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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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ジャベ

「!?」

動いたと思った瞬間、モリスエの姿が消えた!

直ぐに横へと視線を振ったけど、モリスエの奴そん時にはもう俺の左手にあるトップロープに飛び乗っとった!!


〝やべ…!〟

本能的にガードを固めた俺…

せやけど来るはずの衝撃が何も()ぇへん…


〝??〟

不審に思い、ガードの隙間から奴が居た方向を覗いたら、そこにモリスエの姿はもう無かった。


「へへへっ!甘いっスよ勇さんっ!!」

その声は俺の背後から届いた。

反応して振り返ったんやけど、その直後ものごっつい衝撃が俺の肩口を襲ったんや。


「んがあっ!!」

俺は呻きながら大きく後方へ吹っ飛ばされとった!

ほんで下段ロープに凭れた状態で、だらしなくダウンを喫してしもた…

これはプロレスの試合…ダウンしたからって試合が中断されダウンカウントが入る訳やあらへん。

当然、モリスエからすれば追撃のチャンスな訳やが、あのアホは調子に乗って四方へポーズを取りながらアピールしとったわ。

その隙に呼吸を整えながら今あった事を整理すっか…


試合開始と同時に俺の左手へ飛んだモリスエ

大技を警戒してガードを固めた俺

ガードを固めた俺を嘲笑うかの様に、更に別のロープへと飛び移ったモリスエ

衝撃が来ない事で不覚にも警戒を解いてしもた俺

その隙をついて、トップロープから空中で前転しながらの踵落としを放ったモリスエ

ほぼ無防備で肩にそれを喰らった俺

ダウン奪って調子に乗るモリスエ←今ここ


フゥ~…

とりあえず喰らった場所が肩口で良かったわ。

もし頭にでも受けてたらヤバかったかもな。

しかし…浮かれとるあのアホを見てたら、段々腹ぁ立って来たで…

そろそろ立ち上がって〝お仕置き〟でもしたろかいのぅ。


「やれるか不惑っ!?」

俺が立ったのを見て、レフリーの五十嵐さんが大袈裟な動きを交えて訊いてくる。

勿論これは観客を意識しての動き。

せやけどこの直後、小声で俺に囁きはったのが笑えた。

〝アイツ調子乗り過ぎや…1発ガツンとイワしてもたれぃ〟

やとさ♪


レフリーの公認も得た事やし、ちぃ~とばかし〝ガチ〟の攻め手でも見せたろかいのぅ♪

そんな事を思いながら立ち上がると、モリスエがこちらを見ながらニヤリと嗤って言いよった。


「今のどうっスか?結構効いたんじゃないっスか?」


「せやな…開幕1発目にあんな大技…しかも飛び回転踵落としとはエゲつ無いのぅ~」


「あ、一応は手加減したっスよ♪」


「ほぅ…」

ちょっとキレた…


「初期のパンクラスじゃ無いっスからねぇ、秒殺するってのも大人気(おとなげ)無いっスから♪何より観客の皆さんもそんなの望んで無いと思うっス。でもこっからは一切手加減しないっスから、勇さんも本気で来てくれていいっス!」


プッツ~ン…これで完全にキレた。

俺は〝ファイト〟の掛け声も待たんと、一気にモリスエに詰め寄った!

そんで奴の手首を掴むとロープへ振ると見せかけて、かつて室田師匠に習った合気道の技〝四方投げ〟を仕掛けたんやっ!!

掴んだ手首を持ったまま奴の腕を折り畳み、そのまま背中の方向へ…


投げと名前はついとるけど後ろに倒すのが目的なんで、柔道の投げ技みたいに相手が宙を舞う様な派手さは無い。

せやけど決して逆らう事の出来へん技や…

技の流れに入ってしまえば、後ろに倒れるしか選択肢はあらへん!

ほんで倒れた所で〝関節地獄〟に引き摺りこんだろやないけっ♪

ところがや…

背中側へ押し込み、投げた時の感触が全く伝わって来ぇへん。


〝へ?か、軽…っ!?〟

違和感に気付いた時、奴は俺の前で立ってニヤニヤしとったわ。

俺は直ぐに気付いた。

モリスエは倒される勢いに逆らわず、その場で〝バク宙〟しやがったんやっ!

しかも捻られた腕の可動域限界手前でっ!!


〝コ、コイツ…ッ!?〟

俺はちょっとばかしモリスエを舐めてたんかも知れん…

空手の経験はともかく、器械体操出身で少しばかり身が軽ぅても、そんなもんはプロレスや格闘技ではクソの役にもたたへん…心のどっかでそうバカにしてた。

でも考えを改めなアカンみたいやな…

まさか体操の技術をこんな風に使うとは…な。

そう言やあ中国武術でも〝軽身功(けいしんこう)〟って身軽さを鍛えるのがあったっけ…


「驚いたっスか?身軽だとこんな事も出来るんスよ♪」


「あぁ…正直驚いたわ。せやけどたかだか1回攻めを凌がれただけや、まだまだイカせて貰うで」


「いや…残念っスけど、そうはいかないっス!」


そう言うとモリスエは、横からスライディングする様にして俺の足を挟み込む。

その勢いで俺はうつ伏せに倒されてしまった!

そしてそのままモリスエが、自らの身体をゴロゴロと回転させて、俺の両足を巻き取るみたいに折り畳んだ。

変形のSTFみたいな形で固められた俺…

その耳元で奴が囁く。


「勇さん…寝技に持ち込みたかったんスよね?ほらお望み通りになったっスよ?」


「クッ…!」


「俺が寝技を苦手だとでも思ったっスか?

そもそも古流の空手には関節技が多数あるっス。それに…ルチャを飛んだり跳ねたりだけって思って無いっスか?」

言いながら俺の足を絡めている部分に力を込める。


「ガアッ!」

思わず呻き声が漏れた…

〝ヤ、ヤバい!早よ逃げなっ…!!〟

そしてロープを目指して這い始めた俺に、モリスエの奴が尚も囁いた…


「勇さん…〝ジャベ〟って知ってるっスか?

知らなくても心配要らないっスよ…今から貴方の身体にたっぷり教えてあげるつもりっスから…」


その声は今までのモリスエからは想像もつかない程に重く…そして、空恐ろしく感じる物やった…





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