赤ずきん(もうひとつの昔話 28)
森の中の道。
赤ずきんが病気のおばあさんのお見舞いに向かっていると、そこに一匹のオオカミがあらわれました。
「おじょうちゃん、どこへ行くんだい?」
「おばあちゃんのところよ」
「なあ、それよりオレと遊ばないかい?」
「いやっ!」
赤ずきんは走って逃げました。
家を出るとき、お母さんに言われていたのです。
森には悪いオオカミがいて、若い娘を見るとしつこく言い寄ってくるので、気をつけなさいと……。
「くそー」
オオカミは先まわりをして、おばあさんの家で待ち伏せをすることにしました。
赤ずきんがおばあさんの家にやってきました。
トン、トン。
「おばあちゃん、お見舞いに来たわよー」
「開いてるから入っておいで」
中からしわがれた声が返ってきます。
――病気、ひどいんだわ。
中にいるのがオオカミだなんて、赤ずきんは知るはずがありません。ベッドにかけ寄って、いつもとちがうおばあさんを見てびっくりしました。
「おばあちゃん、ひどく悪そうね。いつもより耳が大きいわ」
「おまえの声をよく聞くためさ」
「手も大きいわ」
「おまえを抱きしめるためさ」
「そうなんだ、でも待ってね。あたし、走ってきたので汗びっしょりなの。庭にある井戸で、ちょっと水浴びをしてくるわ」
「じゃあ、そうしておいで」
オオカミは心の中でほくそえみました。
若い娘の裸がじきに見られるのです。
赤ずきんは井戸の前で水浴びを始めました。
それを窓辺からのぞいていたオオカミでしたが、娘の裸をもっと近くで見たくなりました。
そこで飲み込んでいたおばあさんを吐き出し、抵抗するおばあさんから身ぐるみはがし取りました。おばあさんに化けようというのです。
――うひひひ……。
おばあさんの服を着たオオカミは、水浴びをしている赤ずきんにそろりそろりと近づくと、背後から一気にとびかかろうとしました。
が、そのときです。
クワンッ!
大きな音がして、オオカミはひっくり返ってしまいました。そしてそこには、フライパンを手にしたおばあさんがいました。
「あら、おばあちゃん。それに、いつのまにオオカミが……」
気絶したオオカミを見て、赤ずきんはきょとんとしています。
「赤ずきんや、庭で水浴びをするときは気をつけないとね。もうちょっとで、こいつにおそわれるところだったんだよ」
「それで、おばあちゃんも水浴びをするんだね」
赤ずきんはすっ裸のおばあさんを見てたずねました。
「これはね……」
おばあさんは話してやりました。
オオカミに食べられて、おなかの中で二人の話を聞いていたことを……。
「そうだったの。でもこのオオカミ、女にみさかいがないんだね。おばあちゃんに手を出すだなんて」