レアキャラクター(残念)
翌日になり、ガルツさん達と共にスリーブスの街を目指す。
ここでとんでもない事が起きた。何と、馬に騎乗出来たのだ!
誰が?勿論ワタクシですよ!
ハーハッハッー
馬とは中々に良いものである!
口調が可笑しくなるのも仕方がないのである。
だって初乗りで見事な騎乗!調子に乗るのも分かって貰えるだろう?
森の中の道を馬と調子に乗りながら街を目指す。もう少しで街に着く頃、ここで又もや事件が発生!
オシリイタイ・・・
馬を思うままに走らせていたら、上下運動によるダイレクトアタック!
それを見たガルツさんが、苦笑しながら休憩をとってくれた。
あんた、この惨状を予想していたな!
「スマナイ。あまりにも今まで此方に来た者達と同じ行動を取るので面白くてね」
なぬ?同じだと?
どういう事か聞いてみると、こっちに来ると身体能力がこの世界に最適化されるようで、ある程度の能力、騎乗や武器の使用等の元いた世界では馴染みの少ない能力が身に付くと言う事らしい。
残念ながら、素人よりはまし程度の最適化なので、決して凄いことでは無い。
お尻の最適化も無かったしな。
少しの休憩の後、ここからはゆっくりと向かっても、そんなに時間が掛からないとの事なので、お尻を気遣いつつゆっくりと街を目指したのだった。
森を抜けて30分程行くと街が見えてきた。石材が有名なだけあって立派な外壁に囲まれた大きな街。左右を確認すると、どうやら円形の街のようで緩やかに湾曲しているのがわかった。街の後ろには高い山。あそこで石材とかを取ってくるのだろう。
門にて身分の確認(入国審査?)を行っている様で長い列が出来ていたが、警備兵の皆さんと一緒だったのですんなり入れた。
ガルツさん以外は警備兵の詰所に向かうとのことだったので、軽く挨拶交わして門の前で別れ門を抜けると、そこには煉瓦造りの街並みが目に入って来た。綺麗に区画整理されているのだろう、門から真っ直ぐ10メートル位の幅の大通りが伸び、左右には色々な店が建ち並び、商店街のような賑わいがあった。
街の観光もしたかったが、先ずは身分証を発行して貰う為に教会に向かう事に。
大通りの突き当たり、街の中心部に建つ煉瓦と漆喰造りの大きな教会。左右にも大通りが伸びていてそれぞれ、住宅街と工房が建ち並んでいた。
少し気になったので、裏に廻ろうとしたら止められた。
「何処に行く?」
「裏にも道が有るのか気になったので・・・・」
ついつい何時もの自由行動が出てしまった。
思い付きで行動するのは良くないね!
「はぁ・・・」
ため息を吐きながら、ガルツさんが教えてくれた。
「この街は東西南北に街に出入りする門があり、其所からの大通りがこの教会まで伸びている。我々が入って来た南門は商業区で、東門は居住区・西門は工房区・北門は工業区となっている。」
説明を聞きながら教会の敷地に入り、その先の両開きの木製の扉を開くと、両脇に長椅子が並べられ、中央にはこの教会の信仰の対象であろう、女神像が微笑みながら入って来た者を優しく迎え入れる。
その後ろには、女神像が描かれたステンドグラスが填めらている。それはとても美しく、全てを包み、全てを赦す、そんな神々しさがあった。
(はぁ・・・・これ見たら懺悔しに来る気持ち解るわぁ。)
ボーッとそんな事を考えていると、ガルツさんが横に並び、同じ様に女神像を見上げている。
「この女神様はクロノ様と言って、この世界を御創り下さった神々の一柱だ。
此処の教会はクロノ様を信仰していて、世界を渡って来た者達を連れてきて、手続きする場所にもなっている。」
手続きとか、えらく事務的な言葉を聞きつつ、一頻り眺めた後ガルツさんに付いて奥の部屋に向かった。
其処は10畳程の部屋で、真ん中には白いテーブルクロスが敷かれた腰ぐらいの高さの台。
その上には、燭台・銀色のプレート・針・水の入った深めのお皿が並べられて、小さな祭壇の様だった。
俺たちが入って直ぐに、黒髪で180cm程の身長、白い祭服に身を包んだ50歳位の男が入って来た。
「お待たせして申し訳御座いません。私は司祭のハーデルンと申します。
貴方がこの度いらっしゃった方ですね?」
『フムフム』と此方を値踏みするように上から下までじっくりと見ると、
「では、此方へ」
と言ってその簡易祭壇を挟んで立つ。
水の入ったお皿に銀色のプレートを入れ、ハーデルンと名乗った司祭様は蝋燭に火を着け、燭台を持ち上げる。
皿の上にそれをかざし、溶けた蝋が水の中に落ちていき、プレートが溶けた蝋で見えなくなった。燭台を横に置き、掌を差し出してくる。
「ん?」
「手を」
言われるまま手を差し出すと、『少し痛みますよ』と言いながら、いつの間にか持っていた針を指先に、ブスリ!
「イッテェェェェェ!」
「痛むと言ったじゃないですか?」
痛みに手を引くが、全く動かない。
(あれ?司祭より弱いの俺?)
司祭は、微笑しながら傷口から出る血を皿の中に落とす。
あんた楽しんでるだろっ!司祭を睨むが微笑みが返ってくるだけ。
このクソジジィの笑顔、超殴りたい!!・・・けど落ち着け~俺。
今コイツを殴っても何のメリットも無い。寧ろ、デメリットの方が大きい気がする・・・
気がするでは無く、デメリットしか無いのでは?いかんぞ此処で見放されたら、この先【住所不定無職】と言う【不】名誉職に就いてしまう。それは、何としてでも避けたい!今は大人しく、大人の対応を取るに限る。
こういう時はあれだな!勝手に司祭の性格を設定してやればいい。
このおっさんはきっと、血を見ると微笑んでしまう病気なのだ!
・・・・なにそれ怖い!!
因みに、前の世界では車で煽ったり、追い越しをしてくる人は、トイレを我慢している人達と言う設定を着けてあげた。
そうする事で、コチラのストレスが減少する。処世術ってやつだな。今回もその【勝手設定押し付け行為】でピンチ?を乗り切るしかない。
そんな妄想に逃げ、一分程経っただろうか?いつの間にか手が自由になっていて、水の中で蝋まみれだったプレートが綺麗になって水面に浮かんでいた。
司祭(いつの間にか様が無いのはご愛敬)が『御取りください』と言って来たので、恐る恐る水からプレートを拾い上げた。
プレートに視線を落とすと其所には、
名前:シュウト カザミ
種族:ドリフター
職業:ーーー
と書かれていて、ひっくり返して見ると
ステータス
atk:113
def:62
dex:180
int:147
hp:98
mp:120
スキル
感知・隠密・帰巣本能
と、書かれていた。
これは高いのか低いのか、初期ステータスにしては、defとhp以外は結構高いのではないか?
一頻り眺めた後、ハーデルン(いつの間にか呼び捨てなのry)に視線を移す。
「そちらが身分証です。
主に、街の出入り等の身分確認で使用します。
無くされた場合、再発行には金貨5枚掛かりますので無くさないようご注意下さい。
尚、再発行の手続きは世界のどの教会でも行っております。
表には、名前・種族・職業が記載されています。裏面には、持ち主のステータスが記載されていますが、コチラは本人しか読む事が出来ない様になっておりますので、身分証の提示で、自身のステータスが他者に知られる事は御座いませんので、ご安心下さい。
ご質問は御座いますか?」
急に事務的な説明をしだすハーデルン。
切り替え早いな!こういう時は気になる事は聞いてみる方が良いかな。後で『知りませんでした。』とか、知ったかぶりするのは、自分が恥を掻くだけだし、カッコ悪い!
何と無くゲーム脳で理解出来そうだが、此処は異世界、違いが有ると大変なので、プレートに記入されている言葉を全て確認しておいた。
ハーデルンの説明だと以下の通りだ。
名前~自分の名前
やっぱり名前が前で名字は後ろなんだな。
何故日本の様に名字が前に来る事が、少ないんだろうか?
種族~自分の種族。
人間となっていないのは、異世界から来る者の中には、魔物や魔族等人間以外の姿になる者も居るので、召喚者・転生者達は纏めて【ドリフター】と言う種族になるそうだ。
職業~自分の仕事
此方に来たばかりなので無職。
求人情報誌とか有るかな?
atk~攻撃力
def~防御力
dex~敏捷性
int~知力
hp~体力
mp~魔力
説明を受けながら、自分のステータスを確認していく。
敏捷性➡知力➡魔力➡攻撃力➡体力➡防御力
俺のステ振りしたやつちょっと来い!と言いたくなる様なステータスだ。
強いて言えば、魔法職か斥候職と言った所か?
念の為一般人の平均ステータスを聞くと、職種によるが、80程度。警備兵として2~3年鍛えれば100位は皆行く。
ドリフターは100~150が初期ステータスの平均値らしい。
自分のステータスを計算すると平均120。ビミョウ・・・・
異世界チートはどこ行った?
いや、まだスキルと言う希望が残っている!
スキル~特殊技能
感知~人・モンスター・大気の魔力等の気配察知
シックスセンスってやつか?
隠密~気配を消して行動する
シーノービー
帰巣本能~ダンジョンや森等に入っても、迷わずに出て来られる
ワン!
リセットボタンは何処でしょう?
折角の異世界でチート能力がない。
一般人の平均値よりは高い平均値だが、体力、防御力には不安がある。
体力はギリギリセーフでも、防御力が紙がかってる。
スキルなんて目も当てられない。
感知は経験を積めば誰でも取得可能。
隠密も多少の適性は有るが、取得可能。
帰巣本能?自慢じゃないが、元々道に迷う事が少ない。迷ってもそれこそ本能で無事に家まで帰ってましたよ?
あっ、だから付いたのか。
昨日迷ってたのは気にしたら負け。
因みに、ドリフターは9割以上が鑑定のスキルを持つらしい。
成る程、レアな1割に該当するのか、嬉しくないな・・・・
説明を聞きながらどんどん暗くなる俺を、ガルツさんとハーデルンは生暖かい眼で見守ってくれていた。