代理戦争
変形STFに固められ、焦った俺は急いでロープを目指した…
ズリズリ…ズリズリと少しずつロープへと近付いてゆく。
幸い体格差がある為、其ほど重さは感じへん。
そしてようやく手が届く!そう思った時やった…
「そうはいかないっスよ」
モリスエの声が聞こえた瞬間、俺の視界からロープが消えた。
代わりに見えた物は目映いばかりの白い光…
そう、天井から俺達を照らす無数のライトや。
モリスエの奴、俺の手がロープに届く直前にSTFの体勢のまま裏返りやがったんやっ!
しかもロープから遠ざかる様にリング中央方向へ!!
「へへへ…惜しかったっスねぇ…で、この技どうっスか?STFとロメロ・スペシャルの複合技っス♪キツイっしょ?」
「ざけんなっ!この程度の事、屁でも無いわいっ!!」
そう返してやりたい所やけども実際は…
「ガハッ…コフッ…」
首を絞められてるせいで声なんて出されへん。
涙と鼻水と涎も垂れ流し…せやけどそんなん今はどうでもええっ!とにかくこの状況をどないかせなっ!!
俺は首を少しずつ捻りながら、締めつけの緩む位置を探す。
そして首がほぼ真横を向く状態になった時、視界の端っこにモリスエのニヤついた顔が飛び込んで来た。
〝ム、ムカつくっ!!〟
無性に腹が立った俺は、本当に無意識のまま唯一自由に動く手で、下方向へとチョップを振っとった。
すると上手い事に、これが奴の喉にクリーンヒット!
「ゴフッ!」
奴は太い呼気の束を吐き出し、喉を抑えながら〝のたうった〟
お陰で技から解放されたけども、俺もダメージがデカくてその場で踞ったまま追撃は出来へんかった。
暫く2人してリングに突っ伏してたら…
「オラッ!どした!?動け動けっ!!」
「せやせやっ!頑張らんかいっ!!」
客席から野次が飛んだ…
〝こ、これはイカンッ!せっかくのデビュー戦やのに印象が悪ぅなる!!〟
そう思った俺はそそくさと立ち上がり、腕を組んで仁王立ち。そんで未だ立ち上がれへんモリスエを見下ろしながら言ってやったんや!
「全然平気だっ!!」
これを受けたモリスエもゆっくりながら立ち上がった。そして呆れた様に首を振ると…
「アンタの痩せ我慢には呆れるっス…しかし上手く逃げたっスね~、まぁ次はそうは行かないっスけど」
そう言って構え直した。
俺に対してほぼ真横に向けた身体で、前後にピョンピョン跳ねながら間合いを測る…
イメージとしてはメキシコのアウトボクサーって感じやな。
「へぇ…今度は打撃ってか?」
「それはアンタ次第っス。アンタの出方に合わせて打撃だろうが寝技だろうが対応するっスよ…なんせ自分のルチャはコマンド・ルチャっスから♪」
舐められたもんや…コイツ、完全に俺を下に見とるやんけ…
そうなるとこっちも懐刀を抜かん訳にはいかんなぁ…
純然たるストロングスタイルで闘うつもりやったけど、俺本来のスタイル…伝説の格闘プロレスであるUWFスタイルで対応させて貰おうやんけっ!
そう決めた俺も改めて構えを取った。
それまでの腰を落として両手を大きく広げたプロレス独特の構えをやめ、ムエタイスタイルのもう少し重心を落とした様な構え…
自分で勝手に〝シュート・アップライト〟と名付けた構えに変えたんや。
お前の背後にミル・マスカラスやタイガーマスク、そして獣神サンダーライガーが居るっちゅうんなら、俺の背後に居るんはカール・ゴッチや前田日明、そして船木誠勝やっ!
あ…敬称略ですんません
とにかくや…
これは互いの心酔するスタイルの代理戦争…
何が何でも負ける訳にはいかへんっ!!
俺は先ずローキックで攻めてみる。
勿論これは様子見の技や。
思った通り、きっちり脛でガードしよったわ…
流石は空手出身てところやのぅ。
せやけどお前気付いてるか?
たった1発のローで大きく後ろに下がってしもてる事に。
やっぱこういう所で体格差が物を言うのぅ♪
お?前に出るってか?いやいや、そうはさせへんで!そらもう1発、今度は左ミドルやっ!!
へぇ…これもきっちりガードするかぁ…流石に上手いのぅ。
でも残念やったな…後ろ見てみぃ?
今の1発でお前は完全にコーナーに詰められた…
ありふれた言葉で言うなら袋のネズミって奴っちゃ。
〝大チャ~ンス♪〟
そう思った俺は、前蹴りを出してそのまま深く踏み込んだ!
前蹴りを捨て技にしたタックルやっ!!
コーナーに追い込まれたお前は後ろに下がれへん…どやっ!?正面から受けるしか無いやろっ!?そうなれば体格差で勝る俺が有利や…これで一気に流れを掴むでぇ♪
え…あれ?
この腕にガッチリと掴むはずやったモリスエの身体…せやけど俺が抱き締めたんは、奴では無くコーナーポストやったんや…




