表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
中指 立てたら  作者: 福島崇史
94/248

天地無用?

〝え?〟

先ず口をついたんはその一言やった。

観客も驚いたんやろな…モニター越しでも会場がザワついてるのが判ったもの。

それもそのはずや…

だってティラノの奴、いきなりリングに座り込んだんやから。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


いやぁマジで驚いたっスよ!

控え室のモニターに向かって思わず

〝マジっスかっ?〟

って話し掛けちゃったっスもん。

だってね、虎池さんはアマレスで全国的に名を馳せた猛者っスよ?

対する寺野さんの実績は…ケンカだけっスよ?

そんな寺野さんがリングに座して、虎池さんに手招きしたんスよ?

そりゃ驚くのも当然じゃ無いっスか?


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


へへへ…面食らっとるみたいやなぁ…ええ?虎池よ!?

まさか俺がお前を寝技に誘うなんて思って無かったやろ?

せやけどなぁ、これは決して〝ポーズ〟なんかや無いんや。

お前は寝技に絶対の自信を持っとるんやろけどな、その伸びに伸びて伸び切っとる鼻…

ポッキーンと折ったろやないけ♪



……?

なんのつもりだ…寺野よ。

この俺に寝技勝負を挑む…だと?

勝算があっての事なのか?

いや…しかしお前はお世辞にも寝技が上手いとは言えなかった…

実際に道場でのスパーリングで、俺がお前に1本取られた事は1度も無い。

ならば何故こんな行動に?

罠?

……ええいっ!ままよっ!

考えていても埒があかんっ!

罠であれ(なん)であれ、挑まれたなら受けない訳にはいかんよな!!



虎池が俺と背中を合わせる形でリングに座した。

これは道場で寝技のスパーリングをする時のスターティングポジション。

へへっ♪流石は虎池や…

あえて誘いに乗ってくれたか…感謝感謝やでぇ♪

そして奴が小声で呟きよった。

〝いつでもいい…お前のタイミングで始めろ〟と。

く~っ!舐められたもんやで…

でもまぁ…

ほな遠慮なく…

行かせて貰いまっさ!!

振り向いた時、奴はまだ背中を見せとった。

〝チャ~ンス♪〟

俺はそのままバックを取り、うつ伏せに押し倒そうとした!…んやけども…

奴は俺の腕のクラッチを切ると、そのまま巻き込むようにして俺を横倒しにしよった!

今は袈裟固めの形で俺を抑え込んどる!

流石に上手いな…とでも言うと思っとるんやろけどな、残念ながらこん時の俺はこない思ってたんやっ!

〝お?へへへ…やっぱそう来るかぁ♪〟




なんのつもりだ…寺野?

いつも通りの展開だぞ?

まさかこの程度の技術で俺に寝技を挑んだのか?

ならば…

望み通りこのまま寝技で終わらせてくれよう!

っ!?

な、何っ!?


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


なるほど…寺野が寝技勝負を挑んだ理由がわかったわ。

デビューが決まってからの俺達は、互いに直接スパーリングする事を避けて来た。

だから気付かんかったけど…アイツ、この数ヵ月でメチャクチャ寝技が上達しとるわっ!

何やら外部の道場に通ってるって噂は耳にしてたけど、どうやらあの動きは柔術やな?

袈裟固めされながらも、トリケラの頭部に足を掛けて腕十字を狙いに行きよった。

せやけどトリケラもそう容易くは取らせへん…

頭に絡みつく足を何度も振りほどきながら、隙を見て横四方固めに移行しようという動き…

するとティラノの奴、エビの動きで身体の位置をずらして抑え込みから逃げる!

更に追うトリケラ!

ティラノは仰向けのまま身体を4分の1回転させると、そのままトリケラを両足で挟み込んでガードポジションの形に持ち込んだんやっ!!


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


凄かったっスよ…寺野さんのあの執念は。

常に上のポジションは虎池さんが取ってるんスけど、寺野さんは下からでも執拗に関節を狙ってたっス…

ガードポジションから足を絡めて三角絞め…

それを凌がれたら腕十字…

攻めてるのは圧倒的に寺野さんだったっス。

ずっと上のポジションなのに、虎池さんは防ぐのがやっとって印象を受けたっスね…


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


くっ…どういう事だ…?

何故に俺が攻め込まれている?

ずっと俺が上を取ってるはずなのに…

いや!それよりも…

コイツ…いつの間にこれ程の上達を?

1つ外しても別の技を…それを外してもまた別の技をと、立て続けに仕掛けて来る…

これは…ブラジリアン柔術…かっ!?



ど~だい…虎池よ?

いや…流石だわ。

流石はアマレス出身だけあって上を取るのが上手(うめ)えわ。

だがよ…俺はそれを見越してたんだよ!

アマレスはその競技性から下になるのを極端に嫌うよな?

となりゃ地力で劣る俺が常に下になるって訳だ…

なら俺はどうすりゃあいい?

答えは1つだ…下から攻める技術を身につける!

その為にこの数ヵ月、大嫌いなブラジリアン柔術の道場にも通った…下げたくも無い頭を下げてな!

それもこれもお前に勝つ為!

その為の投資と考えりゃあ、頭下げるくれぇは安いもんだ♪

だがよ、まだまだ投資分は回収出来てねぇ…

これからお前を更なる関節地獄へ案内してやっからよ、楽しみにしてな♪


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・


この時リングアナウンサーの声が会場に響いた…


「10分経過!試合時間、残り5分!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ