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ずーっと以前に書いた創作怪談シリーズとショートショートシリーズ

ムービーメール

 その男はね、高校生だったんだ。

 17歳。

 ま、今時の高校生だよ。

 その日も、友達なんかと騒いでいて、電車に乗ったのが夜の8時くらい。

「いけね。また怒られちゃうよ」

 そう思って、電車の中で吊革に掴まっていたんだ。

 ま、今時の高校生だから、ケータイ電話なんかを、こう、取り出すよね。

 電車の中だからって、別に意識もしないわけだ。電源を切るわけでもなくて、ただ気が付いた時ぐらいかな、マナーモードにするのも。

 そうすると、着信があるんだ。Eメールの。

「あれ?誰からだろう」

 そう思って、ピ、ピとボタンを押す。

「知らないやつだよなあ」

 そう思いながらも開いて見るんだ。アドレスに登録してない友達かと思って。

「ムービーあり?」

 今時のケータイって、ムービーが送れるじゃない?

 でね、まあ、見てみるわけだよね。普通。

「なにこれ?」

 思わず、彼、そう言っちゃったらしいんだ。隣に乗っていたサラリーマンが、ふっとそっちを見るんだ。でも、ほんの一瞬。すぐに視線を外す。言ってみれば、たくさんの人の中にあって、彼はひとりぼっちでもあるわけだ。

 そのムービーってのは、こういうやつだったんだ。

 暗い景色があるんだ。ざわざわと音がする。すると、そのうちに鳥居がね、写るんだ。それでお終い。ただね、なんか言っているようでもあるんだよね。

 誰かがさ、なんとなく、

「おまえは・・・・」

 とかなんとか言っている。

 気持ちの悪いムービーなんだよ。ただ暗い景色の中から鳥居が浮かび上がるんだ。

 誰が出したのか、全然わからない。それどころか、ムービーだけで、中味もない。つまりメッセージも無いんだよ。

 それでね、彼、気持ち悪いんだけど、一人で気持ち悪いのも嫌だから、友達何人かにも転送したんだよ。

「なんか、変なメールが来た。誰からか、知らないか?」

って。

 それで、まあ、彼は自分が降りる駅で降りちゃった。それで、そのまま。忘れて家に帰って、そのまま。


 次の日になって、彼の友達がね、学校を休んでいたんだ。

 そうそう、メールを送ったやつだよ、彼が転送して。

 でね、他にも同じメールを送った友達っていうのがいて、そいつにさ、聞いたんだ。

「あれ、あいつ、今日は?」

 そうしたら、そいつがね、

「それよりも、あのメール、なんなんだ」

っていうわけ。

「何が?なんだって、何がだよ」

そう、彼は聞き返したんだ。彼の方はさ、もう、メールのことなんか忘れちゃっているんだよ。昨日の夜のメールなんか、覚えていないの。

「とぼけるんじゃないよ。あのムービーメールだよ」

「ムービーメール?」

 それで、ようやく思い出したんだ。

「ああ、あれか。お前が送ったのか?」

「馬鹿言え。オレがそんなもん送るかよ」

そいつが、そう答えるんだ。それから続けて、

「おまえこそ、あれを何処で撮ったんだ?」

って聞くんだ。だから、彼の方も、昨日のことを話して、知らないやつから来たんだって。

「おまえ、あんなもの送ってくるなよ」

「なんで?」

「なんでじゃないだろう。あんな気持ちの悪いもの」

「気持ち悪い?」

「そうだよ。あれ、ちゃんと見たか?」

 結局、彼は、電車の中で一度見たっきりなんだ。

「いや、一度だけ」

「じゃあ、もう一度、よく見てみろ」

 友達の方は、そう言うんだって。

「なんで?」

そう聞き返すんだけど、友達は、ただ、ちゃんと見ろっていうばかりなんだ。

 しかたがないから、彼、自分のケータイを出して、もう一度再生したんだって。

「なにか、おかしいか?」

 たしかに気持ち悪いことは気持ち悪いんだよ。誰から来たのかもわからないし、写っているのは暗闇に浮かび上がる鳥居だけなんだし。

「違うよ、音だよ、音」

「音?」

そう、彼は言って、もう一度再生したんだ。

「何も聞こえないぜ」

何か言っているようでもあるんだけど、実際の所、ほとんど聞き取れないだ。

「おかしい、そんなはずはない」

 友達の方は、そう言うんだ。そう言いながら、自分のケータイを出して、ムービーを再生する。彼はね、それをこう、横から覗きこんだんだ。

 するとね、違うんだって。

 場面がね、彼の所に送られてきたのとはちょっとだけ違うんだ。

 どう違っているのか、っていうと、暗闇が写るのは同じなんだ。鳥居が浮かび上がってくるのも同じ。ただね、そのタイミングっていうのが違うんだ。彼の所に送られてきた

ものよりもね、少しだけ、早いんだって。鳥居が浮かび上がるのがね。

 それで、こう、音が入るんだ。はっきりと、ね。

「おまえは、もうすぐ・・・・」

 彼はね、なんか変だなってすぐに気が付いた、っていうんだ。

 その声、なんか変なんだ。

 どことなく、暗く沈んだ男の声なんだけど、妙に抑揚が無いんだ。でも、それよりもね、そのタイミングがずれているのが気になった。

「なあ、それってさ、オレが送ったのと、違うぜ」

 そう、彼は友達に言ったんだ。

「何が?」

 そう言うから、その友達のケータイをひょいっと取って、自分のケータイと並べて、同時に再生させたんだ。するとね、やっぱり、彼のケータイよりも友達のケータイの方がね、早く鳥居が現われるんだ。

「な、タイミングが違うだろう?」

そこで、その友達も頷くんだ。

「そうだな。なんで違うんだろう?」

「わかんねえな。機種が違うからかもな」

って。そこでさ、ふと気が付いたんだ。ムービーメールを転送した相手っていうのはもう一人いるんだ。そいつのケータイにも、そのメールは行っているはずなんだ。ただ、そいつは学校を休んでいる。そいつのケータイがあれば、タイミングがずれたわけがわかるかもしれないって思ったんだろうね。根拠はないんだよ、ただ、そう思っただけ。

 で、確かめようがないからさ、その友達がさ、こう言ったんだよ。

「じゃあ、おまえのケータイに送り返してみればいいんじゃないか?」

 機種が違うせいなら、送り返したら、元どおりのタイミングで再生するはずだって。

「そうだな。送り返してみろよ」

そう言うから、友達は自分のケータイをピ、ピって操作してムービーを送ったんだ。ケータイが鳴るよね、着信があるって。

「じゃあ、再生するぞ」

 そう言って、彼、ボタンを押そうとしたんだ。

 でもね、気持ちが悪い。

 なんだか気持ちが悪い。だってね、彼は、もう気がついていたんだよ。

 彼は、その目の前にいる友達に「最初に」メールしたんだ。学校を休んでいる友達には、その後でメールした。ひょっとしたら、その学校を休んでいるやつの所には、もっと後の映像まで写っているんじゃないか、そんな気がしたんだ。後になって送れば送る程、その映像は後ろの方へずれていくんじゃないかって。

 そこに何が写るのか、彼にはわからなかったよ。

 でもね、現実に、彼のもう一人の友達は学校を休んでいる。

 学校を休まなくちゃいけない何かがあったんじゃないか、そう思えるわけだよ。

 それに、その気持ちの悪い声のこともある。

「おまえはもうすぐ・・・・」

 もうすぐ、何なんだ?もうすぐ、何が起きるんだ?

 そう思ったら、彼、手がぐっしょりと濡れてきて、ボタンを押せなくなっちゃった。

「なあ、これさ、やばくない?」

 彼、友達にそう言ったんだって。

 でね、その時だったんだ。クラスのね、全然違う友達がね、こう言ったんだって。

「おーい。○○くん、交通事故に遭って入院したらしいぞ」

 その○○くんっていうの、彼がメールしたもう一人の友達だったんだよ。

 それで、彼ね、そのムービー、開くのやめたんだって。

 それをね、開けたらね、その気持ちの悪い声がなんて言うのか、わかっちゃった、ってね、そう言うんだ。


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