第五話 序章の終焉
音の正体は
その微かな音は間もなくハッキリと聞こえるようになり、やがて大地を震わす轟音となる。
上空に現れるいくつもの点。それが「パトリオット」達であることにエディはすぐに気付いた。
点の一つが突然煙を吹き、やがて紅い光を放ちながら、墜ちる。赤と黒の色彩の中に混じる白。エディはそれが先ほど自分たちを爆撃したウリューナの戦闘機であることに気付く。
「ははっ」
思わず笑ってしまう。先ほど自分たちを苦しめた敵が簡単に墜ちていく。編隊を組むために上空で旋回する灰色に青のラインの入った戦闘機たちが、まるでエディが死ぬのを待っているかのようだった。
エディは銃口をこめかみから離す。もはや彼は死に恐怖などしていなかった。
湧き上がる感情が、身体中の恐怖を侵食していく。
先ほどのヤム達の感情が少し理解できた気がする。
エディは、瓦礫の中から外を覗く。「ゴキブリ」とその随伴歩兵は、突如現れた敵機にパニックになり、後退していく。
上空に、白い閃光が撃ち上げられ始める。だが、それは一発として敵機を穿つことはない。
まるで、先ほどの自分たちを見せつけられているようだった。
上空に集結した大量の点たちが、先頭のものから急降下を始める。凄まじい音が森を震わせる。
エディは立ち上がった。
その身に宿しているのは、愛国心でも、ましてや神への信仰でもない。
目の前の獲物を殺すという、獣のごとき衝動。
「ゴキブリ」の傍にいる兵士に向けて引き金を引き絞る。
銃声。兵士は首を撃ち抜かれ、喉から空気と大量の血を漏らしながら絶命する。
銃声。兵士は後頭部を撃ち抜かれ、苦しむことなく絶命する。ヘルメットはあと数ミリというところで役に立たなかった。
ここで、ようやく兵士らは後ろを振り向き、そこに立っているエディを発見する。
手に持つ銃をエディに向けるが、既にエディは照準を終えていた。
三人目の兵士が倒れると、エディは弾丸の舞う道を走り始める。
二発残っている弾倉を捨て、八発が詰まった弾倉を拳銃のグリップ下に叩き込み、装填スイッチを押し込む。
敵との距離は十メートルを切っていた。この距離なら移動しながらでも当てられる――。
右足に衝撃が走る。撃たれたと自覚した瞬間、今度は焼けた鉄の杭を刺しこまれる激痛が走る。
エディは前のめりに倒れ込む。と同時に、目の前の兵士に銃口を向けていた。
三連射された銃弾が兵士を袈裟斬りに切り裂き、絶命させる。
地面に倒れ込むと、一人残ったウリューナ兵が怒号を上げるのが聞こえた。
視界の端で、兵士がこちらに突撃銃を向ける。
「……まあ、いいさ……僕は、やってやった……」
戦闘機の凄まじい雷鳴が聞こえた。
バァァァアアアアアアアアッッ!!!!
一繋ぎになった二十ミリ機銃の発砲音と共に、目の前の兵士はズタズタに霧散し、「ゴキブリ」も貧弱な上面装甲を叩き折られ、絶命する。
周囲を見れば、行き場を失った戦車と兵士が基地内を右往左往している。
そんな彼らの周りに、無情にも白く塗られた爆弾が突き刺さった。
「はははっ」
エディは笑う。拳銃を空に向け、一発ずつ、ゆっくりと、四発撃った。
発砲音、爆発音、戦闘機の雷鳴、怒号、悲鳴。それらが混じりあい、地獄の音楽を奏でている。
最後の一発が薬室に込められた拳銃、その銃口をこめかみに当てる。
もう指は震えない。動かなくもならない。
エディは、躊躇いなく引き金を引いた。
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