小さなころの、大きなきずを
私が幼いころ、父はちがうところに住んでいた。
私と母とは、ちがうところに。
母は私に、
「パパはお仕事があるから、遠いところに住んでるのよ」
と言った。
遠いところ。
パパが一緒にいないのは、私にとってごく自然なことだった。父親とは、妻と子供とは一緒に暮らさないものである。そう思い込んでいた。
パパに会いたい、と、泣き叫んだ夜を、未だに何度も思い出す。こころの深い、深いところに、抑え込んで閉じ込めた感情。
「パパ、愛してるよ……だからずっと、そばにいて」
あのころ、ただしく抱けなかった感情を、だから私は、掘り起こしてやらなければならないのだ。すくいあげてやらなければならないのだ。
私には、あのころの私の代わりに、泣いてあげることしかできないのだから。