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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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歪(いびつ)な友情 後編

思った通り、河童の奴はゴングと同時に突進して来よった。

しかし俺は、それと同じスピードで後方のロープに向かって走ったんや。

そして…呆気に取られる奴に向けドロップキック一閃!

オカダカズチカみたいに打点も高ぁ無いし、お世辞にも綺麗なフォームとは言えへんかったけども、下から突き上げる様にして河童の顎をまともに捉えたっ!!


すると…俺がリングへ落ちるより先に、リングが揺れる音が耳に届いたんや。

勿論それは奴が倒れた音…

そして俺が立ち上がった時にはゴングが打ち鳴らされとったんや。

俺はリングに落ちよったから見てへんねんけども、ソッコーでレフリーが試合を止めたらしいわ。

なるほど…改めて河童の様子を見ると、白目を剥いてマウスピースも吐き出しとった…ちぃとばかしクリーンヒットが過ぎたみたいやな…

まさにクリティカルヒットっちゅうやっちゃ。

歓声とどよめきが包む中、直ぐにドクターが上がって来てリング上が一気に慌ただしくなった。


「アカンッ!折れとるわっ!!」


「担架や担架っ!(はよ)ぅ持って来いっ!!」


ドクターとセコンドの怒声にも似た物が飛び交い、やがてスタッフの持って来た担架が到着した。

河童の奴も意識は戻ってたけども、まだ呆けた表情で定まって無いって感じや。

俺は担架に乗せられた河童の側に(ひざまず)くと、敬意を込めながらその手を握った。

言葉は何も掛けへんかった…


運び出されて行く河童、その姿が見えなくなるまで頭を下げて見送った俺は、セコンドに頼んでマイクを持って来て貰ったんや。

スイッチを入れた瞬間、ハウリングが会場を包んだ。

そのお陰か、未だざわついていた観客が静まって俺に注目してくれた。


「え~…先ずはご来場頂きありがとうございます…」


拍手が収まるのを待って更に続ける。


「8秒TKO勝ち…結果だけ見れば俺の圧勝に見えますが、ご存知の通り河童選手は強豪です…あのドロップキックが外れていたら、担架に乗っていたのは俺の方だったかも知れません。だから…どうかお願いです…彼を、河童選手を称えてあげて下さいっ!」


俺が四方に頭を下げると、直ぐさま拍手と歓声が飛んだ。一部では河童コールも巻き起こってる。

まだそれが収まる前にマイクを構えると、数秒後にはちゃんと静まってくれた。


「実は今日、俺があの技を…プロレス技を使ったのは理由がありますっ!それは…

1週間後、ここ神戸サンボーホールにてある男が所属団体である〝セレクト〟よりプロレスラーとしてデビューしますっ!!

その男は俺の高校の同級生にして親友、そして最大のライバル!名を不惑 勇といいますっ!!

俺は高校の時、そいつとある約束を交わしました…その約束の内容は未だ言えませんが、この男はその約束を果たす為に必ずプロレス界に於いてトップとなる男ですっ!

ですが…応援してやってくれとは言いませんっ!ただ、不惑 勇…この名前だけは覚えて帰って下さい!後悔はさせませんっ!

応援するのは奴の試合を見て、気に入ってからで構いませんっ!

不惑 勇…覚えにくければファッ○ユーと覚えて下されば結構ですっ!どうか…どうか宜しくお願いしますっ!!」

頭を下げた俺を静寂が包んだ…


〝ヤベェ…やっぱ場違いな事を言うてしもたかなぁ…〟


焦った俺やけど、数瞬の(のち)には割れんばかりの拍手が巻き起こったんや♪

良かった…ホッと胸を撫で下ろした俺は、下げていた頭を上げる勢いでそのまま会場の天井を見上げとった…


〝俺がお前にしてやれるのはここまでや、あとは自分の力で何とかせぇ。勇よ、俺はこのまま駆け上がるでっ!だから早くお前も追い付いて来い…先に頂点(てっぺん)で待っとるからよ…〟




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