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『囚人』意図せぬ釈放


 突然だがこのオレ、常島クルトは弱冠19歳にして現在、硬いベッドとトイレと段ボールが備えられ、出入り口が鉄格子で閉ざされた――いわゆる『牢屋』の中にいる。


 何をしでかしてこんなとこにいるのかって?

 まあ、けして驚かないと約束してくれるのなら教えてやらないこともない。


 ……………………………………………………………………………


 心の準備は出来たか?


 そうか、いいだろう。心して聞いてくれ。

 オレは――


「なにもしてないんだよ」


 強面の看守にビビりながら、聞こえない様に小声で呟いた。


 そう。オレは何もしていない。冤罪ってやつだ。

 罪状は現住建造物等放火罪で無期懲役。五人の家族が住まう一軒家に火を放って両親と長男を死なせ、長女と二男に重傷を負わせた。極悪非道で非人道的な行い。


 目撃証言やアリバイ等の情報が合致し、この犯行はオレ以外にはありえないらしいが……


 それでもオレはやってない!


 なんて今更主張しようにも後の祭りだ。


 弁護士はろくに弁護する気も無かったし判決もあっさりしたものだった。

 判決が出た以上、真犯人が見つからない限り何を言っても無駄なのは分かっている。


 それにオレには頼れる人がいない。

 両親は3年前、仕事先の海外で内戦に巻き込まれて亡くなった。一人っ子だから兄弟もいない。

 うちの家族が基本的に日本にいないという事もあって、親戚に会う機会はほとんどなかった。


 天涯孤独と言っても間違いはないかもしれない。


 だから正直どうでもよかった。

 オレが捕まったからって誰にも心配はかけないし、親の保険金や貯金で大学に通ってはいたものの、ただなんとなくまだ働きたくないから通っているだけだった。目的があるわけではない。


 自分だけがやっていないって事を分かっていればそれでいいと思った。

 

 それで死刑にでもされたらさすがに焦ったかもしれないが、幸いか否か無期懲役。

 まだ働きたくないとは言ったものの、ここでの労働にはやりがいを感じているし、案外居心地も悪くなかったりする。

 

 悪くはないのだが――


「この天井も見飽きたなぁ」


 硬いベッドに横になると、カビとシミだらけの天井を眺めながらぼやいた。


 ここに来たのが1年前の冬。18の時だ。

 たったの1年間でこの感想が漏れてしまったのは非常に危険な状態かもしれない。なにせ無期懲役だ。最低でも後40年以上はここにいることになるというのに。


「――はぁ」


 もっとこう意地でもオレじゃないって言い張ったほうが良かったかな。

 でも、今更どうしようもないし。


 そんな自問自答の繰り返し。


 試しに獄中自殺でもしてみようか、なんて考えながらおもむろに段ボールの上に置かれた時計に目をやった。


 15時20分。労働時間まであと10分。そろそろ放送と共に看守が鍵を持ってやってくる時間だ。


「ま、今日も頑張りましょうかね」


 ため息混じりに呟きながら、べッドから降りようとして――


 目の前の景色が一変した。

 

 理解できたのは、ベッドが木製の椅子に変わったことと、オレを見つめる三人の存在で。


 まあ、ここが『牢屋』の中ではない事は確かなようです。


続きは明日の夜に投稿いたします。

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