからね」


「……ちょ、ちょっとだけしか、手伝いませんよ?」


「ちょっとでも十分。そういう危険なことをしてくれる君に、このアイテムを授けよう」


 老傭兵は床に置いてある大きな袋から、小さな筒を取り出していた。そして、その筒をホーリーの小さな手に渡すのだ。


「……なんだ、それ?」


 知りたがりエルフさんの質問に、ガルフは得意げな笑みになって答えていた。


「一種の攻撃魔術さ」


「攻撃魔術?」


「そうだ、それを再現したアイテムだな。ホーリー嬢ちゃんは、魔力も弱い。だから敵は魔術を使えないと認識する。だからこそ、魔術攻撃に対して備えていないわけだ」


「ふむ……なるほど。備えていないところに、魔術を放つか!有効そうだな、ちょっと卑劣なカンジもするが」


「戦いに卑怯もクソもない。護身的な方法にしか、コイツはまだ使えないが、ほとんど意味の無さそうなナイフ術のみに頼るよりは、はるかにマシさ。使い方を教えるから、持っていくといい」




読んで下さった『あなた』の感想、評価をお待ちしております。


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