第一話 壊滅
ストーリー構想が進まない……
追記 何でこんな擬音語だらけなんだ……(困惑)
「こちら第67前線基地、メルベガ方面陸軍前線司令部へ! 援軍は、援軍はまだ来ないのか!? ……クソッ!!」
男は受話器を机に叩きつける。机の向かい側に立つ青年は机に両手をつき、溜息を零す。その顔には疲弊が見て取れる。この状態がもう一時間は続いており、前線基地のテント建ての小さな指揮室には、陰鬱な空気が流れていた。
「司令部は何と?」
部屋の中で最も階級の高い男、前線基地の指揮官が訊ねる。しかし、聞かずとも全員がわかっていた。
「援軍は派遣した。もう暫く待て、と……」
陰鬱な空気が更に重くなった。指揮官はテントの入り口から外を眺める。前線基地は森の中の開けた所にある。森の向こうで戦闘は起こっているのだが、微かにしか聞こえなかった戦闘音は、かなり大きくなっている。敵はもう森にまで侵入しているかもしれない。
「だ、第三防衛線指揮所から報告です!」
指揮室に隣の通信室の兵士が現れる。酷く焦っているようで、息が荒い。
「続けろ」
指揮官は報告の続きを促す。
「は、はい!第二防衛線は壊滅、敵戦車部隊、中隊規模!更に敵戦闘爆撃機二個中隊が接近中とのことです!!」
「第二線後方指揮トーチカからは?」
「は、呼びかけに応答が無かったため、恐らく破壊されたかと……」
「分かった。……報告ご苦労さん」
報告を終え、兵士が帰って行く。指揮室内の絶望感は決定的なものとなった。
「第二線全域がもうダメとなると……いよいよ撤退ですか……」
指揮室内で最も老齢の大尉が言う。指揮官は頷き、命令を下す。
「ルッカル少尉、通信室へ行ってこの前線基地の撤退準備を始めさせろ。九十パーセント完了次第、第三線へ撤退を命令。戦車を先行して撤退させろ。防空車両をしんがりに回せ」
「了解」
「それと、マクレーン少尉」
「はい」
指揮官は机に広げられた地図の一点を指し示す。そこは、森の中の、小高い丘になっている所で、第二線の辺りまで見通せる。
「ここで第三線を監視してくれ。……防衛線指揮所がやられたら誰も戦場の様子が知れなくなる。野戦電話を支給しよう」
「了解しました」
エディは、野戦電話のコードを指揮室の通信機と結び、コードを伸ばしながら森の中に飛び込み、丘まで走る。
発砲音や爆発音は大きくなり、兵士の断末魔が微かに聞こえるようになる。
丘にたどり着くと、背の高い草が密集した所にうつ伏せになり、ポケットから双眼鏡を取り出す。
覗き込むと、戦場の様子がはっきり見える。
第二線辺りでは、黒煙が所々に上がり、反撃の様子が見られない。
ズドゴッ
第三線のトーチカから発射炎が噴き出す。直後に二百メートルほど先の大岩に砲弾が喰い込み、炸裂。岩の破片が弾け飛ぶ。
バガァン
大岩の影から発射炎が光る。トーチカが弾け飛び、コンクリートが宙を舞う。
土煙が晴れると、巨大な風穴を開けられたトーチカの残骸がそこにはあり、コンクリート片とトーチカに設置されていた九十五ミリ砲の残骸が散らばり、トーチカの背後の岩には砲兵だったであろう赤黒い粘液がべっとりと張り付いている。
ギャリギャリと騒音を出しながら、トーチカを破壊した戦車が姿を現す。
そのウリューナ連邦生まれの「ゴキブリ」は、その小判状の胴体を這わせながら、次の獲物を狙う。
他の物陰からも、続々と「ゴキブリ」やそれに随伴する歩兵が現れる。彼らの兵器が火を吹くたび、第三線の兵器は次々と撃破されていく。
砕け散るトーチカ、重機関銃やロケット砲で果敢に反撃するも、吹き飛ばされる兵士達。
第三線の前に展開していた戦車隊は全滅寸前だ。
しかし、反撃の一部は「ゴキブリ」や歩兵を撃破している。ただ、問題なのはその反撃に統制がなくなってきていること。
「まずいな……」
エディは呟く。この様子では、防衛線指揮所も情報が混乱して指揮室へ報告が出来なくなっているかもしれない。エディは野戦電話に手を伸ばす。
その時。
「!?……何でだ?」
「ゴキブリ」とその随伴歩兵が後退し始めた。彼らは先ほど自分たちが隠れていた物陰の裏に回り、さらに後方へと撤退を続ける。
その不可解な状況にエディは首を傾げる。敵が見えなくなり、第三線の兵士たちも攻撃を止める。
そんな不可思議な状況が数秒続き、そして
ドウッ
静かになった戦場に響いた砲撃音に、エディは顔を上げる。
しかし、その微かな音は、敵の戦車からでも、味方の兵器からのものでもなかった。
「……!…」
エディは空を見上げた。
…………ヒュルルルルゥゥゥゥウウウウウウ
「……まさか」
ドッグワッッッ!!!!!!ボンッヒュルンッ!!
第三線の指揮所がある辺りが一瞬で土煙に包まれ、粉砕された大地が空に舞う。風切り音を上げながら砲弾の破片が散らばり、着地点にあったものを破壊していく。
撃ち込まれた砲撃の正体はエディの想像に半分正解していた。
エディは、微かな砲撃音と風切り音が、敵の迫撃砲によるものだと思ったが、その威力は迫撃砲のものを大きく超えていた。
「235㎜榴弾砲か……!」
エディは呟く。
土煙が晴れると、先ほどまであった指揮所は瓦礫を残して消え去り、周囲には紅い肉塊が人の形を残したものとそうでないものがあちこちに散らばっている。
塹壕から生き残った兵士達が這い出し、まだ息のある肉塊に駆け寄って塹壕の中に引き入れようとし始める。
しかしその直後。
ドウッドウッ………………ヒュルルルルルルルゥゥゥゥゥゥゥウウウ
外に出ていた兵士達は慌てて塹壕へ戻ろうと走り出す。
ドドゥグワッ!!バガァァァァァァァン!!ヒュンッッ
複数の榴弾が塹壕に降り注ぎ、生き残っていた者や兵器を容赦なく破壊していく。
塹壕に入れなかった者は先ほど自分たちが救おうとしたモノと同じ末路をたどり、入ることができた者も塹壕内に直撃した榴弾によって結局同じ末路をたどった。
物陰からは再び「ゴキブリ」が現れ、もはや動けずに呻くか、戦意を喪失し逃げ出すばかりとなった兵士達に容赦ない攻撃を加えていく。
第三線の壊滅は決定的なものとなった。
「クソッ」
エディは今度こそ野戦電話の受話器を掴み、電源を入れ、指揮室を呼び出す。
数秒の間を経て、指揮官が電話に出る。
「……マクレーン少尉。先ほど爆発音と共に防衛線指揮所からの通信が途絶えた。……まさか……」
「そのまさかです。防衛線指揮所……いえ第三線は壊滅しました。やったのは恐らく235mm砲、三基以上は展開しています。」
「……仕方ない、まだ準備は20パーセント完了するかどうかというところだが、撤退するしかあるまい……」
「はい、敵の戦車隊が基地を発見すれば、砲撃が始まりますから」
「……しかし、戦車隊からの報告だけで正確に指揮所が特定できたのか……?」
「できたんでしょう、としか言いようがありませんが……。とにかく撤収を」
「……まあ、いい。わかった。マクレーン少尉も戻ってきたまえ」
「了解しました」
双眼鏡をしまい、野戦電話を持って立ち上がる。そして基地の方向へ振り向き、
「……何をしている?」
そこには先ほど指揮室に報告に来た兵士が、通信機を背中に背負って立っていた。
「いや、あのォ……その……」
しどろもどろに言いながら、兵士は腰の辺りをごそごそとしている。
その手が彼のホルスターの中の拳銃に触れた時。
パァン
「質問に答えろ。何をしているッ!」
エディは自分の拳銃を天に向け、引き金を引いた。そして、そのまま兵士に向ける。
「基地は撤収作業中だ!そんな時に何故ここにいるッ答えろッ!!」
叫びながら、じりじりと距離を詰める。もう十メートルもない。確実に当てられる。
兵士はパニックになりながら何か言おうとするが、魚のようにパクパクと口を動かすだけで、意味のある内容が口から生まれない。
「あっ……そっ…あ……ああ、…そ、あの……」
そんなことを呟きながら、しきりに腕時計を気にしている。
「おい……いい加減に…」
ドウッドドドウッ…………ヒュルルルルルルウウウウゥオオオオオオ
聞き覚えのある砲撃音。
「ッ!!そういうことかァッッ!!!」
兵士が悲鳴を上げながらその場に伏せる。エディは兵士に駆け寄ろうとする。
ドドゴバッ!!!バグゥアアアアアアアアアアン!!!!
先ほどまでのとは比較にならない程の衝撃が森の中に轟く。
間もなくやって来た衝撃にエディは弾き飛ばされ、硬い地面で背中を打った。
「ッ……!」
荒い息を漏らしながら、頭の中を駆け回る痛覚の残響を耐えてエディは起き上がる。
何処から飛んできたのか、うつ伏せの兵士の首を木片が貫通している。背中の通信機にも木片が数個刺さっていた。
どうやら榴弾の一発が比較的エディらの近くに着弾したようだった。
兵士はひゅうひゅうと喉を鳴らしながら、死にたくないと呻き続けている。
エディは兵士を仰向けにする。その手つきは病人を扱うように優しかった。
「……苦しいか?」
「……ああ、苦しい……痛い……」
「いいか、お前はもう助からない」
「……」
「だから、僕が楽にしてやる」
「……」
爆発音が未だに響く森の中に、一発の銃声が微かに響いた。
走って戻ってきたエディは先ほどの第三線に勝るとも劣らない地獄の様相の前線基地を見つけ、近くを走っていった兵士を呼び止める。
「き、君。指揮室は、指揮官殿は!?」
「……指揮官以下四名は砲撃によって全員戦死しました。通信室も同様です。つまり、いまここの指揮官は、貴方です。少尉殿」
幼女はもうしばらくお待ちください