トンネルを抜けた先
俺「カザミシュウト」は何処にでもいる会社員だ。趣味はドライブ。
美味しいと評判のラーメン屋さん(県外)に出掛けたら、『何故連れて行かない!』と怒られ。それならばと、『行列の出来るパンケーキ屋さんに行こう(夜中の2時)』と誘ったら、『何時だと思ってる!』と怒られる。
結局『あんたには付いていけない』と、自由過ぎる行動が目立つために振られてしまうのが悩みの35歳
しかし反省せずに、今日も風の吹くまま気の向くままにドライブを楽しんでいた。楽しんでいたハズだ!!
「何故に徒歩?」
いや理由は解ってる。
トンネルを抜けたら見知らぬ森。
謎のエンジンストップ。
反応が無くなった愛車。
「悲しいかな、これ現実なんですよ?」
誰か居ないか彷徨いながら、木に向かって話し掛けるが、当然反応等がある筈もなく、返ってくるのは葉の擦れる音のみ。
どれ程歩き回っただろうか?
既に来た道が解らない。それでも歩く。悩む事が在っても反省は殆どしない。前だけを見て生きていくのだ!
「しかし、そろそろ本気でヤバイかも・・・・?」
一時間?二時間?同じ様な風景が続くなか時間の感覚も無くなり、疲労もピークに達した頃、落ち葉を踏み締める音が近付いてくるのを感じる。
「取り敢えず何かのフラグは踏んだのかな?」
話しの通じる人間であることを願いつつ、動物等話しの通じない相手の場合を考えて身構えながら、音の主を待つ。
一歩一歩落ち葉を踏み締めながら近付いてくる。木々の隙間から見えた影は複数の大人サイズ。射し込む光に反射する金属。
「動物では無さそうだけど・・・」
緊張感が体を支配する。
都合よく足元に落ちていた棒を静かに拾い上げ、子供の頃に嗜んだ剣術(拾った棒で友人とチャンバラゴッコをしたのは良い思い出)を思い出す。
約5メートル
木の影に隠れたそれらは一呼吸整えて、散る。
「動くな!」
威勢の良い声と共にあっという間に取り囲まれてしまう。
「貴様何者だ!?此処で何をしている!?」
何してるって?
迷ってンだよ!文句あるか!
と叫びたい。
しかし俺も大人だ。
素直に自己紹介と状況説明、あわよくば打開策の提示等を求めたい。
「え~っと、私はカザミシュウトと申します。道に迷ってしまって、この森をさ迷っていました。宜しければ、森の外まで案内をお願いしたいのですが・・・」
敵意が無いことを証明する為に両手を上げ無害アピール。勿論、持っていたエクスカリバー(今命名)も手から離している。
正面に立ち声を挙げた人を見ると、フルプレートメイルに、フード付きのマント。手には盾と片手剣。
イミワカンネ
武器持ってるんですけど?
逃げたい。
ちょ~逃げたい。
お~っと冷静になれ~俺?すぐにスプラッタな展開にはならんと思う、何より質問に答え、質問を投げ掛けたんだ!「成る程では死ね!」何て事にはならないよ・・・なんないよね?ならないって誰か言って!!そんな俺の葛藤を他所に警戒が解かれる事はない。と、思ったが違った。
最初に声を掛けてきた人の後ろからもう一人歩み出てくる。その人の手が武器を構える人の手に重なり、ゆっくりと下ろすように無言で指示をする。
それを見た俺を取り囲んでた人達もゆっくりと武器を下ろす。
仕舞ってはくれないんだ・・・多少気になるものの、話し合う事が出来る雰囲気が出来る。先に口を開いたのは後ろから来た人だった。
「驚かせてすまない。私は指示を受けてこの森を調査していたのだが、君の出身と、名前をもう一度聞かせて貰えないか?」
確りとした声音で話し掛けてくるおそらくリーダーの問いに、即死亡は無いと思い返答する。
「出身は宮城で名前はカザミシュウトと申します。」
「ミヤギ出身のカザミシュウトか」
「はい・・・」
「他には、誰か一緒ではないのか?」
「いえ。私一人です。」
「装備品、武器などは持っているか?」
「え?装備品?武器?」
何言ってんだこいつ?
強いて言えば布の服が防具ですが?
そんなの見たらわかんだろ?
わかんないのか、何かの確認なのか、こちらが混乱していると、最初に動くなって叫んでた人がリーダー(仮)に話しかける。
「隊長。どうやら本当に仲間や危険なものは所持して居ないようです」
(仮)じゃなかった!
何処から出したのか、手には縁を銀色の金属の様なもので囲った硝子の板を持ってサブリーダー(仮)さんが、その硝子製のタブレット?を隊長さんに見せていた。
何かわからんが、そろそろ警戒を解いて欲しい。
俺の両腕が悲鳴を上げ始めてますよ?顎に手を当て暫し考え込んだ後「休め」と隊長さんが声を掛けると、その場に漂っていた緊張感が霧散する。
各々手に持っていた武器を仕舞、フードを後ろにずらす。
兜代わりのフード付きのマントだったようで、俺を取り囲んでいた人達の顔を見ることが出来た。
見たく・・・はなかった。
薄々感じては居たんだ。この状況のおかしさを。だってそうだろ?トンネルを抜けたら雪国であった。じゃないんだから、トンネルの向こうには道路が続いて居て欲しい。景色が一変して森の中って、頭がおかしくなったと思うじゃん?
疑ってはいたんですよ?色々と。
小説、アニメ、マンガ、映画にゲームと、色々なメディアで使われてるし?それでも、そんなのあり得ないって思うじゃん?
でも、こっそり内なる力に語り掛けて診たり。
木に話し掛けて観たり。
それでも反応無いから知らない内に死んだとか考えて診たり。
なのに、それなのに!
出会ったのは犬や猫の獣人って。
「ここ、異世界だわぁ・・・」
先程のやり取りの後、近くに彼らのキャンプ地があると言うことだったので、お邪魔する事にした。
「掛けてくれ」
いくつかのテントが並ぶ中、隊長さん。黒毛の犬の獣人(後ろから見ると、犬が鎧を着て二足歩行している)の隊長さんに他のテントより一回り大きいテントに案内される。
中央に四角いテーブルがあり、促されるままに腰を掛けた。
此方が座ると、陶器製のピッチャーから硝子製のコップに透明な液体を注ぎ俺の前に出してくれた。
俺が警戒してると、「毒ではないよ」と、マントを椅子に掛け(兜の代わりにマントって防御だいじょぶ?)、自分の分をピッチャーから注ぎ一口。
「ふぅ」
一息吐いて落ち着いた隊長さんを見て、毒では無さそうだと思い、一気に飲み干す。
ヨモツヘグイ?知らんよそんなの。歩きっぱなしで喉が渇いているのだ!
「さて、先ずは自己紹介と行こうか。私はガルツと言う。見ての通り狼の獣人種だ。警備兵をしている。」
(ごめんなさい。犬と思ってました。)
「君は、いやシュウトはミヤギ出身だったね?」
「はい・・・」
先程サブリーダー(仮)さんが持っていた硝子製のタブレットを操作しながら会話を続けた。
事情聴取みたい。勿論体験したことは無いが、ドラマで見てた雰囲気とそっくりだ。
カツ丼食いたい・・・
「残念ながらこの国・・・この世界にはそんな地名は無いんだ」
衝撃の事実!でも無いんだけど、現地の方より言質を頂きましたって所だな。
「私の地元にも獣人種と言う種族は居ませんでしたので薄々気付いては居ましたが、此処は異世界で合っていますか?」
質問してから、ヤってしまったと思う。
此処は異世界ですか?って異世界の住人からしたら、何言ってんだこいつ?ってなるに決まってるじゃん!
俺からしたら確かに此処は異世界だけど、ここにいる人達からしたらこの世界はこの世界な訳であって、俺の世界が異世界になり異世界の人達からしたら、此処は異世界じゃなくなるって事で、あ~~~~~もうやだぁ!
「ふっ」
俺が頭を抱えながら葛藤しているとガルツさんがそれを見て吹き出した。
その行動に不快感を覚え俺が軽く睨むと、「すまない」と謝罪しながら続けた。
「混乱するのも解るが、まずは落ち着いて話を聞いて欲しい。
確かにシュウトからすると此処は異世界だと思う。この世界は君の様に別の世界からやって来る者は少なくない。
今回シュウトを見つけられたのも先人達からの知識と技術が関係しているんだが、まぁ今はいいだろう。
先ずは君の置かれている状況だが、異世界召喚又は異世界転生となるだろう。」
「召喚と転生ですか」
「あぁ、此処に来た時に殺されたり、事故に会ったとかそういった記憶は有るかな?」
「無いと思います」
何せ気付いたら愛車の反抗期と共に見知らぬ森に居たからな。
「記憶が無い場合も有るが、死んでいないのなら、召喚だろう」
「その場合、召喚者が誰か居る筈ではないのですか?」
そこが一番疑問だった事だ。
転生の場合は前の世界の俺が死に、新しく生まれ変わる。
それが『転生』だと思う。
生まれ変わるのだから、此方の世界の母親に抱かれて目を覚ます。
又は、と言うか此方が異世界転生の本命だが、既に成長、と言うよりも元の世界のまま転生のタイミングで放り出されるパターンが結構一般的だと思う。
死んだ覚えは無いがな!
しかし『召喚』の場合は儀式やアイテムで呼び出す。それが召喚なのだと俺は認識している。
なのに、原因を作った召喚者は俺の前に現れず、放置プレイをするという暴挙に出ていた。
こちらとしては、召喚者が居ない以上、記憶の無いままに死んだのではないかと思うのが普通だろう。
にも拘らず、ガルツさんは『召喚』だと言った。
その心は?
「召喚者は居るとも言えるし、居ないともいえる。
先程も触れたが、この世界は君の様に異世界からやって来る者が少なくない。
長年の研究から魔力が大量に溜まると、その魔力から爆発するような力が観測される。その際に、召喚者や転生者がやって来たり、新たな魔物が生まれるのだ。
魔物が生まれた場合は、直ちに排除なりの対策を取らねばならない。
今回も魔力が一定の水準に達したので、私が出向き調査をしていた所、君が現れ保護したと言う訳だ。
強いて言えばこの世界が君を召喚したことに成るかな。」
自然の摂理ならば仕様がない。そして放置プレイ召喚者に納得だ。何せ召喚者は目の前、俺の周りの世界だったんだから。
一息吐いて落ち着き、今後の生活の為に情報収集に意識を切り替え、ガルツさんに話を聞く。
「落ち着いてるね。君の出身のミヤギとはニホンの事だろう?」
「え?解るんですか?」
「あぁ。色々な世界からこの世界に渡って来る者は多いが、君と同郷の者は適応力が高くてね。色々な技術や文化を広めてくれているよ」
オタク文化万歳!どうやらかなり異世界人を受け入れる下地が出来てる様だ。
自分の出身や能力、何が在るか解らないが、隠したりする面倒は無いらしい。
いや、能力は隠した方が良いのかな?
何はともあれ、情報収集だ。
「では、同郷が友好関係を築いてきた事に感謝しつつ、色々質問したいのですが宜しいでしょうか?」
俺の質問に「どうぞ」と笑顔で答えて来れるガルツさん。笑顔と一緒に覗く犬歯が怖いんだが・・・礼を述べつつ、気になって居たことを色々聞いてみた。
俺の質問は、
・今まで召喚された人達の処遇と仕事
・魔王的な存在
・今居る国の状況及び周辺国家の状況
大筋こんな所だ。
ガルツさんは嫌な顔せずに答えてくれた。
今まで召喚された人達、その殆どがこの世界の住人と同じように好きな職業に就いているらしい。
異世界の技術や文化を惜し気も無く放出して、経済・政治等に磐石な地位を築いている者や、召喚・転生特典の高いステータスやスキルを使って魔物の討伐等をして生活する者、様々居ると言うことだった。
ガルツさんが『その殆どが』と言った様に一部当て嵌まら無い人達が居るらしく、その人達は此方に来た時に、状況が理解出来ずに発狂してしまった人達だそうだ。
混乱している人の場合は、一度落ち着かせると結構すんなり現状を受け入れる人が殆どだ。
その点日本人は、皆最初からアッサリと受け入れるが、テンションが上がってしまってる人も居るので、そういう輩の対処の方が混乱している人達の相手より、厄介らしい。
尚、発狂してしまった人達は、教会で保護されていると言う話。
まぁ、現代の日本人の様にある程度の予備知識(異世界渡航系のお話)無しに放り出されたら、発狂して仕舞うのも頷ける話である。
ふと思ったんだが、予備知識無しに異世界に放り出されたら、発狂、少なくとも混乱するだろうに、落ち着いて対処するゲームやマンガの主人公達の豪胆な性格には頭が下がる。
因みに転生者と召喚者の違いだが、何と転生者は自分の死を認識していると言う。それ故に転生者の多くは死んだ時の記憶が、発狂に至らしめる大きな要因となっている。
教会にはそうした転生者が、それなりの人数が入っているとのことだ。
だからガルツさんはそこを確認して、転生者じゃないと解ったんだな。
次に魔王的な存在だが、何人か居て。人間死すべし!とか、世界は我の者じゃ!とか言ってる種族が少ないので、基本的にはノータッチ。向こうは向こうで人間と同じ様に国家運営しているので、喧嘩を売らなければ善き隣人と言うこと。
少数派の魔王さんは俺TUEEEしている、自称勇者の皆さんと殺伐とした関係を持っているそうだ。
友好的な魔王等の一部の国では貿易も盛んだと言っていた。
因みに、お金については、貨幣が一般的で大きな取引(国家間の支払いや、大きな商い)の場合のみ、紙幣が使われる。
紙幣が有ることには驚いたが、異世界の住人が多数居るなら納得だ。
一般の市場では貨幣が主流で、
鉄貨・・・10円
銅貨・・・100円
銀貨・・・1000円
金貨・・・10000円
紙幣・・・100万以上の取引
最後にこの国についてだが、『フィールズ』と言う国で、ガルツさん達が住んでる街の名前は『スリーブス』と言う。
比較的平和で、魔物の被害等も少なく石材と木材、それに付随しての工芸品が有名な街。
南方聖教会が治める街で、現在戦争している国も無いのですごしやすい国だと言っていた。
その日は話しをしていたテントで休ませて貰い、一晩休んだら、街に連れて行って身分証明書の発行手続きをしてくれると聞き、ゆっくりと就寝したのだった。