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脱走兵と幼女  作者: 後川
3/11

第二話 ヒーローは遅れてやってくる?

そろそろ物語が展開していく……はず。

エディは走り出す。指揮室のあった場所に。

 だが、兵士の言った通りそこには残骸があるのみ。

 通信室は爆風を受けただけのようで、まだ原形をとどめているが、指揮室は直撃を受けていて、そこに指揮室があったという痕跡はほとんど残っていなかった。

 この基地に着任してからの六か月。そしてこの三日間の戦いを共に過ごした戦友達は、もうそこにはいなかった。

 「少尉殿!マクレーン少尉殿!!」

 呆然と立ち尽くすエディに中年の兵士が駆け寄る。

 「ヤム二等准尉であります。我々第六十七基地防衛隊は現在、兵員60と中戦車3、自走対空砲2、装甲車4しか有しておりません。しかし、ここから最も近い基地は南に65キロ……我々の装備ではその基地までたどり着けません。撤退は……不可能です。少尉、今は貴方が指揮官です。」

 「彼らは、降伏を受け入れるか?」

 「降伏……ですか?」 

 「そうだ」

 「これだけ……千二百の同胞を失って、それで奴らに頭を下げろと?」

 「……」

 「奴らに許しを請えというのですか!?」

 「……准尉。今はそんな感情的になっている場合じゃ…」

 爆発音に紛れて、滝が流れ落ちるような音が聞こえた。

 それはやがて大きくなり、空気を震わす爆音となる。

 エディはヤムと共に兵士等に近づく。現状では、通信機での指揮は不必要であったし、不可能だったためだ。

 「しょ、少尉殿!来ました!敵戦闘爆撃機隊、二個中隊規模です!!」

 自走対空砲が咆哮する。中戦車の機銃手も空へ銃弾を放ち続ける。

 上空で炸裂するそれらはしかし一発たりとも敵機を穿つことはなく、やがてエディの肉眼は群青の背景から弾幕をすり抜けて降りてくる白い機影を発見する。いくつもの白い点はその姿を段々と戦闘機の形へと変え、その全体像がはっきりと見えるようになった時、戦闘機達は腹から爆弾を切り離すと、後方へ飛び去る。

 爆弾は勢いよく地面に突き刺さると、そばにあった自走対空砲から乗員が飛び出すのを待つことはなく

 爆発する。

 爆風と共に散った鉄片は露天式戦闘室にいた乗員や廃熱用のスリットの向こうのエンジンを容赦なく貫き、自走対空砲を沈黙させる。

続いて降りてきた二機の機銃掃射をもう一輌の自走対空砲は弾薬庫に受け、周囲にいた兵士を巻き込みながら爆発、炎上。壮烈な最期を遂げた。

 しかし、敵の戦闘機隊は、その三機以外は攻撃をせずに後方へ飛び去った。

 「奴ら後方の基地に……」

 ヤムは声を震わせながら言う。一方で、エディは別のことに気づいていた。

 「ヤム准尉!戦車と兵を下がらせて!」

 ヤムは戸惑いつつ、中戦車の車長に呼びかける。

 昼間でも薄暗い森の奥が、一瞬光を放つ。

 中戦車の装甲板が凄まじい金切り声を上げながら飛んできた砲弾を弾く。別方向からも砲弾が飛び、同じ中戦車の装甲が垂直に立っている所に食い込む。今度こそ装甲板は圧力に耐えきれず崩壊。徹甲榴弾は車内で炸裂した。下から突き上げられ、ズタボロになった車長の上半身が飛ぶ。

 「後退!後退!敵に正面を向けたまま下がれ!森の中までだ急げ!」

 戦車と兵士達は基地の後方に広がる広大な森に向かって後退し始める。正面の森からは「ゴキブリ」達が容赦なく砲撃を加えてくる。

 中戦車や兵士も反撃するが、薄暗く障害物の多い森の中に陣取る敵に対して、陽の光を浴びる更地の上にいるのはあまりにも分が悪い。

中戦車は降りかかる徹甲榴弾を弾き続けたが、砲弾が成形炸薬弾に変わると、瞬く間に一輌が撃破され、もう一輌の中戦車も正面装甲の隅に被弾、見た目はまだ行動できそうだったが、その場で沈黙した。

 兵士が乗員の安否を確認しようと戦車に駆け上がり、ハッチを開いて中を確認する。

 「うぅおえッ」

 そのあまりの惨状に彼は嘔吐し、振り返った顔には絶望がありありと描かれていた。

 「あああッ……」

 彼は戦車を飛び降りると、他の兵士の制止を振り切って両手を掲げながら、正面の森に駆け出す。

 「もう嫌だッ!助けてくれ、俺は降伏する!!だから、助けて、たすけ」

 森の中から一閃し飛び出してきた機銃弾が彼を苦しみから救った。

 代わりに一部始終を見ていた国防軍兵士には絶望を植え付けたが。

 「くそッ!!」

 兵士らはブリキ箱から各々の武器を取り出し、決死の攻撃を続ける。

 この三日間、数倍の戦力を持つ敵に抗い続けた兵士たちの練度は決して低くはない。しかし、敵もまたこの三日の戦いでそれを知っている。暗い森から一切姿を見せない敵への攻撃は、そのほとんどが意味をなしていなかった。

 「少尉……もうダメです。私ははここで最後まで戦います。少尉は、……少尉もご自身のなさりたい様に」

 そう言ってヤムはもう二十人もいない兵士達の戦列に加わる。

 「ゲルマス、万歳!!祖国に、栄光あれ!!」

 兵士達には恐怖こそあれどもう迷いは無かった。高らかに祖国を讃える歌を歌いながら、敵への攻撃を、最後の足掻きを続ける。

 そんな彼らを前に、エディはただ立ち尽くしていた。

 ――ご自身のなさりたい様に……?

 その言葉を頭の中で繰り返し、その意味を、自身の回答を探し、そして空虚に辿り着く。


 恋人を失い、戦友を失い、最後に自身の命を失いかけている。その状況で、僕のしたいこと?


 エディは毎日教会通うというほどではないが、それなりに真剣に宗教に向き合う青年だった。

 だが、生まれてからの人生で、自分は何かを得ることが出来ただろうか。もちろん、神を信じることで、自身が何かを得られるなど浅ましい考えだとは思う。

 でも、だからといって、自分が、大切なものを失い続けてきたのは、奪われ続けてきたのは。

 「おかしいんじゃないのか!!」

 エディの叫びは、銃声や砲声にかき消され、誰にも届かない。

 しかし、兵士らの歌は絶え間なくエディの耳に流れ込んでくる。エディは忌まわしいそれから逃げるように走り出す。

 基地の、指揮室の残骸が残る辺りまで来たところで、エディははたと立ち止まった。 

 明らかに、銃声や砲声、鬱陶しい歌とは違う音が聞こえる。

 ザーザーと砂が流れるような音の中に混じる、人の声。

 そしてそれは、通信室の中から漏れ出していた。

 「……!?……」

 驚愕の表情を浮かべながらも、エディは崩れかけの通信室の中へと潜り込む。

 むせ返るような血の臭いと舞う土埃の中に、それはあった。

 ほとんどの機器が部品がどこかに吹き飛ぶか、何かしら突き刺さるかして動かなくなっている中で、小型の古い通信機が赤いランプを点滅させながら受け取った音声を垂れ流している。

 エディは這いずるように通信機に飛びつく。通信機の発信ボタンを押しながら叫ぶ。

 「こ、こちら第67前線基地!誰か、聞こえているのか!?応答願う、応答願う!!」

 一瞬のノイズの後、明瞭な男の声が通信機から流れる。

 「こちら、アルナカ連合軍独立戦略群「パトリオット」。私は「パトリオット01」だ」

 エディの両眼が更に見開かれる。

 「遅くなってすまない。君たちを助けに来た」


幼女まであと二話くらい……ですかね?

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