三割の報酬【後編】
クリスマス?なにそれ美味しいの?
若きリーダーと言うのは、いつの時代、どこの世界でも有能な奴が多い。
タダシもその一人だった。
・・・・・・まぁそんな大袈裟なものじゃ無いけど、昨日の夜の打ち合わせは、録な意見が出なかった。
***************
「警備を気絶させて、その隙に抜けるのはどうだ?」
やめろファルニスさん!
「そんなの直ぐに、他の人達が来て私達が捕まっちゃいますよ?」
セレナさんは常識人だな。
「私が眠りの魔法で、辺り一帯の人を眠らせちゃえば、抜けるのなんて簡単です!」
あれ?無い胸張って何言ってんだこの人?
「それじゃぁ大事になるわよ?
私が色仕掛けで気を引くから、その隙に通れば良いのよ。」
何でこの人達は、隙を作って通り抜けようとするんだ?
実は、皆脳筋なんじゃないか?
それと、ジャネットさん。
その色仕掛けを後でお願いします!
じゃなかった・・・・・・
「あのっ!
違法に入るのでは無く、堂々と入りたいんですけど。」
それが難しいのは解るけど、入った後でビクビクするのは嫌です・・・
「僕達の仲間になれば良いんじゃないですか?」
タダシの一言が決め手だった。
***************
「それじゃぁ、打ち合わせ通りに行きますよ。」
「うん。頼む。」
昨夜、タダシの鶴の一声で決まった、ミリタリーフォースに俺が加入して入口をパスする作戦。
通常冒険者は、初めて街に入る時に、それぞれの入口を使い。
その後は真ん中を使って出入りすることになっている。
その他の人達は、必ず左右どちらかを使って入り、出る時だけは真ん中を使う。
これは、街の出入りをする一般人は、住人や観光客が多く、基本的に出入りのスパンが長い為らしい。
冒険者の場合は、依頼の受注や達成報告で、出入りの回数が多いため、真ん中を利用出来る様になっている。
これではどう足掻いても、左右どちらかを使わなければならないが、何事にも例外はある。
一つが大商会の荷馬車が到着した時。
この場合は、左右より大きな造りになっている真ん中を使用する。
審査はあるが、重視するのは荷物の検分なので、御者に対してはその商会が身元保証人みたいになるから、審査もオリジナルの人達より簡単らしい。
もう一つは行軍の場合。
この場合は、所属が明らかなので審査すら無い。
俺は、そういう場合こそ確り見るべきと思うけどな。特に帰って来た時とか。
最後に御偉いさんの場合だ。
王族は勿論、貴族や権力者に対しても審査は無しになるらしい。
そこで今回の作戦は、それなりに地位が高いミリタリーフォースの看板を使って、審査を無しにする方法。
無しに出来なくても、簡単な審査でパス出来る様に、交渉をして貰う。
その為の打ち合わせは、昨夜確りとやったから、大丈夫!
・・・ですよね?
「ご苦労様です。」
「これは、ミリタリーフォースの皆さん。
お疲れ様です。
依頼の帰りですか?」
「はい。
今回の依頼は難しくて、今日が期限なんですよ。」
「タダシさんがそんな事を言うなんて、珍しいですね。」
良いぞタダシ。
先ずは世間話で、相手の注意力を散漫にするんだ。
「だって~、いくら私達でもオーグルの群は辛いですよ~。」
セレナさんも入って二体一の状況。
これで、さらに注意力が二分される。
「しかし、オーグルの群の討伐を五人でやってのけるなんて、流石です!
普通は合同討伐案件なのに。」
タダシとセレナさんが話をしながら、身分証を出して、それを流し見る警備係。
いや、見てないな・・・形式を取ってるだけだなアイツ。
続いて、カヅキが身分証を出しながら話し掛ける。
審査をパスしても、タダシとセレナさんには直ぐに通り抜けずに、話続けて貰えるように、離れないで貰ってる。
三体一で話掛けられたら、流石に注意力なんて、無いような物だ。
「でっでも、ギリギリですけど、こうして間に合ったのはこの人のお陰なんです。」
「本当に助かりました。」
「シュウトさんのお陰です。」
それなりに地位の高い人達に、感謝の言葉を受けながら俺が前に出る。
地位の高い人が感謝の言葉を伝える人間に、悪い印象は持ちにくい。
特に、ドリフターは実力主義な所があるからな!
先ず、心象を良くしてその後に謙遜する事で、悪いイメージを持たせない様にする。
「そんな事無いですよ。
私は少しだけお手伝いしただけですから。」
「その少しだけって言うのが、本当に有難いんですよ!
だから、チームに誘ったんですから。」
良し!今のところは上手く行ってるな。
決して嘘は言ってない。
真実を全部伝えていないだけだ。
このまま俺の審査を流してくれれば、問題解決だ!
そう考えて自分のカードを出した。
「へぇー。ミリタリーフォースの皆さんがそんなに誉めるなんて、凄い方なんですね!
しかも、チームに誘われるなんて、羨ましいです!」
目をキラキラさせながら、俺のカードを流し見・・・てくれない!
所詮は素人詐欺師の考えか?
「あれ?誘ったって言ってますが、もう入ってるじゃないですか!
スゲー!高位の冒険者チームにスカウトされる人なんて初めて見ましたよ!」
「ん?あぁ・・・これも何かの縁ですから。
折角なので、お世話になることにしたんですよ。」
やべっ!急に振られて動揺しちまった!大丈夫か?
警備係は、俺をあのキラキラした目で見つめ、カードを再確認する為に視線を落とす。
「あっ!シュウトさんはこの街が初めてですね?その場合は向こうのいり・・・・・・」
「ちょっと~早くしてよね?とっとと依頼の達成報告してシャワー浴びたいんだから。」
ナイスジャネットさん!胸元をパタパタさせながら、俺達を押し退けて前に出て来る。
ドリフター用の入口に向かうように言い掛けた警備係は、ジャネットさんの胸元を凝視して固まった。
っつか、見すぎだろお前!
「そう言うな。彼も仕事だ。
しかし、急いでいるのは本当だからな。
悪いんだが、ここを通らせてくれないか?
彼の身元は俺達が保証する。
新たなメンバーだからな。」
「もー今回だけですよ?
良いもの見れたしなぁ(ボソッ)」
おい!その小声聞こえてるぞ?
女性陣二人が、若干引いた顔になってる。
「有り難う御座います。
それと、申し訳無いんですが彼の事はまだ誰にも言わないで下さい。
少しだけ事情があって、彼の事を今色んな人に、知られたく無いんです。
お願い出来ますか?」
「彼が問題を起こした場合は、俺達が対処する。
まぁ、問題を起こすような人間じゃないのは、旅の途中で十分に分かっているから、安心しろ。」
「皆さんがそんなに言うなんて、凄い方なんですね!
分かりました。
どうぞお通り下さい。」
またキラキラ視線を俺に向けて、門を通してくれた警備係。
君はもう少し、人を疑う目を養った方が良いと思うよ。
彼を心配しつつ丁寧にお礼を言って、俺達は街に入っていった。
***************
「上手く行きましたね!」
門から少し歩いた所で、タダシが嬉しそうに声を上げた。
「いや、所詮は素人詐欺師の考えた作戦だ。
無事に抜けられたのは、運が良かっただけだよ。」
警備の兄ちゃんが、少し好い人過ぎただけだ。
因みに、ジャネットさんの色仕掛けは作戦を立てる上で外せなかった。
決して俺が見たかった訳では無い!
角度的に見れないしな・・・
「うっ運も実力の内と、いっ言うじゃないですか」
「そうか………これも実力だな!」
カヅキは良い奴だな。
「それに、あの警備係の人は僕達のファンですから。」
おぉ!ミリタリーフォース様々ですね!
「まぁ、真ん中の門が一番通り易いんだけどね!」
「えっ?」
「はっ?」
「そっそれは?」
タダシ、俺、カヅキが揃って声を上げる。
「タダシとカヅキは知らないと思うけど、ドリフターの門は優秀な人材発掘の為に、優秀な人が審査してるのよ。
オリジナルの門は、ドリフターに対して友好的じゃない人も通るから、その抑止力の為に強い人が審査してるの。
真ん中で審査してる人達は、何て言えば良いのかな………その、普通の人達が審査してるのよ。」
「オリジナルの冒険者の間では常識なんだがな。」
先に言ってよ。
無駄に緊張しちゃったよ。
「でも、簡単って言っても誤魔化したり、賄賂が必要な場合もあるのよ?」
「そうなんですか。
作戦を立てたのも、強ち無駄では無かったんですね。」
「そうね。
所で話は変わるけれど、最後はどんなお願いが有るのかしら?」
ジャネットさん、気付いてたか。
タダシ達の顔もこりゃ気付いてたな。
ミリタリーフォース恐るべし!
バレバレだったと思うけど。
「流石は実力のある冒険者のチームですね。
やっぱり気付いてましたか。
昨夜も言いましたが、私は情報や知識をなるべく多く蓄えているって。
今回もそのお陰で、こうして街に入る事が出来ました。
私が欲しいのは、情報や知識です。
そう言う事なので、最後の一割は街の息が掛かっていない、【鑑定士】と【技術者】を紹介して欲しいんです。」
最後のお願いは、二つだけど良いよね?
人を紹介して欲しいと言う、一つのお願いだからね!
「それなら、トッドが良いわね。」
トッドさんか・・・
「その人はどんな方何ですか?」
「そんなに緊張しなくても良いわよ?
ただのヴァンパイヤだから。」
「ただのヴァンパイヤですか・・・」
この世界では、吸血鬼は普通の存在らしい。
異世界こわぁ・・・
「ジャネットさん。
ただのヴァンパイヤって言ったら、シュウトさんが勘違いしちゃうじゃないですか。」
「え?この世界では、吸血鬼って普通に居るわけじゃないの?」
騙された?
油断してたよ・・・
「本当に騙され易いのね。
トッドは裏ギルドに所属してる、何でも屋のヴァンパイヤよ。」
「うっ裏ギルドですか?」
裏って聞くと良いイメージが無いんですが?
「裏と言っても、国に認められてないだけで、表のギルドとあまり変わらん。
まぁ、依頼の範囲が表より広いがな。」
「範囲が広いって言うのは、やっぱり違法な依頼もあるって事ですか?」
その上、ヴァンパイヤと来たら危険なスメルがプンプンだよ。
「シュウトさん安心して下さい。
トッドさんは、好い人ですよ。」
「アイツはオリジナルの冒険者には、表裏関係無く対応してくれる。
タダシ達のようなオリジナルと組んでいるドリフターにも対応してくれるしな。」
好い人そうだな、トッドさん。
その後はトッドさんやこの街について教えて貰いながら、ギルドに達成報告をしに行った。
俺は大人しくして目立たない様に端の方に立っていただけだけど。
いくらギルドが国を越えた独立組織と言っても、完全に街に縛られていないとは言い切れない。
悪いがこの街で、ギルドのお世話に為る積もりはあまり無い。
「お待たせしました。
さぁトッドさんの所に行きましょう。」
一人でギルドの中を観察してると、タダシ達が依頼達成報告を終えて戻ってきた。
「ごめんな。
戻ったばかりで疲れてるのに、明日でも良いんだぞ?」
「いや、俺達も用が有るから気にするな。」
「ありがとう御座います。」
ギルドを出て向かったのは街の外周。
中心部は富裕層が住み、外周に近付くにつれて貧困層の住まいが多くなる。
勿論、中心部にはドリフターばかりが住んでいる。
「ここまではっきり分かれてるのに、オリジナルの人達から不満は出ないんですか?」
完全に住み分けがされてる街は気分が悪いな。
少しだけ優秀だからって、調子に乗ってる。
選民思想を徹底して何が楽しいのだろうか?
俺は宗教家ではないし、無宗教者だから偉そうには言えないけど、汝の隣人を愛せよと言う言葉がある。
俺の考え方だが、これは『愛』って単語で重く感じるが、利害関係を無視して手を繋ぎ合えば、ハッピーになれんじゃね?って軽く考えている。
「不満が無い訳じゃないわ。
ただ、ドリフター達の齎す技術は、多少我慢しても享受したいのよ。」
「そうですか。」
それは、自分達での発展の可能性を諦めてるだけなのでは?
ドリフターだけじゃなく、この街に住むオリジナルの人達も好きにはなれないかも・・・
これはもしかしたら、【あかんタイプの異世界】と言われる奴では?スリーブスでの出会いがとても良いものだったから、気付かなかったのでは?
あ~なじょすっぺ?
「着きましたよ。」
一人で色々と考えながら皆に付いて歩いていると、いつの間にか目的地に到着したようだ。
目を向けると、古びた木造の三角屋根に壁には蔦が生え、古さが際立っている。
魔女とかが住んでそうな家だよ・・・
「ここがヴァンパイヤの住む家…………」
「そっ外はこんな見た目ですけど、なっ中は綺麗ですよ。」
ホントかよっ?と叫びたくなるのを我慢して、皆に続いて中に入る。
カヅキの言うとおり、綺麗に整理され、雑貨屋なのだろうか?色々なアイテムが、テーブルや棚に並べられている。
全体を観察していると、奥のカウンターから一人の男が声を掛けてきた。
「よぉーこそっ!紳士淑女の皆々様!
このワァタクシみーずから揃えた逸品が揃う店。
【ブラッディ・マリー】へお越しくださいました!
本日は何をお探しでっしょうかっ?」
変な人が出てきました。