三割の報酬【前編】
少しだけ長くなってしまったので、前後編に分けました。
バガルズの近くでミリタリーフォースの面々には、車を降りて貰った。
無駄に注目を集める必要は無い。
「本当に速かったな・・・」
「えぇ・・・もう着いて仕舞いましたね・・・」
ファルニスさんとジャネットさんは、遠目に見えるバガルズの門を見ながら、今起きた事を整理している様だ。
そんな二人は置いといて、俺はマイカーを回収してバガルズの門を観察する。
「なぁ、何で同じ場所に入口が三ヶ所も有るんだ?」
混雑回避の為にしては、並んでる人の数が違い過ぎる。
右の入口には、人間や亜人等の色々な種族が長蛇の列を作ってる。
真ん中の入口には、人間や亜人等の色々な種族が列作らずに、スムーズに出入りをしている。
左の入口には、人間や亜人等の色々な種族が短い列を作っては居るが、進むペースが遅すぎる。
種族によって入口を別にしている訳では無さそうだ。
何だ?これ?
「あれは、種族と職業によって入口を別に設置してるんです。」
「?職業は良いとして、種族は見た感じ全部バラバラじゃないか?」
「一見そう見えますが、右の入口にはこの世界で産まれた種族。
真ん中は僕達の様な冒険者。
左はドリフター専用の入口になってます。」
右にこの世界のオリジナル。
真ん中に冒険者。
左にドリフター。
何だか胡散臭く成ってきましたよ。
「みっ右の入口では、身分証の提示と、はっ犯罪歴を確認して、はっ入る為のお金を渡したら、しゅっ終了です。」
「真ん中は、主に冒険者が利用する。
依頼によっては、スピーディーに対処しなければならない物も有るからな。
出入りがスムーズになるように審査を簡易的にしてるんだ。」
「左の入口は少し特殊でして・・・」
カヅキとファルニスさんの説明の後、セレナさんが左の入口について言い淀んだ。
うわぁ………嫌な予感しかしない。
「シュウトさんはバガルズに付いて、どの位知ってます?」
「えーっと、【機工都市バガルズ】は別名【ドリフターの街】と言われる位、世界中からドリフターが集まって来る街。
ドリフター達の前の世界の知識を、この世界の知識と合わせて独自の発展をしている街と聞きました。」
セレナさんの質問にスリーブスの図書館で得た知識を伝えてみる。
「表向きはそうなってますね。」
表向き?
「私達オリジナルからは、【漂流者達の墓場】と言われています。」
「それはっ!穏やかじゃ無いですね………」
行きたかった場所が、実はホラーハウスでしたって事ですか?
いや、そのまんまの意味じゃ無い事はわかってるけど・・・
「・・・・・・先程、皆さんを此処まで連れてくる為の報酬として、依頼報酬の三割を頂く約束をしましたが、二割にして頂いて構いません。
その代わりに、もう少し詳しく教えて下さい。」
知らなかったで、馬鹿を見るのは嫌だからな。
情報収集は大切だ。
「シュウトさんがそれで良いなら、僕達は構いませんが、詳しくって言われても・・・」
「あの左の入口で何が行われているのかを聞きたい。」
俺も、ソコを通らなくちゃいけないかも知れないからな。
「あそこはドリフター専用の入口でして、右の入口と同じように、身分証の提示と犯罪歴を調べて、入る為のお金を渡したら終了です。」
「それは可笑しいな・・・右と左で内容が同じなら分ける必要は無い。
列が進むスピードも同じになる筈だ。
タダシ、他に何か有るんじゃないか?」
それに入口の周りに居る人達の説明がない。
最初は列に並ぶのかと思っていたが、その様子も無く、むしろ列に並ぶ奴等と、世間話でもしている雰囲気だ。
「他に、ですか・・・
そう言えば、出身やステータス何かを聞かれましたね。
その他にも前の職業や特技とか。
世間話の様に話していたので気になりませんでしたが。」
タダシの説明を受けながら、入口を観察する。
これは、厄介な場所だな。
【漂流者達の墓場】と言うのも納得出来る。
面倒事は避けたいんだが。
待てよ?俺のステータスなら関係無いか?
いや、スマホと車はバレたら面倒な事は、想像に難くない。
「どうしたんですか?」
「あの入口を抜けたら、何か有ったか?」
「入るのをパスしたら、ナビゲーターと言う方が街を案内してくれました。
ドリフター同士仲良く暮らして行きましょう。
見たいな感じで・・・」
あー駄目だ!
この街あかん奴や!
街ぐるみであかん奴や!
「報酬は一割で構わない。
その代わり、俺も真ん中の入口を使いたいんだが、協力してくれないか?」
「どっどうして、そっそんなに警戒してるんですか?」
タダシとカヅキは解っていない様子だ。
他のメンバーに視線を向けると、何とも言えない表情をしている。
「三人はこの街の事に付いて知ってるんですね?」
意識的にタダシとカヅキの前に立つ。
一時間程度だが、縁が出来てしまったんだ、見捨てる事は出来ない。
「あぁ。」
ファルニスさんが返事をしながら前に出て来た。
また勝ち目の無い戦闘ですか?
勘弁して下さいよ~。
こういうイベントはチート持ちの、リアル勇者に起こるべきじゃね?
一般ピーポーの俺に起きる物じゃ無いでしょ?
「ちょっと!お二人共どうしたんですかっ?」
「タダシ。
少しだけ、下がってて。」
前に出ようとするタダシを、手で静止する。
「ファルニス。
貴方は説明下手何だから、私が説明するわ。」
「むっ。済まんな。」
ジャネットさんが、ファルニスさんの肩を叩いて前に出て来る。
「ご免なさいね、この人脳味噌まで筋肉だから、説明とかに向かないのよ。
代わりに私が説明するから、緊張しないで頂けるかしら?」
***************
俺達は今、街の近くで野営をしていた。
依頼の期限は明日だから、一先ず落ち着いて話をしようとなったのだ。
「それで?シュウトさんはあの街に何を思ったのかしら?」
俺が思ったことねぇ。
それは・・・
「あの街に違和感を持ったのは、入口についての説明を受けた時です。
あらゆる技術の発祥の地とするなら、出入りの選別は犯罪歴位に止めておくべきだ。
冒険者の出入りに付いてはまだ納得できる。
でも、技術は発表してこそ利益が出るものだから、多くの人に広めて貰って、利益をこの街に還元して貰うなら、一々オリジナルとドリフターを分ける必要は無い。
なら、どうして分けるのか・・・」
「選民意識」
セレナさんがポツリと呟いた。
「そう。
この街はドリフターが優れていると、他の街に知らしめる為に、入口を分けているんだ。
確かにドリフターは、高い性能を持つ奴が多い。
でも、他を見下す理由にはならない。」
「確かにその通りですわね。
だからと言って、それは入口を分けない理由にもなりませんわ。」
「入口を分ける理由は、より良い技術を発掘する為。
先ずは列に並んでいるドリフターとの世間話で、情報収集をする。」
「そんな簡単に出来る物かしら?」
「普通は出来ないと思うよ。
でも、周りの人達を良く見たら解る。
同じタイプが、居ないんだ。」
「同じタイプ?」
そう。これを考えた奴は中々の人物だ。
「美男美女なのは勿論だが、年上・年下・同年代。
体つきも色々居たし。
属性も色々居たな。
ロリ・ショタ・オラオラ・ヤンキー・真面目・眼鏡・お姉さん・マダム・お兄さん・ナイスミドル等々。
亜人種もいたしな。
簡単に言ってしまえば、ハニートラップだよ。
自分の好みの相手に話し掛けられたら、口が軽くなっても、それはしょうがないと思う。」
俺なんて即落ちする自信がある!
「例え、ここで情報が手に入らなくても、審査の時のコールド・リーディングで必要な情報を聞き出す。
審査では会話をしなければいけないからな。
だから、列の進みが遅いんだよ。」
「あっあの、」
「はいっ。カヅキ君。」
気分は教師。
質問してきたカヅキを見て先を促す。
「コールド・リーディングって何ですか?」
そこかよ!と罵声は浴びせない。
知らない事は罪では無いのだ。
知ろうとしないことが罪なのだから、質問をする事は良いことだ。
「コールド・リーディングってのは、話術の一種だ。
詐欺師や宗教家が良く使うんでイメージが悪い感じがするが、世間話や相手の見た目や行動を観察して情報を入手する。
サービス業やセールスマン、警察の尋問なんかにも用いられる手法だ。
さっきタダシが言ってただろ?
出身やステータスに前の職業や特技を聞かれたって。
しかも、タダシはそれをただの世間話と言ったよな?
俺が、他に何か有るんじゃないか?って言って気付くくらい自然に、相手に悟られないように、情報を入手する。
その情報から、この街の利益になる人材を探す。
【漂流者達の墓場】
利益になる人材は使い潰すって意味じゃ無いかな?この表現は。」
完全にブラック企業じゃねーか!
「凄いですね。
僅かな時間でそこまで言い当てる人なんて、初めて会いましたわ。
好きになってしまいそうです。」
「っ!」
ハニートラップの説明後なのに、引っ掛かりそうだよ!
ジャネットさん、恐るべし。
「ゴホンッ!
さて気を取り直して、三人はこの事を知ってるんですよね?
何故ドリフターの二人とチームを組んでるんですか?」
返事次第で戦闘突入ですが、それは止めていただきたい。
「私達は偶々この子達を助けただけですわ。」
「はぁ………ジャネットも言葉が足り無いと思うよ私。」
ジャネットさんの言葉に、少しだけ違和感を持ったが、セレナさんが助け船を出してくれた。
「私達はオリジナルですが、ドリフターの二世なんです。
三人共、この街で親を亡くしました。
死因は過労です。
シュウトさんが言った通り、私達の親はこの街に来て、この街に殺されました。
そんな私達の様な人達が、この街を【漂流者達の墓場】って言ってるんです。
元々三人でチーム組んで冒険者をしていたんですが、ある日ナビゲーターに街を案内して貰ってる二人を見掛けました。
普段なら気にも止めないんですが、ジャネットが親を亡くした年齢が、丁度二人に出会った時と同じで、どうしても気になっちゃったんです。
幸い、技術面では特筆するものが無かったのか、ただ単に若かったからなのか、この街の技術部門には連れて行かれ無かったんですが、一度気にするとずっと気になってしまって。
暫く経って、ギルドから合同討伐依頼が来たんです。
内容はウルフの群れの討伐でした。
ロック・マジック・プラント色々な種類のウルフが集まり、参加した人達の中にも被害が出たんです。
そんな時に二人が囲まれて居るのを見掛けて、助けに入ったのが、ジャネットとファルニスです。」
「覚えてます。
忘れる事が出来ないぐらいに、衝撃的でした。
ファルニスさんが、近くのウルフを一気に薙ぎ倒し、ジャネットさんが魔法で残りを一掃してくれました。」
うぅ………そんな過去があったなんて………
おじさん泣きそうだよ………
「その時にジャネットが………っぷ………うふふ………」
あれ?悲しい過去話の筈なのに、セレナさんが笑ってる………
ジャネットさんは耳まで紅くしてどうしたんだ?
「『ドリフターだからって調子に乗ってんじゃないよ!ガキは大人しくしてな!私が確り面倒見てやるから!』って二人に叫んだんですよ!
それでそのまま二人を加えて五人でチームを組んでるんです。」
「あっあの時はウルフよりジャネットさんが、こっ怖かったです。」
「ちょっと!カヅキ!」
戦闘になると、性格変わるのかな?
「確かにあの時のジャネットは、魔物も畏縮する迫力があったな。」
「ファルニスまで!もう止めてよ~私も若かったんだからさ~」
良いチームだな。
疑ってた自分が恥ずかしい。
「そんな過去があったんですね。
すいません。余計な事を聴いてしまって。」
「気にしなくて良いわよ。
この事を知ってる冒険者も多いからね。」
「え?」
「有名になると、色々知られちゃいますからねぇ。」
「は?」
「僕達なんて、一緒に渡って来たドリフターってだけで、同性愛者って言われてるんですよ。
酷い話です!」
(コクコク!)
「・・・すいません。
皆さん結構有名な方なんですか?」
「むっ。
言って無かったか?
我々はAランクの指名依頼やSランクの合同討伐に参加する事もある冒険者チームだぞ。」
聞いてないし!
そりゃぁ、わざわざ言う事でも無いと思うけどさ……
「だから、冒険者用の入口を使うのは何とかなると思う。」
「所で、シュウトさんは何でそんなに、ドリフター用の入口を遣いたくないんですか?」
別に良いだろ・・・とは返せないよな・・・
「皆さんを信用して言いますが、絶対に他にばらさないで下さいね。
俺のステータスは、はっきり言ってかなり低いです。
体力なんて街の人と同じか、それ以下かもしれません。
ただ、こっちに来た時に持っていたアイテムの性能が、凄く高いんです。」
そう言って、皆の前にスマホを置いた。
「タダシとカヅキは、こいつを見たことはあるか?」
「いえ、何ですかこれ?」
「見たこと、なっ無いです。」
「それじゃぁ、携帯電話って知ってるか?」
「はい。僕が使ってたのはこの位の縦長の物です。」
(コクコク)
タダシが、指で四角を作って説明して、かづきが頷いて同意している。
「成る程。
これは、タダシ達が使ってた携帯の次世代機だ。
電話やメールにネットを見たり、仕事や生活に便利な機能を自分でインストールして、増やす事が出来る。
小型のパソコン見たいな感じで考えてくれれば良い。」
「はぁ………そんなに技術が発展してるんですね。」
「ただ、今はその機能は一切無くなってしまってる。」
「そっそれじゃ、いっ意味無いんじゃ?」
カヅキ、良く気づいたな。
「そうなんだが、こっちに来た時にこの世界に適合するように中身が進化したんだ。
先ずはこいつを見てくれ。」
目の前に置いていた、自分の武器をテイムして見せた。
「消えた!」
「これが【取得】だ。
アイテムでも魔物でも、条件が揃えば何でも取得出来る。
テイムしたものは、このアイテムに保管されて自由に出し入れ可能だ。」
「それは、アイテムボックスと言う事かしら?」
ジャネットさん惜しいね。
「さっき言いましたよね?
アイテムでも【魔物】でもって。
アイテムボックスと違うのは、生きてる魔物も取得可能なんです。
更に、生きてる魔物をテイムした場合、魔物を俺の管理下に置けるので、戦闘で使役することが出来る。」
「では、君はテイマーと言う事か?」
職業に付いては、まだはっきりしてないんだよね。
現状では、妖精使いかアーチャーが一番近いしな。
「職業はまだわかりません。
恐らく前例が無いですから。」
次に皆の前でローヤルガーデンを起動した。
「この画面に映ってるのはゴブリンの村です。
以前俺が村ごとテイムした時に、追加された機能何ですが・・・」
「ちょっと待って!
村ごとテイムしたって言ったよね?
どう言うこと?」
まぁ、驚くよな?
セレナさんの気持ちも解る。
「俺も驚きましたが、規模が小さい物だったからかもしれません。
確か20ちょい位のゴブリンが住んでた村でした。
上位種も居ませんでしたから、出来たのかも知れません。
俺にも、テイム可能な条件がまだ解って無いんです。
それでこの機能は、このアイテムの中で村作りが出来るんです。」
「むっ村作りって、どっどう言うことですか?」
「簡単に言ってしまえば、テイムした魔物達を住ませて、成長させる事が出来る。
今は、ゴブリンロードに村の統治を任せて、村で作ったアイテムを廻して貰ったり、魔物を鍛えて戦闘で使役出来る様にして貰ってる。」
「つまり、時間さえ有れば自給自足は勿論、魔物の軍隊を作る事が出来るって事ですか?」
タダシ君正解!
軍隊は作らないけどな。
「そう言う事。
これをバガルズの人達に知られたら、絶対面倒事になる。
だから、ドリフターの入口を通りたく無いんだよ。」
「そこまで解っているなら、気を付けて置けば良いんじゃないの?」
そうは行かないんですよ?セレナさん。
「先ず詐欺師と言うのは、こちらが騙されないぞって意気込んでいても騙してくる話術の天才何です。
それに比べ、俺は騙され易い人間なので、情報や知識をなるべく多く蓄えているんです。」
勝ち目は五分と言った所だな。
半分なら危険だ。
パチンコで、信頼度50%の演出を何回外したか数え切れないし。
「分かりました。
それでは明日、僕達と一緒に冒険者の出入口から、街に入りましょう。」
その夜は、遅くまで打ち合わせをして、就寝した。
無事に通れると良いんだけど、明日はミスしないように、気を付けよう。