歪(いびつ)な友情 前編
昨日、久々に〝アイツ〟から連絡があった。
卒業してからも時々連絡は取り合っとったけど、暫く間が空いとったから〝アイツ〟と話したんは、え~っと…約3ヶ月ぶりかな?
ほんまは電話や無うて直接会いたいところやけど、〝アイツ〟が外出出来へんからそこはしゃあないよなぁ…
ん?会話の内容?
ハハハ…相変わらず他愛も無い与太話やで。
互いの近況報告して、あの頃ツルんでた仲間達の近況を〝アイツ〟に教えてやって…
あとは…若い野郎同士がする話って言やぁ解るやろ?まぁそこは察してぇな♪
とにかく30分程の会話やったけど、高校ん時と何等変わり無い時間…
あの頃に戻ったみたいで楽しかったわ♪
〝コンコン〟
お?呼びに来たみたいやな…もうそんな時間か…
「はい、どうぞっ!」
ノックに応じた俺の返事が終わるより前、少々食い気味にドアが開いた。
「暮石選手、そろそろお願いしま~すっ!」
ドアの隙間から顔だけ出した係員は事務的にそれだけを言うと、さっさとドアを閉めて去って行った。
そう…今日は俺、暮石 柔が久々に試合をする日で、〝アイツ〟は昨日、その激励の意味も込めて連絡して来たんや…泣かせるやろ?
まぁ〝アイツ〟自身も俺にデカい報告があった訳やけども…まぁそれは置いといて。
半年前に試合で肘の靭帯を伸ばしてしもて、手術やらリハビリで試合どころか練習もままならんかった俺…ようやく練習が出来る様になったんが3ヶ月前やった。
練習が出来へんかった3ヶ月間、〝アイツ〟は俺に一切連絡をして来ぇへんかった。
人によっては〝薄情やっ!〟なんて思うかも知れん…けど、俺はそれが嬉しかった。
弱って、参って、焦ってる所を親友には見せたぁ無いからな。
まして〝アイツ〟は親友であると同時にライバルやから尚更や。
きっと俺が逆の立場でも〝アイツ〟に連絡はせぇへんと思う。歪かも知れんけど、それが俺達の友情の形なんやろな…
自分で言うのも何やけど、ありがたい事にそれなりに注目されててさ、格闘技雑誌やサイトでも時々記事にしてくれる訳よ。
〝アイツ〟もそれを見てくれてるんやろな…
練習を再開した3ヶ月前、その日の内に連絡をくれたんや。
「おめでとう」の一言も言いよらへんけど、その気持ちだけは十分に伝わった。
そして昨日、半年ぶりの試合の前日にも連絡をくれた。
やっぱり「頑張れよ」の一言も言いよらへんかったけどな…ハハハ!
しかし…リングに向かう花道で試合に向けて集中すべきやのに、何が悲しゅうてあのアホの事を考えてるんやろな…俺。
ま、俺も〝アイツ〟と同じアホっちゅう事なんやろな。
リング上、青コーナーでは既に対戦相手が待っとった。
川流 河童っちゅうフザけたリングネームやけども、15戦12勝2敗1引き分けの強豪や…
しかも12勝の内で判定勝ちは3戦だけ。
残りの9勝は全て打撃でのKOか、関節技での1本勝ちって事やな…
復帰戦の相手としちゃあチィ~とばかしキツい相手やけども、今日は何が何でも勝たなアカンねん!勝ってどうしても〝やりたい事〟があるねんっ!!
リング下で1度足を止め相手の顔を見る…
おぅおぅ…血走った目ぇしちゃってぇ
ヤル気満々やのぅ♪
せやけど俺は、一切視線を外さんままでロープを潜ってリングインした。
コールを待つ間もコールを受けてる時も、一瞬たりとも視線は外さない。
すると奴の方の目付きが明らかに変わって来た。
いわゆる〝メンチを切る〟って感じにな…
ハハハ、とっぽい奴っちゃで♪
リング中央でレフリーから反則事項の確認を受ける。その間も当然視線は外さない。
奴はキスを迫る勢いで、上下に揺らした顔を俺に近付けやがったわ。
鼻息はかかるし、息は臭いし…最悪ですわ…
そしてゴング前…自軍のコーナーへ戻る時も、奴へ視線を投げたまま後ろ向きでコーナーへと戻った。
そしてゴング直前、鼻で嗤う感じで初めて視線を外してやったんや。
奴は案の定ブチ切れた表情になりよった!
へへへっ作戦通りや♪
そしてついにゴングが鳴った!
せやけど…まだゴングの余韻も消えへん内に、もう1度ゴングが打ち鳴らされたんや…




