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中年一歩手前の異世界放浪記  作者: ぼちぼっち
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ロードさんの悩み

 最近ロードさんの様子がおかしい・・・

 ため息は多いし、料理も焦がす。


「ロードさん!」


「はっ!申し訳御座いません。

 直ぐに別の物を用意致します。」


「食べられそうですから大丈夫ですよ?」


 目を合わせて首を傾げる俺達二人。


(どうしたんですかね?)

(最近多いですよね?)

(シュウト君は何も聞いて無いんですか?)

(何も聞いていません。責任感が有りすぎる人って内側に抱え込んじゃうから、コッチから聞いた方が良いですよね?)

(私、席外しますか?)

(いやいや居てくださいよ~)

(でも・・・)

(前はああいう部下を、飲みに連れて行って悩みを聞いたりしていましたが、そういう訳にはいかないじゃないですか?

 しかも聞いた殆どが、人間関係か金の悩みしか無いですから!ゴブリンの悩みとか想像も出来ないですよ?)

(私だって同じ様な物ですよ~………)


「お待たせ致しました。

 焦げてしまった部分は取り除きましたので、ご安心下さい。

 申し訳御座いません。」


(シュウト君!今ですよ!)


 ロードさんが料理を運んで来た時に、シュミットさんが目で合図を送ってくる。

 今?なの?


「えーっと・・・ロードさん、ちょっと座って貰えますか?」


「(ガバッ!)申し訳御座いませんっ!」


「え?」


 90度に腰を折り曲げた綺麗な謝罪。

 まだ何も言ってないけど?


「主様とシュミット様に御出しする料理を焦がすという失態!どうか!この首一つでお許し下さいっ!」


 懐から取り出したナイフを首に添えるロードさん。


「重い重い重い!そう言う事じゃないから!落ち着いて!」


 料理を失敗して首を刎ねるとか、何処の暴君だよ?

 何とか宥めて、座ってもらう。


「ビックリしたぁ・・・料理を焦がしたのは原因が有るんですよね?教えて下さい。」


「はい。いや………あの…………しかし…………」


 あぁーっ!もうハッキリしないなーっ!


「命令だ、言え!」


 卑怯かも知れないけど、こういう時は主従の関係を大いに使わせて貰おう!


「はっ………畏まりました………

 ………実は、主様に謀反を働こうとする者が居るようでして………私が何とかしようと思っているのですが、良い案が浮かばず………主様にご迷惑を掛けるのも憚れますので、どうしたものかと頭が一杯になってしまい………」


「なんだ、そんな事か・・・」


 ロードさんとしては、忠誠を誓っている俺に反抗する部下が許せないから、『そんな事』で済ます事が出来ないだろうけど・・・


「なっ!そんな事と仰いますが、私達は主様に生かされている身。

 謀反を企てる等、在っては為らぬのです!」


「おい待て!先ずはその『生かされて居る身』って所を話し合おうじゃないか?」


 シュミットさんの視線が痛いんだよ。


「私達は主様にテイムされ、主様の所有物となりました。

 主様の命令は絶対に御座います!私達は主様の命令に従い、望まれるものを献上する!それが私達の命であっても!です!」


「うわぁ~・・・シュウト君、それは無いですよ~・・・」


 滅茶苦茶引いてる!


「濡れ衣です!俺はテイムした皆を仲間だと思っています!

 それに、生かされているって言ったら俺の方ですからね?

 ゴブリンの皆が食料を作っているお陰で飢えずに済んでいますし、戦闘だって手伝って貰っているんですからね?」


「そう……なのですか?

 私達を仲間だと思って頂けるのですか?

 魔物の私達を?」


「はぁ・・・当たり前じゃないですか?

 それに、この村で最初に自分で言った言葉を忘れたんですか?

『私は魔物ですが、皆様と同じこの世界に生きる者です。

 どうか見た目で壁を作らず、仲良くして頂きたいと思っております。』って。

 ハズマの人だけではなく、俺もその『輪』入れてくださいよ?

 と言うより、入っていなかったんですか?ショックです!」


 拗ねた振りをすると、『うっ……ぐすっ…』と聞こえてきた。


「主様から、その様に思われて頂いて居たなんて……ぐすっ…」


 ゴブリン一匹漢泣き!

 泣きたいのはコッチなんですけどー!

 まさか、恐怖の象徴みたいな扱いを受けていたとは・・・


「うぅ…良かったですねロードさん……ズズ」


 シュミットさんまで・・・泣きたいのは俺何だってばーっ!



 ***************


「落ち着きました?」


 二人が落ち着いた所で話を戻す。

 ロードさんの悩みの種はまだ有るからな!


「その、謀反を企てて居るのは何人居るんですか?」


「三名のゴブリンです。」


「その三人は進化をしそうな強い個体なんですか?」


「いえ、畑の管理をお願いしています。」


「反発は確定?勘違いじゃなく?」


「直接では無いですが、周りの者から話を聞いています。」


「誰かも分かってるの?」


「…………はい」


「ヨシ!じゃぁ、呼び出そう!」


 ロードさんに教えて貰って、三人のゴブリンを呼び出した。


「どうして君達が呼ばれたか分かりますか?」


「「「……………」」」


「お前達は言葉が使えないのかっ!」


「ちょっ・・・ロードさん落ち着いて。」


 ロードさんおっかねぇ~・・・自分と部下に厳しいタイプのようだ。


「改めて、三人の考えを聞かせてください。

 要望が有れば検討するし、俺への不満だったら教えてもらえれば、改善するように善処します。」


「なっ!主様に不満など御座いません!」


「それなら、何で変な噂が流れてくるんですか?」


「いえ……それは…そのぉ……………」


 理由を聞こうとすると、歯切れが悪くなるなぁ・・・このゴブリン達も俺の事を恐がっているのだろうか?


「ナイトを呼んで首を跳ねますか?」


「はぁ?穏便に済ませようとしているのになに言ってんの?」


 物騒過ぎる・・・


「出過ぎた真似をして申し訳御座いません。」


 またシュミットさんの視線が痛いしさぁ………待てよ?それ使えるね!


「俺は君達の首を跳ねようとは思っていないけど、このまま何も言わないのでしたら、不本意では有りますが、ロードさんの言うとおりにしなくちゃいけません。

 そんなの嫌ですよね?素直に考えていることを教えて下さい。」


「ちょっとシュウト君!人の家で血を流すような事は止めてください!」


「ここではしないですよ?俺もしたくないですけど、このまま黙っていたら、ロードさんがケジメとしてするかも知れないですね?」


 あくまでもこれは、ロードさんの考えと言う事にする。

 申し訳無いが『ムチ』担当をロードさん。

 俺は『アメ』を担当させて貰おう!

 血苦手だし………


「………畏れながら申し上げます。

 我々はこの村が気に入りました。

 御許しを戴けるのでしたら、今後もこの村で生活させて戴きたいです!」


「・・・・・」

「・・・・・」


 俺とシュミットさんが驚いて口を出せずに居ると、プルプル震えるロードさんがナイフを手にする。


「貴様らっ!そんな事を考えて居たのかっ!」


「おっ落ち着いて!シュウト君も何か言って下さい!」


 シュミットさんが、ロードさんの腰にすがり付いて必死に止めようとしているのを眺めながら、ゴブリン達が恐怖政治と思っているのを払拭出来るのでは無いのだろうかと打算する。


「落ち着けっ!」


 ロードさんの気迫に、ゴブリン達は部屋の隅っこに固まってしまった。

 ロードさんは俺の言葉で落ち着いてくれた様子だけど、怒りはまだ収まっていないよなぁ……


「この三人が居なくなった場合の損失はどの位だ?」


「・・・大した損失は有りませんが、今までハズマ村の皆さんから教えて頂いた知識等が無駄になってしまいます。

 それは村の皆さんに大変申し訳無いです!」


 その程度?あれ?ロードさんの怒りようから結構大変な事だと思っていたけど、そうでもない?単純に裏切り行為と感じて怒っていただけ?


「あのっ!ウチの村は構いませんよ?」


 シュミットさんも気にして無い様子。


「・・・・シュミットさん。

 この三人を受け入れるのは可能ですか?」


「主様!それはっ・・・」


「ちょっと静かにしてようか?」


 ロードさんは真面目過ぎる!


「この村はご存じの通り、他の村で住めなくなった人達が集まって来る場所です。

 それが例え魔物でも、話が通じるのであれば、問題有りません!」


 有り難い。

 魔物でも、俺の『仲間』を受け入れてくれる。


「それでは、三人の今後の処遇を言い渡す!

 今まで学んだ事の引き継ぎを、他のゴブリンにする事。

 ハズマ村に移る事を、自分達の家族に説明すること。

 自分の家族でも無理強いはしないで、付いてくるかどうかをよく話し合う事。

 以上です。

 あっ!引き継ぎ終わらなかったら、引っ越し出来ないからそのつもりでね?」


「「「有難うございます!」」」


 三人共深く頭を下げて感謝してくれた。

 こちらこそ、今回の件で色々分かったから気にしないでと言いたいが、一応主人と言う立場なので、腕を組んで頷くだけにしておく。


「主様……宜しいのですか?」


 宜しいも何も、君が真面目過ぎるのが原因だからね?


「問題無いでしょ?仲間が定住したい場所を見付けたんだから、笑顔で送らなきゃ!

 それよりも、ロードさんはこの村を守るとしたらどの様に戦闘職を配置しますか?」


「それは?どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味だけど?教えてくれる?」


「はぁ・・・この村の規模でしたら、近接にナイト一名、斥候にライダーを一名、後方にウィザードかエレメントスライムを一名で十分と思います。」


 ふむふむ、全部で三名で十分か。


「それならロードさんは、ナイト・ライダーを二名ずつ、ウィザード・スコラーを一名ずつ選んで、引っ越し準備をさせてください。

 シュミットさん。

 一度にゴブリン達が移住しますが大丈夫ですか?」


「えーっと、大丈夫です。

 けど、どうして?」


「前に、もし自分が死んだら何て言ってたじゃないですか?

 そんな事にならないように、戦えるゴブリンもハズマ村とシュミットさんの守護を任せたいんです。

 スコラーは、子供達のために預けます。

 ご迷惑ですか?」


「そんなっ!子供達の事まで考えてくれて、迷惑だなんて思いませんよっ!」


「良かった。

 それでは、話も纏まったから皆は戻って家族に説明、ロードさんは移住者の選出。

 終わったら何人が移住するか教えてね?」


「畏まりました。」


「「「有難うございます!」」」


 ウンウン、これで一件落着だな!


「・・・・戻って家族に説明してきて良いですよ?」


 ゴブリン達が戻らずそわそわしているのだけど、どうしたのかな?


「主様。

 私の様に進化していない者達は、自分の意思で出入りは出来ません……」


「そうだった!

 では、改めて家族会議頑張ってね」


 三名のゴブリンをスマホに戻して、ロードさんを見る。


「さっき『出入り』って言ったけど、出てくるのも自由なの?」


「主様が許可すれば可能です。」


 そうだったのか・・・


「それなら、戦闘職や進化しているのは自由に出入りして下さい。

 俺が死にそうな時は特に宜しく!」


 これで、自動迎撃システムの出来上がり!


「畏まりました。

 それでは、早速ですがナイトを呼び出します。」


「え?何で?」


「この村を目掛けて何者かが接近中です。」


「シュミットさん!」


「今は夜ですので、見張りをしている人も少ないです。

 シュウト君、協力してくれますか?」


「もちろんです。

 何が来ているのか分かりますか?」


「先日のアーミーアントよりは強い個体と言うのと、三つの反応が確認出来る事以外は分かりません。」


「方角は分かりますよね?ここで話して居ても意味がないです!案内して下さい!」


 シュミットさんの家を出て案内された場所は、前にアーミーアントが出てきた場所と同じ、森が見える一角だった。


「どこ?」


「気配は有るんですけど、姿が見えませんね?」


「これは………『隠蔽』でしょうか?

 夜行性の魔物が使うスキルですっ!」


 マジか?!ロードさんも焦るスキル。

 隠蔽って事は相手の死角からの攻撃の為に使うんだよな?

 今この場にいる四人の死角・・・・

 背後は村、前方は森、背中合わせで立っていて姿が確認出来ないって事は?

 2Dではなく、3D!


「上かっ!」


 俺の叫びで全員が上を見上げると、丸い目が浮かんでいた。


「あれはっ!」


 シュミットさんの声に反応するように、音も無く丸い目が落ちてくる。

 近付くに連れて、その魔物の姿が確認出来た。

 真ん丸の目玉に、大きく拡げた翼。

 頭の上には耳のような羽根が生えている。


「ミミズク?」


 俺達の真ん中に降り立ったのは、体長2メートルの大きなミミズクだった。

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