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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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リバプールの風

ついに…ついにや!

とうとう辿り着いたんやで…目指しとった眩しいこの場所に!

ライトの光が思ってたより強いんやな…

だからか裸でもかなり暑い。

俺は四方を見回しながら、プロレスラーになれた喜びを噛み締める。

せやけど…観客の顔を見ながらも、頭に浮かぶのは柔の顔やった。

そうやった…思い出したで…ここは通過点に過ぎんのやったわ。

プロレスラーになれた事は確かに嬉しい。

でも俺が…俺達が目指すのはもっとその先にあるんやった…そうよな?柔よ…


アカンアカンッ!

感傷的になるんは未だ早いっ!!

とりあえずは目の前におるコイツ…モリスエこと喜界 泰造をブチのめさんとなっ!

悪ぃなモリスエ、お前は俺が目指す覇道の第1歩…踏み台にさせて貰うでぇ♪

しかし…なんやそのマスクは?

まさかデビュー戦でマスク被って出てくるとは思わんかったわ…

しかも白地で額部分にMの一文字って…

完全にマスカラスですやんっ!!

それにお前の名前にMって全く関係無いよね?

ハッ!ま、まさか…モリスエか?

モリスエのMなんかっ!?

ア、アダ名の方のイニシャルでマスク作るって…正気ですか?と問わずにはいられないっ!!


それともう1つ…

マスクマンって正体がわからんからこそミステリアスやのに、お前…入場の時に本名でコールされちゃってる事を自覚してる?

まぁ…ライガーさんみたいに正体が暗黙の了解な存在も居るし…うん、まぁ…いっか…


レフリーの五十嵐さんが、ボディチェックしながら凄い形相でモリスエを睨んどる…

そりゃそうやわなぁ…俺達新人は派手な事の一切を禁じられとるんやから。

それをデビュー戦で勝手にマスク被るって…

まぁ前代未聞やろなぁ…

でもやっぱ辛抱たまらなくなったんやろぅな、ついに五十嵐さんがモリスエに声を荒げてしもた。


「なんや喜界そのマスクはっ!?ふざけとるんかお前っ!!直ぐに外せっ!ほらっ今直ぐっ!!」


ところがモリスエの奴、腕組みして仁王立ちしたままこう言い放ったんや。


「喜界 泰造はリバプールの風になったっス…

自分は…自分はマスク・ド・モリスエっス!略してM・Mっス!!」


マ…マスク・ド・モリスエ…?

ク、クソだせぇ!!

五十嵐さんも呆気に取られとったけど、直ぐ諦めたみたいに首を振ってそのまま試合開始のゴングを要請したわ。


澄んだ金属音が会場に響く。

そう広くも無い会場だけに、暫くはその余韻が残ってた。

さあ!なんにせよ俺のプロレスラー生活がスタートした訳やっ!

練習生や無くて、モノホンのプロレスラーとしての…なっ!

よし、ヨタ話はここまでや…試合に集中せんとな。

ここでようやく俺はいつもの儀式を執り行った。

右肘の内側に左手をかけ、腕を折り畳みながら右手の中指を立てて見せる!


「これは俺のシュートサインや…恨みっこ無し、ほんでもって手加減も無しぞっ!?」


「フフン、のぞむところっス♪」


さて…どう動くよモリスエ?

お前が目指してるっちゅう、空手と器械体操を融合させた新しいルチャ・リブレ…コマンドルチャとやらを見せてみぃや♪


そんな事を考えた瞬間、視界からモリスエの姿が消えた…


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