花見の出会い
「よ~し! お前ら、花見するぞ!」
いきなり野球部の部長が大きな声でそう叫んだ。それを聞いた俺はまたかと思いながらため息をついた。
部長がいきなり何かを言い出すのは今から始まったことではない。去年のクリスマスだって部活が終わった後、いきなりクリスマスパーティをやるぞと言って男だけのクリスマスパーティをやったからな。
俺はそんなことを思い出しながら、部長になぜこんな時期に花見をするのか聞くことにした。正直、この時期だったら春の甲子園を見に行った方が相手チームの情報を手に入るからそっちの方がいいと思う。
「あの~部長……なんでいきなり花見するんですか?」
「松、何を言っているんだ! この時期に花見をしない奴が居るか! そんな奴が居たら日本人としての楽しみを一つ、失っているぞ!」
部長は大きな声で俺にそう言った。ちなみに松って言うのは俺のあだ名。そして、部長の話は続く。
「それに新入部員も入ってきたことだし、お互いのことを良く知るためにいいと思ったんだ!」
……確かにお互いの良く知ればチームの団結力も上がるか。
俺がそう考えていると部長が花見の予定を言いだした。
「じゃあ、花見の場所は清水公園だ! 花見の日程は4月13日! つまり明日だ!」
部長がそう言うとみんなも楽しみになってきたのか騒ぎ始めた。
……花見か。たまにはいいか。
※※※
4月13日 午前8時 清水公園
「……んで、なんで俺が場所取りをやらないといけないんだ」
俺はそう独りごとを言いながら桜を見るための場所を探していた。
「ったく。あの部長……俺に場所取りを任せやがって。いきなりメールで場所取りはお前に任せたってなんだよ……」
俺は部長の悪口をぶつくさと言いながら花見をする場所を探した。
※※※
「よし、ここでいいや」
俺は花見をする場所を決めてそこに家から持ってきたレジャーシートを広げた。
「まぁ、こんなものかな」
レジャーシートを広げた後、俺は桜を見ながらそこに座った。
「……こうしてみると良いもんだな」
俺が桜を見ながらそう言うと……。
「確かに今年の桜はとても綺麗ですね」
俺の後ろから女の人が聞こえた。俺はその声に驚き、後ろを向いた。すると、綺麗な女の人が花見をしながら抹茶を飲んでいた。
「あなたもお花見を?」
「あっ、あぁ、はい。部活のメンバーと一緒に花見をする予定です」
女の人がそう尋ねてきたので俺は戸惑いながらそう答えた。
「そうなんですか。私もここで昔の友達とお花見をする予定なんです」
女の人がそう言うとまた桜を見ながら抹茶を少し飲んだ。そして、女の人は抹茶を少し飲んだ後、俺の方をじっと見ていた。
「……あの、何ですか?」
……俺、なんか悪い事した?
そう思いながら俺は女の人に恐る恐る尋ねた。
「あぁ、ごめんなさい。なんだかあなたを見ていると思い出すんです」
「思い出す?」
「えぇ、今から私に会いに来る友達の事を……」
女の人はそう言いながら桜を見た。そして、女の人は昔の事を思い出しながら俺に語り始めた。
「私が初めて彼女と会ったのはちょうどあなたと同じ年の頃で季節も春でした。私が桜を見ながら抹茶を飲んでいた時に彼女は不思議そうにこっちを見ていたんです。そして、私が一緒に抹茶を飲まないと誘ってみると彼女はおどおどしながら私に近づいてきたんです」
桜を見ながら女の人は昔の事を淡々と語っていく。
その語っていく姿を俺はじっと見つめていた。
「最初はびくびくとおびえていたんですけど、時間がたつにつれて彼女は自分の事を話すようになっていたんです。学校の事や部活の事、あと趣味の事も私に話してきてくれました。私も彼女の話を聞いている内にいつの間にか自分の事を話すようになっていたんです。そうしてお互い、自分の事を話し合ってその時のお花見は終わったんですがその後も彼女は私との交流を続けました。そうして私達はお互いの事を親友と呼べるぐらいに仲良しになりました。その仲は高校を卒業してお互いに違う道に行ってもその仲は変わることはなく……」
女の人は今から花見をしにくる友達の出会いを語った後、俺の方を見てこう言った。
「私は彼女と出会って出会いというものがとてもすばらしいと思いました。出会いというものはいつも突然です。あなたも一つ一つの出会いを大切にすればきっといい友達ができます」
女の人がそう言った後、俺は桜を見ながら野球部の仲間の事を思い出していた。
……いつか俺もあいつらに出会って良かったと思える時がくるんだろうか……。
そんなことを考えているとなんだかだんだんと眠くなってきた。そして、桜を見ながらあくびをしたその時……。
「こら~松!! 桜を見ながらあくびをするな!! 桜に失礼だぞ!!」
部長が訳わかんない事を言いながら全力疾走で俺の方へと走ってきた。
……とりあえず部長がこっちに来るまで桜でも見てよう。
「それに美人のお姉さんと花見をしているとはどう言う事だ!! 理由を答えなかったらお前を殺す!! 理由を答えてもお前を殺す!!」
……つまり答えても答えなくても殺されるのか。俺……って、冗談じゃないぞ!?
このままだと俺、殺される!?
は、早く逃げないと……。
そう思った俺は急いで何処かに逃げようとした。
だが……。
「まぁつぅ? 何処に行こうとしているんだ?」
……一足遅かった。と言うか部長、はやっ!?
「あの部長……これはその……」
「言い訳無用!! とりあえず殺す!!」
俺は部長に事情を説明しようとしたが部長は聞く耳持たずに俺の腋下に頭を入れ、両手を俺の胴に回した。そして……。
「くらいやがれ! 伝説の不良直伝! グレートアルティメットサンダ―バックドロップ!!」
部長は良く分からないネーミングセンスの技名を言いながら普通のプロレス技であるバックドロップを俺にくらわした。
俺は部長の良く分からないネーミングセンスのバックドロップをくらった後、こう思った。
……絶対この部長と出会って良かったと思う日はないだろう。
そう思いながら俺の花見はそこで終わっていった。