本当のパロスペシャル
タックルを狙い中腰状態の俺が抱いていたのは、モリスエや無くてコーナーポストやった…
愕然とした俺やけど、その背中を、突然の〝重さ〟が襲う…もちろん〝重さ〟の主はモリスエや。
奴は俺の突進を馬跳びの要領でかわしたけど、どうやら飛び越える事無くそのまま俺の背中に座っているらしい…
当然、いつまでもこのアホの椅子になってやる程、広い心は持ち合わせてへん!
背筋を伸ばしてモリスエを落としてやろうと考えた瞬間、俺の身体は中腰のまま突然自由を失ったんや。
続けてやって来たのは両肩を走る激しい痛み!
気付いた時には、空から舞い降りる猛禽類みたいなポーズで固められてしもてた…
いや…ちょっと格好よすぎる表現やったな…
どっちかって言うと、ガルウイングの扉を開いた車って方がしっくり来るかな?ハハハ…
自虐な事言うて自ら笑てる場合や無いっ!アホか俺っ!!
先ずは置かれた状況の確認やっ!
とは言え体勢が体勢や…首を目一杯斜め上に捻ってはみたものの、見えるのは天高く捻り上げられた自分の両腕だけ…
で…足下に視線を落としたら、奴の足が蔓の様に絡まってるのが見えた。
でも奴の足と俺の足は一緒の方向を向いてへん…
ここで自分の引き出しに入ってる技と必死に照らし合わせてみる…
固められてる型からすれば一番近いのは、ウォーズマンの必殺技で有名な〝パロスペシャル〟や。
せやけどパロスペシャルやったら、奴と俺の足が同一方向を向いとるはず…
なら、骨法の〝鷹羽締め〟?
いや、あの技は上に乗ったりせぇへん…
〝な、なんやねん…この技は?〟
考えが迷路に入りかけた時、ついにモリスエの声が聴こえて来た。
「勇さん、パロスペシャルって知ってるっスか?」
「グッ…し、知ってたら…なんじゃいっ!?」
「へぇ~…知ってるっスか?でも多分、勇さんの知ってるのはパロスペシャルじゃ無いと思うっスよ♪」
「こ、この体勢で…長話するつもりは…あらへんぞ!い、言いたい事あるんやったら…チャッチャと言わんかいっ!!」
「今、自分が掛けてる技…パロスペシャルっス」
「へ…?ア、アホ言えっ!パ、パロスペシャルやったら…俺とお前が…お、同じ方向…向いてるはずやろがいっ!!」
「やっぱキン肉マンの影響でそう思うっスよね?でも違うんスよ。ウォーズマンが使うパロスペシャルっスけど、実はあれ…リバースパロスペシャルなんス!で、自分が仕掛けてるコレ、互いの向きが逆になるのが正しいパロスペシャルっス!いわば〝真・パロスペシャル〟っス!!」
「な、何回〝パロスペシャル〟と〝ス〟言うねんっ!まぁ…技の講釈は解ったわい…でもな!こんな技はこうすりゃ簡単に返せるやろがぃっ!!」
子供の頃…キン肉マンで初めてこの技を見た時から思うとった…
〝この技、倒れたらハズれるんじゃね?〟
ってな。
「おっと勇さん…倒れてハズすつもりなら忠告しとくっスよ…やめといた方がいいっス」
「んなっ!?」
「この技、スタンディングで極められてもかなりキツいっスよね?でもグラウンドで極ったら、痛さは今の数倍に跳ね上がるっスよ♪」
「へぇ…そ、そりゃご丁寧なアドバイスを…どうも…で、でもなぁ…俺の狙いは…そこじゃねぇんだよっ!!」
叫ぶと同時に俺は自分の頭方向へと倒れ込んだっ!
「ガ、ガアッ!」
思わず声を上げてまう!
確かにモリスエの言う通り、比べ物にならへん程の痛みが首筋と肩を貫いたっ!!
倒れた事で頭方向への重力がかかり、肩がより深く極ってしもぅた…
「ほぅら…言わん事っちゃ無いっス…一応忠告はしたっスよ!んじゃこのまま一気にイカせて貰うっス♪」
意気揚々と言ったモリスエやけど、次に出た言葉は…
「ア、アレ?」
戸惑うモリスエに今度は俺からアドバイスや…
「お、俺の肩を更に深く極める為には…う、後ろに反り返るしか無い…せやけどここはコーナーや、お、お前は今…コーナーポストに凭れてしもてる…つまり今以上に反る事は出来へんっちゅう事っちゃ!!」
「くっ…!こ、これがアンタの狙いだったんスかっ!?」
苦い面で訊いてるであろうモリスエに、俺は余裕の笑顔で答えたんや…
「違ぇよバ~カ♪」
すると…それと被さる様にして俺の本当の狙いであり、待ち望んでいた声がようやく届いた。
「ブレイクッ!!」




