転生したら樹でした
「どうぞぉ」
シノブさんに案内されたのは樹の根元にあった洞で、中は柔らかい光に包まれた部屋が広がっている。
ここが彼女の住まいらしい。
「てきとうに座って下さい。」
「ありがとう御座います。」
実は最初の攻撃を避けたときから、膝が痛かったんだよね。
柔軟体操を明日から頑張ろう。
「それで、合格って何ですか?」
「それがですねぇ、うちの子をタブらかした男が此処に来るって言うじゃないですか?
もしその男が自分の事しか考えない人だったら?
親としてうちの子をそんな男に預ける訳には行きませんから!
その点、シュウト君はこの場所を三人の生まれた大切な場所って言ってくれましたし、勝てないと解って直ぐに逃げ出さず、別の方法で何とか撃退しようと頑張ってくれましたから。」
「テストって事ですか?」
「そうです!」
「死ぬかと思いました。
冗談じゃなく、最初の一撃はヤバかったデスヨ?」
「あれは最低限の実力が無いと、娘達は預けられませんから。
まぁギリギリセーフでしたけどね。」
「ソウデスカ・・・」
避けれて良かった『殺すつもりは無かったですよ?』って言っても、当たったら怪我はしてましたよ?
「まぁ、水に流しますけど。
それで、シノブさんはここの管理者でドリフターって事ですが、お話聞いても良いですか?」
「何でもどうぞ~」
「それでは・・・・・」
シノブさんはこの場所に召喚されたドリフターで、この『妖精の大樹』の木の根元で目が覚めたらしい。
最初は20メートル位の木が、一人二人と妖精が生まれて来る内に今の様な大樹に成長したとの事。20メートルの時点で結構でかいと思うけどな。
人間では無くドライアドとしてこちらに来たシノブさんは、この樹と会話が出来、この世界について教えて貰いながら、生まれてきた妖精達に魔法を教えたりして面倒を見て生活してる。
妖精が生まれる仕組みはドリフターと同じで、魔力が一定水準に達すると、妖精が生まれる。
木の枝に出来た蕾が開き中から生まれるそうだ。
もしもこの大樹が斬り倒されたり、燃やされたりすると、ここは生誕地ではなくなるらしい。
この場所では無く、この大樹が生誕地と言う事だ。
ここで知りたい情報来ました。
「ちょっと待ってください。
この樹が『生誕地』って言いましたよね?
つまり、ここ以外の生誕地にもこの樹の様な物が在って、それが妖精の生まれる場所だったり、魔物が発生する原因になってるって事ですか?」
「えっとですねぇ、エルが言うには各地の生誕地には『コア』があってそれを壊すと、その場所では何も生まれて来なくなるみたいですよ?」
「あの、『エル』って誰ですか?」
「あれ?言ってませんでしたか?
この樹の名前です。
彼女は『エリーゼ・グルーバー』生前は高位のクレリックだったみたいですが、今はみんなのおばあちゃんです。」
「え?お、おばあちゃん?」
「はい。」
「・・・・・・あれっ?説明終わり?!」
『シノブにはそれ以上説明出来んよ。』
「エル?」
シノブさんが上を見上げ声を挙げる。
突然頭の中に響いた老婆の声。
これがエルさんなのか?
「エルさんですか?」
『ウム。わしがエリーゼ・グルーバー。元クレリックで今は樹をしておる。』
「ちょっ『今は樹をしておる』って、ユルいなぁ」
『フフっ。取り繕っても意味無き事じゃ。
それに、事実は正確に伝えねばならんじゃろ?』
「確かに、事実確認は大切です。
しかし、貴女が本当の事を言っていない可能性も有るのでは?」
『疑い深いのぅ、しかしなぁ信じて貰う他無いんじゃよ?
明確な証拠を提示する事も出来んからのぅ。』
ですよねぇ~。
生誕地に招かれた人間事態が少ない上に、コアにアクセス出来た人は多分俺が初めてだろう。
そんな中で嘘等を見抜く何て、この世界素人の俺には無理だよ。
『そうじゃ、お主は3人の妖精を連れて行こうとしておったな?確か、フウカ・ライカ・スイレンと名を与えたんじゃったな?好きにするが良い。まぁ泣かすことは許さんがな。
それで、信頼としてはどうじゃ?』
うーん。あいつらは付いてくる気まんまんだから、好きにしろって言われ無くても結果は変わらないと思うけど、その辺が落とし所かな?
「お二人がここの皆を大切に想っていることは伝わりました。
疑ってすみません。
フウカ達が付いてくるかは、三人に任せます。」
『すまんな。
して、聞きたい事が有ったのではないか?』
「良いんですか?」
『全てに答えるとは言っておらんがな?』
「正直ですね。」
『先程言ったではないか、事実は正確にとな。
答えられる事には答えるが、無理な物には答えられん。』
「そうですね・・・
それではお聞きしたいのですが、まず始めに、何故会話が出来るんですか?」
俺の隠しステータスがやっと輝きだしたのかな?
『ワシが会話をしたいと思った相手ならば、自由に話す事が出来る。』
残念ながら、隠し種族ドライアドは無かった様だ。
あれ?ってことは、シノブさんがドライアドとか関係無いんじゃ・・・・・触れずに置いておこう・・・・・
「成程。
では次に、先程この場所を鑑定してみた所、居住者は97人となってましたが、シノブさんは98人目ですよね?何故ですか?」
「シノブは居住者ではなく、管理者じゃからのぅ、シノブは鑑定では外されたんじゃろ?」
管理者も此処に住んでるなら、居住者だと思うけど、括り方がまだ良く分からないな。
「そうですか。
では、次にコアとは何ですか?」
『コアか?
それはのう、魔力が多くまた、地脈から魔力を吸い上げる事で成長するもので、溜まった魔力から妖精や魔物が産み出されるんじゃ。
それ故に生誕地とも言われておる。』
「つまり、コアが生誕地と言う事ですか?」
『そうじゃ。』
「他のコアもエルさんの様に意思を持ってるんですか?」
『それはわからん。
何せワシはこの場所から動けんからのう。
ワシがコアになったのも、この地で死んだせいじゃからな。』
ここで生き絶えた・・・
「生前は高位のクレリックとお聞きしましたが、それ故にコアになったのでは?
その様な魔力が高い人や魔物等が死ぬとコアになるとか?」
『人間一人の魔力でコアなんぞ出来ておったら、墓地が大変な事になっておるぞ?』
「確かに。
それでは、この地で強力な魔物と相討ちしたとか?」
『いや、それも無いのぅ。
そもそもワシが死んだのはこの地に来る前に受けた傷が原因じゃからな。
ワシの考えでは、倒れた場所に生えておった樹に元々コアの素質が在った、その樹がワシを意識ごと養分として取り込んだ、と言うのはどうじゃ?』
成程。その可能性が一番高いかな?
そうなると他のコアに意識が在るとは限らない。
そもそも比較する事が出来ない現状では、答えが出ないんだけどね。
「まぁ、ここで話しても結論は出ないんですけど、その考え方が合ってそうですね。
ただ・・・樹の養分になるってどんな気分何ですかね?」
『あまり、考えたくないのぅ・・・
して、お主はコアの事を知ってどうするのじゃ?』
うーん。正直に言うべきか、言わざるべきか。
「単なる知識欲です。」
『嘘じゃな。』
即否定!
知識を求める姿勢が信頼出来ないんですか?
「ヒドイ!」
『いや、嘘では無いが全部では無いじゃろ?』
「・・・・・」
『無言は肯定の証と言うのぅ』
「参りました。
正直に言いますと、コアについて大きな街で発表したら魔物被害が減るんじゃないかな?って安直な考えと、コアの存在を知ってれば被害に遇ってる人達を救えるんじゃないかな?ってこれまた安直な考えです。」
『それだけでは無いな?』
「・・・・・・・・・・はぁ、お見通しですか。
でも、街での発表は本当ですよ。
ただ、何処か遠く知らない土地で魔王と戦ってる『勇者様』より、目の前で助けてくれる英雄の方が格好いいかなって・・・・」
『ズル賢いのぅ・・・』
目の前に居たら冷たい目をしてるんだろうなぁ・・・・
『嫌いでは無いがな。』
「え?」
『お主は他の者より歳が上じゃからな、特に体力が低い。
もしかしたら一般人より低いのではないか?
ならば、多少ズル賢く生きても良いんじゃないか?』
ハッキリ言われると傷付くわぁ。
「話してみると、そんなに英雄願望有る訳じゃないんですけどねぇ。」
『ならば、コアの破壊は良く考えてするんじゃな。』
「と言うと?」
『被害に遇ってる村等を救った後の事を良く考えるべきじゃと言う事じゃ。』
救った後の事を考える?
平和になって万々歳!って訳じゃ無いよな?
『被害に遇ってる者達は助かる為に何をする?』
「えーっと、その土地の領主か冒険者に退治を依頼するかな?」
『そうじゃな。
他所から来た魔物は討伐されたら終わりじゃが、その地にコアが在ったらどうなる?』
これは始まりにすぎない。キリッ!って感じでその後も被害が出るよね?だからコアの破壊はした方が良い。
でも、壊したその後の事?
・・・
・・・・
・・・・・っ!
「成る程ねぇ。そこまでは考えて無かったです。」
『うむ。今ので悟るか。
では、先の答えは何じゃ?』
その地にコアが在った場合か。
「どっかから流れてきた魔物なら倒すなり、追い払うなりすれば確かに終わりです。
でも、コアが有ると言う事は定期的、又は常に脅威に晒されている。
理想は後者ですかね?少し不謹慎ですけど・・・
脅威が常駐しているのなら、それに対抗する力も常駐しなくてはならない。
つまり、冒険者等が常に居ると言う事ですね?
どの程度の魔物が、コアから産まれるかは解りませんが、低レベルの魔物が産み出される場所なら、駆け出しの冒険者が、高レベルの魔物が産み出される場所なら、中から高レベルの冒険者が集まって来る。
人が集まる場所には、色々な施設が必要になりますから、ギルドの出張所に宿屋、武器防具屋に雑貨屋。
遊興施設何てのも有るかも知れない。
でも、コアが破壊されて脅威の常駐が無くなったら?
その村・街に特筆する物が無かったら・・・」
『人は居なくなり経済が停滞し、数年の内に廃墟となるじゃろう。』
すげー!伊達に歳食ってないな。
「被害が無くなれば万々歳!って思ってましたけど、『魔物被害による経済効果』って所ですかね。」
物騒なビジネス本が出来上がりそうだ。
『ちと言ってる意味が分からんが、おそらく街の有力者達は現状を理解しておるじゃろ。
力を入れて対処しない意味はわかるな?』
「はい。
主な理由は先程述べた通りですが、領主達の場合はその他に、『人の流入による税収』『有事の際の割り切り軍隊』後は、『良い領主様』って所ですか。」
『税収と軍については同意見じゃが、良い領主様とは何じゃ?』
「民衆の皆さんの安全の為にギルドに依頼したり頑張ってますよ。ってアピールです。」
『お主はひねくれておるのぅ・・・』
あれっ?俺の性格に難有り!みたいな話になってるぞ。
『まぁ、そう言う訳じゃからコアの破壊は良く考えて行動するんじゃな。
他に何かあるか?』
「いえ、とても勉強になりました。
ありがとう御座います。」
こっちに来てまだ3ヶ月しかたってないけど。
今後は自己満足だけで終わらない様に、結果の事も考えて行動しなくちゃいけないな。
『ところで、この後は何処に向かうんじゃ?』
今後か、実は行きたい所は決まってるんだよね。
「この森を抜けて『機工都市バガルズ』に行こうと思ってます。」
『バガルズか』
『機工都市バガルズ』別名『ドリフターの街』
科学と魔法を融合させた独自の技術が生まれる場所。
この街の存在を聞いたときから、行きたいと思ってたんだよね。
昔から買う物も無いのに、電気屋とホームセンターは暇潰しに行ったりしてたからな。
売り物見てるだけで楽しいし。
機工都市と言うからには、きっと見た事も無い様な物があるに違い無い!
『お主にはあの子らを預けるから、大人しくしていて欲しいんじゃがのう・・・
具体的には此処で生活して貰うとか?どうじゃ?』
「同じ場所にずっと居るとか無理です。
お出掛けしないと、発作が起きます。」
『何じゃそれ』
「大人しくしてる事が出来ない大人なんです。」
『そう言う事ならば仕方がないのぅ・・・・・・シノブ』
「えーっと・・・」
『シノブ!』
「くーーーすぴーーーー」
「寝てますよ?」
『なんと?!いつからじゃ?』
確か・・・
「俺がコアについて質問した辺りからです。」
『ほぼ最初の頃では無いか。』
「まぁまぁまぁ、もう遅いですからね。」
『はぁ、すまんが奥に寝床があるから連れてってやってくれ。
続きはまた明日で良いか?』
聞きたい事は今の所思い付かないから、もう大丈夫だけどね。
俺も眠いし続きは明日だね。
「はい。
では、お休みなさい。」