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中指 立てたら  作者: 福島崇史
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その名はハイブリッド勇

島井との試合から1週間が過ぎた(柔の奴はケンカや言うけど俺は試合と言い張っとる)

これまでツルむ相手は柔くらいしかおらんかった俺やけど、今では1人増えてすっかり3人組や。

え?誰が増えたんかって?

もちろん島井に決まってるやん!


コレ…コレやねんっ!

俺が求めてるっちゅうか、望んでる闘いってのは!!

互いを認め合い、闘った相手とツレになれる…

敵やなくて仲間が増える…

そんな闘いがしたいねんっ!

遺恨の残るケンカとは違う。

せやから柔が何と言おうと、島井との闘いも俺にとっては試合やったんや。


それに、あの闘いがあったからこそ室田師匠とも知り合えた…

まあ、これは〝後のせ〟みたいになるけど、結果的に人の輪が拡がった訳やん?

せやから俺はまだまだ強くならなアカン!

皆と仲良くなる為に強くなるんやっ!!

俺が目指す格闘王の姿…

それは皆を平伏させての王様やない。

皆に認められた上で頂点に立つ王様なんや。


まぁ前置きが長くなったけど、俺なりの決意表明みたいなもんやと思って貰えたらコレ幸い。

で、今日は室田師匠との練習も無いんで、学校が終わった後に板宿駅で島井と待ち合わせたんや。ん?もちろん柔も一緒やで!

言うても特に何をするでも無く、板宿商店街をブラブラしとるだけやねんけどな…ハハハ


「ところでゴリポン…お前、柔道部の練習はええんかいや?」


「誰がゴリポンじゃっ!次にゴリポン言うたら、そのうざったいドレッドヘア1本残らず毟り取ったるどっ!」


「わかったわかった…すまんなゴリポン♪」


「わかりゃええんや。ま、練習言うても、ワシら3年は実質引退しとるさかいのぅ…みんな進路決めなアカン時期やからな」


「なるほどねぇ…で、お前は進路どうすんの?」


「ワシか?ワシは柔道での進学がもう決まっとる。名門・国士舘や。ほんで数年後にはオリンピックのメダリストっちゅう訳やな♪どないや?今の内にサインしといたろか?」


「要らんわ!しかし…喋れて、字も書けるとは…さてはお前!ゴリラ界のエリートやなっ!?大学に進学するゴリラて史上初やろっ!?そうなると話は別やな…やっぱサインして貰っとこかな」


「せやろ♪よっしゃよっしゃ!…ってワレ!またゴリラ言うたなっ!!」


「いや…お前がゴリポン言うなっちゅうから、わざわざゴリラに変えてやったんやど…感謝されこそすれ、文句言われる筋合い無いわいっ!」


「か、感謝て…する訳あらへんやろがいっ!

それにお前、あの後にも1回〝すまんなゴリポン♪〟って言うたやろっ!?」


「あ…気付いてたんや」


「気付かいでかっ!よっしゃ!勇っ!こいつの髪の毛刈ったるさかい、そこらでバリカン買うてこいやっ!!」


「やめれぇ~~」


ここで見かねた俺が奴等を諭す。

「お前ら…いくらなんでも騒ぎ過ぎやで。

ここは公共の場やねんぞ。

だいたい島井よ…お前はほんまにゴリラそっくりやねんから、ええ加減呼ばれる事を受け入れろや。

それと柔、こいつには島井〝ブサイクゴリラ〟象山てミドルネーム入りの立派な名前があるんや…それをゴリラだのゴリポンだのと…失礼やぞ」


「お…おう…」


「ワレが一番酷い事言うとるけど、そない冷静に言われたら怒る気にもならんのぅ…むしろワシが悪いみたいに思えて来たわ…」


シュンとなった2人に俺は胸を張って言ってやった。

「わかりゃええんや」


すると柔の奴が突然とんでもない事を言い放ちよった…

「せやっ♪今から気晴らしにナンパ行かへんっ!?」


「な、なんやいきなり…」


「ほんまやど…今の話の流れからどうやったらそうなるんや?ワレの頭の中ケーキでも詰まっとるんけ?」


「いやいや!悪くなった空気を払拭するには、オネエチャンの存在が一番やんけっ♪これ世界の常識やろ?

それにやな…こう言っちゃなんやけども君達2人共にまだ童貞やろ?イカンッ!そんな事じゃあイカンぞ君達っ!!今しか無い若き春、青き春を謳歌せにゃあ勿体無い!」


「…」


「…」


「でだな、ここはドレッドヘアーの女殺しと謳われたこの俺がレクチャーしてやろうと言う訳よっ♪てな訳で今から須磨行くど!」


「須磨?」

俺と島井が声を揃えた。

すると得意満面の柔が言う。


「応よ!須磨駅にはな、この界隈の暇を持て余した女子高生が集まってるんよ♪

頭も尻も軽い子がい~っぱいな♪

もう行く度に釣れる入れ食い状態やから、俺は須磨駅の事を心の中でこう呼んどる…

釣り堀…とな」


(よし、とりあえず須磨駅に謝れ!)

俺が心の声を口にしようとした時、島井が先に口を開きよった。


「先生…よろしくお願いします!」


「ん。苦しゅうない♪」


(マ、マジか…こいつら?)

意外なところでナンパ師弟爆誕!


結局俺達は柔の口車に乗せられ山陽電車で須磨を目指す事となり、行く途中の車内でお互いの事を色々話した。

柔と俺は付き合いが長いけど、島井はまだ日が浅いだけに知らない事だらけやった。

その中でも特に驚いたんが、島井が実は4兄弟で上に3人の兄が居るという事。


象風(しょうふう)象林(しょうりん)象火(しょうか)…そして象山(しょうざん)

つまり兄弟で風林火山。

親御さんのセンスを疑うネーミングやな…

そして全員が今も現役でなんらかの格闘技をやっていて、それなりの成績を残しとるらしい。

島井〝格闘〟4兄弟って訳やな。

すると柔の奴、こんなとこでも女好きを発揮しよった。


「なんやお前、名字は島井(しまい)やのに全員男かいや…1人くらい姉妹が混じっててもええもんを。しょうもなっ!パパンとママンはセックスのやり方を間違っとるっ!!ちょっと俺が説教がてら指南したらなアカンなっ!」


「…ワレ、それうちのオカンとオトンの前で言うたら殺されっぞ。なんたってうちは両親共に柔道のオリンピック強化選手やったさかいな」


「……島井くん…ものは相談だが…今のは聞かなかった事にしてくれないだろうか?」


「いやいや先生、頭をお上げ下さい!先生にはこの後で色々教えて頂かなくてはなりませぬ故!!」

2人が顔を見合わせてニッコリと笑い合っとる…やだ気持ち悪い。

まぁコイツらの立場は入れ代わり過ぎてよく分からんけども、とにかく利害が一致したみたいで何より。

それよりも島井の奴、御両親までが格闘家って格闘兄弟どころかまさに格闘一家やんけ!

ヤリチンの柔と違って、俺はそこへと喰いついた。


「御両親が柔道の強化選手やったって事は、それこそお前はハイブリッドっちゅう事やんけっ!」


「…」

柔が黙る。


「…」

島井も黙る。


あ!ちょっと難しい言葉を使っちゃったかなぁ僕ったら♪脳ミソまで筋肉の彼等だもの、ハイブリッドなんて言葉知らないよねぇ…


すると柔と島井が互いに顔を寄せ合って、ヒソヒソ話を始めよった。

(よぅ柔…今コイツ、ハイブリッドとか抜かしよったけど、何の事っちゃ?)


(あぁ…お前はまだ知らんやろけどな、コイツはマジもんのバカやねん…多分今のもサラブレッドって言いたかったんやと思う…な?ヤバいやろっ!?)


(マ、マジかっ!?そりゃ本物や…ほんまもんのアホやんけっ!やだ怖い…)


「お前ら…ヒソヒソ話ってのは本人に聴こえんようにするんが基本やぞ…」


「あ、聴こえてた?」


「おかしいのぅ…気を使ったつもりやったんやが…」


「嘘つけっ!絶対ワザとやろっ!!」


「おいおい勇…商店街で騒いだ俺達を(たしな)めといて、自分が電車内で騒ぐんは如何なものかと思うで」


「せやせやっ!ちったぁ静かにしたれや…ハイブリッド勇君♪」


「っ~!ブッ飛ばすっ!!」


そうこうしてる間に俺達は須磨に辿り着いた。

女子との目眩く時を夢見ていたはずが、あんな事になるなんてこの時はまだ想像もしてなかったんや…



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