第六話 第二のプロローグ
「そんな気はしてたんだ」
呟く。
「ああ、そんな気はしてたさ」
「でもな、少し期待してたんだよ」
「もう終わるかもしれないって」
僅かな沈黙が流れる。
「なあ、どうしろってんだよ」
「答えてくれよ、なあ? いるならさ」
「……神サマってのがさァ……」
一瞬の沈黙の後、呟きは叫びへと変わる。
「なぁ!!おい!!!」
「どうしろってんだよ!!!?」
「俺はもう……生きたくないんだ!!!!!」
「エディ」は手に握っていた拳銃をこめかみに当て引き金を引く。だが、スライドが下がりっぱなしの拳銃からは当然弾は出てこない。
「……くそっ……くそぉおっ……」
「エディ」は拳銃を投げ捨て、近くに倒れている兵士の手から突撃銃を奪い取った。
銃口を顎に押し当て、引き金に指を掛ける。
しかし、そこである予感が脳裏をよぎる。
ここで死んで、それで終わりなのか?
死んだ先にまだ先があるのではないのか?
「男」は周囲を見渡す。燦々たる光景が広がっている。
「男」は、有り体に言っていわゆる「ミリオタ」という種の人間であった。友人から勧められた様々な作品から、特に気に入っていたのがミリタリー系のものであった。
戦って、死んでいく。前線の兵士達には優劣などない。生きるものは生き、死ぬものは死ぬ。
物語の中で戦火に身を投じる主人公達は悲劇的に描かれていたが、「男」はその戦火に高揚を覚えていた。
優劣が溢れ、死ぬはずの者が平然と生きる社会に生きている自分から見て、彼らはとても「自然」であるように思えて。だから好きだった。
そして今、「男」は兵士だった。
顎から銃口が離れる。
だから、「今」はそう悪くないのかもしれない。今死んで、「前世」のような世界に飛ばされたらそれこそ絶望だ。
それから「男」は、兵士の死体から銃や、弾薬や、食料を拾い、あらかたバックパックに詰め込み、軍服をウリューナ兵の、なるべく破損していないものに着替えた。
そして、敵がやって来た方向を、味方の基地とは正反対の方向を向く。
「今」になってまで組織の一部となるのは御免だ。――そう思ったから。
「男」は、歩き始めた。