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脱走兵と幼女  作者: 後川
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第十話 空中戦

書きたかった空中戦なのに……!あまりにも稚拙…!!

 見上げる空を轟音と共に戦闘機が通り過ぎていく。漆黒の空に映える、少し緑がかった白の機影。主翼と胴体横に描かれた赤い星の、ウリューナ連邦軍のマーク。

 昼間に見たそれとは違い、かなり低空飛行をして飛んでいく。

 戦闘機たちは散開、その後正面に向けて対空ミサイルを放る。凄まじい爆音を響かせながら、白の航跡を空に曳きながら南へ飛び去った。

 刹那、彼方で微かに紅い光が舞った。


 「ランドキラー隊、エア1より制空隊長…、いやパトリオット01へ。我々は予定通り突入してよろしいでしょうか?」

 「構わん。敵の戦闘機は5機。君たちが到着するまでに我々が叩き落そう」

 「了解」

 「パトリオット01からパトリオット02へ。陸上部隊に出発させろ」

 「第一機動隊のみですか?」

 「そうだ。攻撃隊は必要ない。……それと、〈彼ら〉を」

 「了解致しました。……貴方が「パトリオット」の司令官なんですから、本来は貴方がやることなんですけどね」

 「すまないとは思ってるが、私はこっちの方が向いてると思うのでね」

 「もう私が司令官でいいんじゃないですかね」

 パトリオット01は苦笑する。

 レーダに敵機が映る。六機。

 本当なら、とっくにミサイルで全滅させられる。だがパトリオット01はそうしなかった。

 第一の理由は、ミサイルを使わないことで経費を削減するため。近々導入したい兵器があるので、高価なミサイルは使わないで済むならそうしたい。

 第二に、ミサイルなど無くても勝てるから。腕がどうこうの話でもなく、昼間の爆撃によって奴らの基地にはロクでもない型落ち機しか残っていない。昼間に爆撃機を多めに連れて行ったのは正解だった。

 アラート。ミサイルの接近により戦闘機はフレアを放出、自動的に急旋回する。旧式のミサイルは簡単に餌に釣られて炸裂。パトリオット01はシステムに身を任せ、急激なGを心地良いと言わんばかりの表情で後続のミサイルも楽々と躱す。

 距離が縮まり、ミサイルを使える距離ではなくなった。

 時代遅れのドッグファイトが始まる。

 HUDの中に白いラインを曳きながら相対速度二千キロですれ違った敵戦闘機の背後を、パトリオット01は事も無げに取る。

 機体が僅かに揺れた。

 相手パイロットの驚愕が目に見えるようだ。振り切ろうと懸命にもがくが、幾ら旋回を繰り返したところで、それは逆に機体の旋回性能で劣る自らを追い詰めるのみ。

 至近距離で機首の20ミリ機関砲が咆哮する。一秒にも満たないほんの一瞬の射撃。その一瞬に撃ちだされた数十発の銃弾が、戦闘機の機体を真っ二つに分断する。失速し急激に迫る残骸を躱し、パトリオット01は次の獲物を捜す。レーダに映る敵を追う。

 「パトリオット01から制空隊各機へ。ターゲット3は私がやる。あとの四機は好きにしろ」

 通信機の向こうから歓声が聞こえた。制空隊と言っても、たった3機の一小隊のみ。

 今回の攻撃部隊に参加する戦力自体、戦闘機三機、司令を行うパトリオット02の機体、攻撃機五機、軽戦車二輌、装甲車五輌、歩兵三小隊九十名と、ごくごく小規模なものだ。

 「もっと少なくてもよかったかな」

 パトリオット01は容易くターゲット3をスクラップに変えた。


 「クソッ……」

 ウリューナの戦闘機パイロットは操縦桿を握っていない左手をキャノピーを叩く。レーダから友軍を示す緑の点が一つ消えた。

 出撃した二小隊の内第一小隊の二機が瞬く間に撃墜されたのだ。

 「イワン、第二小隊の編隊に入れ!全機集合!!」

 「「「了解」」」

 四機の白の戦闘機が集まり、並走する。

 「十時の方向、敵機二機接近します」

 レーダ画面中央、自機に向かって凄まじい速度で迫る二個の赤い点。それが自機の点に重なる瞬間。

 「散開ッ!!!」

 瞬時に散った四機の直前までいた位置を20ミリの銃弾が貫く。

 初弾を回避した四機だが、即座に照準修正され撃ち込まれた銃弾に一機が主翼を叩き折られる。

 「ウラアアアアア!!!」

 僚機のパイロットが咆哮と共に機首の二挺の23ミリ機関砲を上空から急降下してくる敵機に正面から撃ち込むが、敵機は曳光弾が曳くラインをスルリと躱し、逆に20ミリ弾で主翼ごとエンジンを吹き飛ばした。制御を失った僚機が枯葉のごとくスピンしながら墜ちていく。

 だが、戦友の死を悼む間はウリューナのパイロットにはない。

 「ッ!!」

 強烈なGに顔を歪めながらウリューナのパイロットは敵機の後ろを取ろうとするが、ただでさえ旧式なうえにミサイルを複数発射できるように増設されたレーダ機器の重量が邪魔をする。

 「畜生、役立たずめ!」

 やがて敵機の方が背後に回って、

 射撃。

 「ッ!ゥラアア!!」

 間一髪で毎分6000発という暴力的な密度で飛来する20ミリ弾を躱す。しかし主翼の先端を削り取られ、機体がガタガタと揺れる。

 視界の端で、レーダ画面上の最後の緑の点が消えるのが見えた。

 「クソがあああああああああ!!!!!」

 主翼が折れるどころか空中分解寸前の常軌を逸した機動で敵機の背後を狙う。気流が乱れ、旧式の貧弱な機体が激しく振動し、主翼がたわむ。ぎりぎりと首が軋む音を聞きながら、敵機の背後に回る。

 視界が狭まり、頭がぼうっとする。辛うじて目に映るHUDの照準円の中心に敵機がいることを確認して。

 「死ね」

 発射レバーを引く。

 ―――。

 粉々に砕かれ散ったのは、「白い機体」の方だった。もう一機の敵機が、急降下しながらウリューナの戦闘機の先端から後端までを20ミリ弾で真っ二つに切り開き、圧力に耐えかねた装甲板が、キャノピーの防弾ガラスが、フレームが、そしてパイロットが粉々に霧散した。


 「敵戦闘機、全機撃墜。周囲に敵航空機ありません。制空権を確保しました」

 パトリオット01の遥か上空を飛ぶ管制機。その機長席に座するパトリオット02は報告する。

 「了解。――エア1、地上攻撃に我々も加勢するか?」

 パトリオット01の問いに、エア1は苦笑する。

 「いえ、必要ありません。――なんせ久しぶりの出撃なもんですから。派手に行きたいんですよ」

 「了解した。楽しんで来い」

 エア1は口角を吊り上げる。彼とて「パトリオット」の所属。狂犬の類だ。

 「聞いたか野郎ども!!派手に行こうじゃねえか!!!」

 四機の攻撃機から歓声が上がる。翼を軽く振る者もいた。

 エア1はHUDの右端に表示された兵装選択の欄を見やる。そして展開する兵装を選ぶスイッチを指でなぞりながら呟いた。

 「ど・れ・に・し・よ・う・か・なぁ~っと」

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